無縫地帯

慶大生・青木大和さんが「小4偽装サイト」で問いかけたかったもの

昨年の国政選挙前に突如ネットに現れた小学校4年生が作成したとされる政治サイト。「解散に大義名分なし」という世間の批判に乗る形だったが、即身バレしてしまった仕掛け人・青木大和さんに真意を聞きました。

山本一郎です。慶應義塾大学法学部政治学科1996年卒です。なんやかやあり一留です。


ところで、昨年の暮れ、ちょうど衆議院選挙が行われる直前。


「どうして解散するんですか?」


あどけない小学4年生を名乗る男児が衆議院解散総選挙に対する疑問を投げかけるウェブサイトが2014年11月20日に登場して、即身バレ。大炎上するという出来事がありました。


この小学4年生を騙るサイトのツイッターアカウントの呼びかけが選挙の意味を直接問う内容でもあったこと、小学4年生にしてはサイトの出来が迂闊な商用サイトよりも遥かにデキが良かったことなどもあり、文字通り一日で焼け落ちるという凄まじいカロリーの炎上劇となったわけです。


この偽装サイト公式ツイッターアカウント、初期に多くの著名人に紹介のメンションを送ったこともあって、政党の仕込ではないかという疑惑が疑惑を呼ぶ形となりました。まだそれほどサイト自体が騒ぎになる前から、マスコミで論陣を張る記者さんたちや民主党関係者と思われるアカウントなどがリプライに応答、そしてその一部がフォロー。さらには関係しているNPOで焼肉弁当が振舞われるといった疑惑まで飛び出して天ぷらの衣のようにいろんな懸念が膨れ上がったわけですが、この小4偽装サイトがそこまでして問いかけたかったものはなんだったのでしょうか。


事件から半年が経ち、6月17日には「18歳参政権」を盛り込んだ改正公選法が成立。政治をより若い人の手に託したいという社会の動きを先取りしたかのような小4サイト設立の張本人である、慶応義塾大学の青木大和さんに「何であんなことやらかしたの?」と率直に事情を伺ってみました。インタビュアーはもちろん私、山本一郎です。

[[image:image01|center|青木大和さんご近影。炎上から取り組みたいことまで、さまざま語ってくれました。]]

山本「焼けましたねえ。


青木「焼けてしまいました…


山本「言うまでもないことですが、動機はやはり若い人の声を政治の世界に届かせたい、みたいな」


青木「もちろんメインの動機はそれです。これからの日本を考えるのに、どうしても日本の政治が、いまの日本の政治を担っている人たち”だけ”で動いているのはおかしいと思いまして


山本「でも、騒ぎになってしまった


青木「はい。自分でも驚くほどに、真意が伝わらないまま大炎上してしまいました


山本「さすがにバレたら燃えるでしょう(笑)


青木「いや、あんなにすぐ騒ぎになってしまうとは思わなかったんですよ…


山本「もっと時間をかけて議論してくれると思っていた?


青木「はい。一週間か、そのぐらいかけて”このサイトは何を問いかけようとしているんだろう”と話題になって、そこから『実は僕がやっていました』とカミングアウトする計画だったんです


山本「なるほど。思ったよりも、いろんな人が興味を持って話題にしたのがあの小4サイトだったと


青木「はい。選挙の公示日を過ぎた12月10日ぐらいまで盛り上がらないだろうと思っていたんです


山本「そりゃあれだけサイトのデキがいいとねえ…Twitterでは、サイトデザインを本業にしている人たちがこぞってフォントやデザインの内容について吟味・審議するほど素晴らしい出来栄えでした


青木「そこから、急激に”10歳の子が政治に問いかけること”よりも”10歳の子が自分で作れるサイトではなさそうだ”という着眼点から火がついてしまいました。


山本「そりゃそうですよ(笑)。凄く凝った作りでしたから。あれの作者はtehuさんとのことですが、彼も貴殿と一緒に最初からやっていたんですか?


青木「いえ、発案も計画も僕が一人で立てました。彼には計画を打ち明けて、ちょうど彼が手の空いたときに非常に短時間で作ってくれたものです。


山本「だから、最初tehuさんが疑われたんですかね


青木「はい…なので、サイト情報から手繰り寄せられて、彼が特定されて悪者にさせられそうになったのを見て、これは計画を立ててお願いした僕が名乗り出る以外に収拾する方法はないと思いました


山本「なるほど。だから、早い段階で貴殿は名乗り出たんですね


青木「はい


■「また青木か」からのお詫び行脚

[[image:image02|left|天才tehu君作成の良く出来たサイト。ネットでは集合知が発揮され、粉塵爆発状態に]]

