無縫地帯

「80%の国民が説明不足」の安保法制ですが、政府が公式にちゃんと説明したら大変なことになりそう

地政学や安全保障をある程度学べば、憲法違反な雰囲気はともかく目的は分からんでもない今回の安全保障関連法制の議論。どう説明しても「中国は信用できない」内容になるため、公的に説明するのは難しそうです。

山本一郎です。名前は分かりやすいんですが、よく間違われます。

ところで、国民から説明不足8割とか、戦争法案などと揶揄されて不評極まりない今回の安保法制ですが、そもそも憲法違反だって話になるとなかなか国民の支持が集まらないのは当然ですね。

その不人気な政策を憲法違反という結構クリティカルな論難を受けても前に進める背景はあまり整理されてないのが気になります。先週も少しフジテレビ系『ホウドウキョク』で喋りましたけど、複雑に書くと分かりにくいので、簡単に整理するとこういう感じになるんでしょうか。

■1. 日米安全保障条約・アメリカの核の傘に守られた日本の平和

戦後、沖縄返還などもされて日本は安全保障上はアメリカの核の傘(核抑止力)に守られて高度経済成長を果たしました。

コトバンク 核の傘

■2. 冷戦の終わりと中国の台頭

日本のエネルギー政策は、毎日100億円強の中東からの原油輸入に頼っていました。

アメリカとソ連による冷戦が終結、また日本も高度成長が終わると、共産主義下で資本主義経済を成功させた中国が台頭してきました。
緑丸が、今回の安保法制で念頭に置かれている怪しい部分です。

[[image:image01|center|原油も石炭もない日本がエネルギーをえっちらおっちら中東から輸入するぞ絵巻。遠い。]]

拝借元: シーレーン関連の図

■3. 中国の海洋進出と米中対立

その運び道で中国が膨張主義的な領海主張を強化。周辺国との緊張が高まりました。

海洋だけでなく、サイバー攻撃や閉鎖的な中国経済による国内利益の独占問題もあり、米中対立が激化しました。

[[image:image02|left|これも定番、中国のジャイアン的領海主張絵巻。全部中国のものという主張で清々しい]]

拝借元: 中国、南シナ海で外国漁船の取締りを強化日本の排他的経済水域でも海警局が漁船立ち入り

■4. 日本の役割

とはいえアメリカも軍事予算を縮小しているので、日本やフィリピン含めみんなで南シナ海・シーレーンの防衛を分担する方針です。

■5. 誰からシーレーンを守るの?

議論としては「じゃあいままで問題なかったシーレーンを誰から守るの?」ってことですが、要するに対中国ですね。

■6. 能書き

説明不足の理由って、たぶん政府が公式に「やー、日本のエネルギー調達の海洋運搬路が中国の海洋進出で危ないんすよね。憲法微妙にすっ飛ばしてアメリカと一緒に集団安全保障を南シナ海でやりたいと思うんで、よろしく」とは言えないってことじゃないかと思うんですけどね。

でも日本の国民の8割が説明不足だっていうのであれば、米中対立、アメリカ側についている日本、中国の海洋進出といった情勢になったので、アメリカにぶら下がっていれば安全が守られていたおとぎの国の日本ではなくなりましたサーセン、ってちゃんと事実関係を説明すればいいじゃないかと思います。言いづらいだろうけど。

あと、中国から食らっているサイバー攻撃関連もね。

ただ、日本と中国は依然として重要な貿易相手国だし、日本人も日系企業も大量に中国本土にいる現状で、うっかり日本政府が「国民にきちんと中国の脅威を説明して」現地の日本人の生命や財産が脅かされてしまっては元も子もないので、むつかしいですね、はい。

■7. 内閣官房のホームページが分かりにくすぎる件で

これ見て一般の国民は興味もって検索で辿り着いても理解不能じゃないかと思います。

平和安全法制等の整備について

なんかこう、もう少し「政府としてはこういう問題あると思ってるから、こんな話をしとるんやで」という分かりやすそうなポンチ絵でも作成すればいいんじゃないでしょうか。

なお、諸外国の安保法制についてのオフィシャルは、FACEBOOKに田中慧さんが外務省に資料作成させていた画像が掲載されていましたので、興味ある方はご参照ください。

まあ、常識的には集団的自衛権というのは各国普通に自国の権利として具有していて、平和憲法によってこれを放棄しているのは我が国ぐらいですんで、どの国も「まあそうだよね」ぐらいにしか思ってなさそうです。ご関心のある方はどうぞ。

https://www.facebook.com/tanaka1203/posts/1002156426503708

[[image:image03|center|]]

この辺の安保議論は、そもそも日米安全保障条約自体があれだけ批判されて学生運動が勃興したものですし、現行の自衛隊すら憲法上存在が怪しい代物ですから、今回のような議論をする前に、やるからには本来であれば「改憲しよう」となるのが普通なんでしょうけどね。

なもんで、私個人の今回の安保法制については「必要なことなんだけど、やり方が雑」としか言いようがありません。
保守主義の立場から見ても、大変重要な事柄であるだけに、やるからには最後まで着地させられるような方法を模索して欲しいと願っています。

今日は『保守主義とは何か』をフジテレビ系ホウドウキョク「真夜中のニャーゴ」で24時05分からやりますわ(やまもといちろうBLOG 15/7/14)

いまからでもいいので、国民に対して丁寧にいろいろ説明してあげるのが必要なんじゃないでしょうか。