山本「せっかくのお話なのに、手がけたことが小学校4年生を偽装しての政治主張サイトでは時間の問題だったと思うんですが


青木「それは本当に素直に反省しています。僕が20歳で、年齢が半分の子が政治について素朴な疑問を持つとしたら何だろう、というところからスタートしたのですが


山本「身の回りの小学校4年生にヒヤリングをしたりした?」


青木「あまり綿密にはしませんでした。ただ、身の回りには政治に関心のある若い子たちがたくさんいて、何を考えて高校や大学に上がってきたのか、自分なりによく理解できているつもりでした


山本「貴殿も若い子達が集まるNPOをやっていましたよね


青木「結果的に、団体やその子達を巻き込むようなことになってしまい、関係者の皆様、迷惑をかけてしまった方々へ、足の届く範囲はすべてお詫びして回りました


山本「そういえば貴殿は、たしか騒動の直前に、香港でやっていた民主化デモの見学に赴いたりしていましたよね


青木「僕はどうしてもそういう政治に参加する若い人達の活動を目で見ておきたかったんです。どんな想いがそこにあって、何を理想として活動に身を捧げているのかを、日本人とか香港人などではなくて、一人の人間として知りたいと


山本「とても貴殿らしいんだけれども…それにしても、周りに相談できる大人はいなかったんですか


青木「何と言うか、僕自身、自分の実力や活動の拡大に限界を感じていて


山本「限界?どんな?


青木「うーん、何と言うか、高校の友人などは、大和が政治の話しをしているから投票行ったり、少しはニュース見たりするけど友達じゃなかったら絶対興味ないからね。とのことを言われていて…何か僕がするたびに『また青木か』みたいな


山本「そりゃそうだろ


青木「AO入試(山本註:青木さんはAO入試で慶應義塾大学に入塾)の件とかも、ずいぶん言われました


山本「まあ、慶應義塾は比較的AO入試枠で入った塾生のレベルが高くてうまくいっているほうではあるんですけどね…ただ、青木さんのようにやりたいことを明確にして門を叩く人ならともかく、AO入試予備校までできてしまうと本来の制度の趣旨とは異なってきてしまいます


青木「AO入試に限らず、大学に入るからにはやりたいことがしっかり見据えられて行動に結び付けて初めて成果だと思うんですが、やっぱり小4サイトの件は考えが足りなかったなと深く反省しています


山本「それでも、あれだけの騒ぎが起こせるのは才能だし、評価する人や、説明に納得する人もそれなりに多かったんじゃないですか


青木「親しい人ほど、問題が明らかになって炎上してから厳しい言葉を贈って下さる機会がありました。自分に何ができるのか、どうしたらいいのか、真剣に、いま一度考え直すようになりました


山本「確かに、やらかして炎上してみて初めて自分のカロリー量に気づくときはありますからね(大きく頷く


青木「迷惑をかけてしまった団体や関係者、学生さんたち、また親御さんにはたくさんお会いしてお詫びする中で、政治に参加するために何が必要か、どんな議論をしなければならないか…本当に自分の伝えたかったことを見つめ直すことができました


山本「それは若い人の政治参加という切り口という意味ですか?


青木「僕はそこに日本社会の問題をずっと感じてきました。シルバーデモクラシーと言われ始めたけれど、若い人がもっと政治に関心を持ち、僕達の年金は払われないんだ、僕達は上の世代の介護や年金を払うためだけの”労働力”という数字じゃないんだ、同じ権利を持つ日本人であり、日本社会の構成員なんだ、もっと意見を出さなきゃいけないと


山本「だから、選挙権のない10歳の子をモチーフに、政治に対する素朴な疑問を投げてみて議論を喚起しようと思ったんですね


青木「僕の世代もこれから苦しくしんどい時代を迎えるのですが、僕より下の世代はもっと深刻です


山本「それを言われると42歳である私は辛いですな…


青木「いま、国の借金にしても、明らかにこんな政治も社会も続けられないでしょう


山本「未来の世代が稼ぐお金を当てにして借金をしている状態に変わりはありませんからね


青木「だからこそ、僕の世代がちゃんと真ん中に立って、若い世代が割を食わないような日本社会にしていく必要があると思うのです


■動機は善なりや、そして青木大和さんのこれからの道


山本「やり方はともかく、もっと若い世代が政治に関心を持って、彼らなりの意見を表出していくべき、というのは正論です。ただ、結局は間接民主主義の日本においては、若い人が若い人代表として担げる政治家・候補者が選挙区内に選択の余地として入っていないと幾ら意見をしても代弁者にはならないのではないですか


青木「おそらくそれは両輪といいますか、日本社会を良くしていくために、有権者も政治家も共に変わらないといけない部分だと思います。でも、私たちがいままで政治家にたくさん文句をつけて、あれもこれもと要望して、政治家は変わりましたか


山本「…変わらないですね


青木「だからこそ、まずは有権者であり、または選挙権もないような若者がまず、声を上げて状況を変えないといけない、声が上がりだせば、政治家も政党も少しずつ聞かなければならなくなるんじゃないかと思ったんです


山本「なるほど。それを、お詫び行脚の中で説いて回ったと


青木「はい。はじめ怒っていらっしゃった方の中に、お話を聞いて冷静に応援してくださる方がたくさん出てきてくださいました。僕の力が足りない部分もありましたし、何より炎上して迷惑をかけてしまったので、じっくりと自分を見つめ直し、勉強し、いろんな方の話しを聴こうと決めました。今までは、実践ばかりに集中してしまっていたのでしっかりと理論を兼ね備えていく上での勉学を欠かしてはならないなと思っています


山本「お、おう


青木「15歳の頃にアメリカでオバマ選挙を目の当たりにしたことは僕にとって政治や社会を身近に感じる原体験となりました。学校内では、アメリカの政治について同級生と議論をし学びました。学校外では、大統領選挙運動を目の当たりにしました。今の日本では、学校内で学ぶ機会は整っているものの、体験を得る機会というのがなかなか無いのではないかと思っています。まだ見ぬ体験に出会うことがなく、成長し、大人になるということは選択肢を狭めてしまっているのではないでしょうか?だからこそ、少しでも色々な経験を得ることが出来る場を作っていくことができるんじゃないかなあと思っています


山本「随分なことやらかした割に前向きすぎんだろ…


青木「多くの若者が学んだことを実際に肌で感じるという経験が不足している点があると思います。だからこそ、実際に自分の身をもって体感し、考えて、学ぶということが大切だと考えています。これから生まれ、育っていく多くの若い世代が日本のみならず世界で今何が起きていて、僕らはどのような未来を生きていくのか、どのような時代がくるのかを肌で感じることの出来る経験を培える場所を作っていきたいと思っています


山本「青木さんの熱量は物凄く良く分かります。何よりもまず、日本のこの閉塞感のある状況を世界に伝えていくようなことだって必要とされるかもしれません


青木「今の若い人は、政治に興味関心がないんじゃなくて、分からないから我慢しているのではないかと思います。僕は『また青木か』といつか言われなくなくなり、スタンダードになる社会がくるまで、とにかく何かを考え、発信し続けていきたいです。そして、そういう環境を作っていきたいです


山本「青木さんはどんな切り口を最初は考えていたんですか


青木「やはり、大義なき解散で700億円もの選挙資金が税金から賄われ、社会保障や35人学級といった本質的な問題がおざなりになっていると思います


山本「それであれば、もっと王道のやり方はあったんじゃないかと思うんですよね


青木「自分のやり方には本当に反省しています。自分の名前でしっかりと問いかけるべきであったと思います


山本「今回18歳参政権の話が出る一方、選挙では長らく主たる争点のワンツーだった『雇用』や『経済・景気対策』よりも『年金』『医療・介護』が上にくるようになった。もう老人の国ですよ


青木「しかし、政治が高齢の方のことばかりを重視してしまうことで、若い世代の未来が閉ざされてしまうこともある、と思います


山本「でしょ。だから、若い人達に意見を出させて反映させるだけじゃなくて、多数派も多数派であるお年寄りや高齢者の中から『若い人に割を食わせるわけにはいかない。もう少し出産や教育にお金を振り分けよう』と考えてくれる人達を増やさないといけないんです


青木「なるほど、それもそうですね。理詰めで話し合うと、最初は理解を示してくれなかった方も人も最後は肩を叩いて笑って応援してくれましたし


山本「それこそ、いろんな人にお詫びした相手で、貴殿の考えや主張を理解して、応援してくれた親御さんや高齢者も多くいらしたのでしょう。若い人と高齢者を分断するやり方じゃなくて、日本社会が一体となって次の世代に良い社会を引き渡せるよう考えていかないとなりません


青木「ちゃんと行動すれば、社会も捨てたもんじゃないと思うんですよ。そして世代間対立を煽るのではなく、共存し、手を取り合ってお互いが日本という国をどういう国にしていくかを考えていきたいと思っております


山本「もはや『また青木か』でいいと思うんですよ。主義主張をきちんと整理して、見聞も広めて、嫌な思いもバッシングもいっぱい受けて、それでもネットや街角でワーワー言い続ける青木大和でいいんじゃないですか


青木「自分はできる限りのことは最後までへこたれずやっていくつもりです


山本「まあ、戦艦大和は沈没しちゃったんだけどな

(了)