無縫地帯

PCでなければ創造性は学べないのでしょうか

スマートフォンの利用拡大で、モバイル端末がその利便性ゆえに生活シーンの主役に躍り出て、いままで情報端末として長らく愛されてきたPCが家庭でのポジションを失いつつあるようです。

山本一郎です。初めて触ったキーボードはぴゅう太です。

ところで、PC市場の見通しがあまり明るくないようですね。

世界のPC出荷台数、前年同期比11.8%の減少(PC Watch 15/7/10)

IDCによると、2015年第2四半期のPC出荷数は6,610万台で、前年同期比11.8%の減少。第1四半期での予測出荷台数を1%下回る結果となった。PC Watch
市場にはもうすぐ新しいWindowsが出てきますが、PC市場そのものへのポジティブな影響はあまり期待されていないようです。

Windows 10効果に悲観的なPC業界(日経テクノロジーオンライン 15/7/13)

台湾ASUSTeK社(華碩)が2015年7月8日、今年のノートパソコン(PC)の出荷目標を12%下方修正した。これまで2280万台としていたのを2000万台にしたもの。
(中略)
下方修正の理由としてASUSTeK社は、デスクトップPC・ノートPC需要の世界的不振を挙げ、2015年7月の見通しについても、ノートPCは需要低迷が続き、売上高は前月を下回ると予測。日経テクノロジーオンライン
記事中では上記のASUSTeK以外のメーカーもコメントしていますが、各社ともWindows 10登場にあわせてユーザーがPCを新調するような効果はほとんどないだろうとかなり悲観的な予測をしています。

このところのPC需要低迷の原因としては、世界的な経済の不安定さに加えて、モバイルシフトが大きく影響していることは間違いないでしょう。当たり前のことですが、手軽さだけでなく性能もネット接続も手軽に行えるのであれば、いちいちパソコン立ち上げてあれやこれや考えて使う必要のないモバイル端末のほうがリテラシー的にも作業効率的にも良いに決まっています。

なんてったって、この原稿さえも私はiPhone6のフリック入力で書いてますからね。すぐ書けるし、速い。そりゃ若い人がPC離れする理由も分かります。

で、これは日本国内だけの数字になりますが、先日発表された調査結果によれば、PCの利用時間は2011年をピークにこの数年は減少の一途を辿っています。

進むモバイルシフトスマホ&タブレットからのメディア利用時間、全体の25%超に博報堂DY調調査(ITmedia 15/7/8)

1日当たりのメディア総接触時間は383.7分で前年から横ばい。携帯電話・スマートフォン、タブレットのみが増加しており、それ以外のテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、PCはいずれも減少した。調査を始めた06年から伸び続けているのは携帯・スマホのみで、PCは11年の81.7分をピークに減少している。ITmedia
PCを家庭で利用する機会がどんどん減っているようですね。で、この調査結果を受けて書かれたコラム記事がネット民の間でちょっとばかり話題になっていたようです。

メディア接触時間が激減してるのはテレビじゃなく○○だ、という話:調査結果(週刊アスキー 15/7/13)

10代のパソコン利用は昨年の調査に比べて32%(=22分)も短くなっている。

要は、娯楽領域としてのパソコンは、10代にはほとんど存在しない。その用途はすべてスマホが一手に引き受けている。もちろん、いま10代の彼らが5~10年後に、新しい20代として集計される頃には、仕事や大学のレポートのためにパソコンを使うようになっている可能性は高い。
ただし、そのとき彼らの用途はいまの30代40代がイメージするようなものではないだろう。エンタメも、プログラミングなど何かを作り出す創造的な余地も、このままじゃほぼ一切存在しなくなりそうだ。
プログラミング教育を先導する文部科学省や教育関係者、そして製造している電機メーカー含め、このデータが示唆する未来は真剣に考えるべきじゃないでしょうか。週刊アスキー
そうですか。この記事の論考に対する是非はともかくとして、プログラミング教育のような創造的な方向性におけるITリテラシーをどうやって子供達に学ばせていくかについては、世界中で課題となっていることは確かなようです。英国ではコードを書いてプログラムを作成しなければ動作しないコンピューターを子供達へ与えることになったそうですが、そうした企画が考案された背景には以下のような事情があるとのこと。

小さなコンピューターが子どもたちに与える大きな力:英国(WIRED.jp 15/7/13)

子どもたちはコンピューターに慣れていくにつれ、それがどのように動いているかについての知識が失われてしまったのである。

「目の前で起きていることにあまりにも慣れすぎて、“画面をなぞるだけ”になっているのです」と、ベイカー氏は述べている。こうした不調和によりプログラミングの仕事をこなせる現地の人材が不足するようになり、テック企業は外国人労働者を雇わざるを得なくなっている。
なるほど、画面をタッチすれば何でも簡単に出来てしまうようなスマホやタブレットだけでは、子供達の創造性を育むことはむつかしいのでしょうか。

しかしその一方、世界中でスマホが普及することによって、それまでのPCだけしかなかった時代には困難だったデジタル格差の解消が進んでいるのも事実です。

縮まりつつあるデジタル格差(TechCrunch 15/7/13)

携帯電話は15年前には殆ど誰も予測できなかったほど急速に成長し、世界人口の少なくとも94%が信号を受信できる。すばらしいことに、途上国で携帯電話が軌道に乗り、固定電話を追い越したおかげで、モバイルインターネットがいっそう速く普及している。
(中略)
モバイルインターネットサービスは急速に広がり、現在少なくとも世界人口の48%をカバーしている。そしてわずか6~7年前にスタートを切ったにもかかわらず、現在世界人口の28%以上が利用契約を結んでいる。TechCrunch
こうしてみると、発展途上国などにおいてはスマホの登場によってもたらされたネットへのアクセスが、新たな子供達への教育に役立つ可能性も十分にありそうに思えます。もちろん発展途上国と先進国では様々な社会的背景が異なりますし、そこで比較することはあまり適切でないかもしれませんが、結局は与えられた道具をどう使うかが問題であって、PCでなければ出来ないとかスマホだからダメといった議論は不毛ではないでしょうか。最近はスマホ依存症という話もよく話題になりますが、これはテレビやゲームでも昔同じことが言われました。結局は、家庭や学校で子供達に道具をどう使うかを適切に学ばせることができるかどうかにあるような気がします。

スマホを取り上げると泣き叫ぶ子も--小学生にも広がるネット依存(CNET Japan 15/7/11)

小学校や中学校に行くと、「お母さんがスマホをいじっていて話を聞いてくれない」「私には使うなというのにお母さんはスマホばかりしている」という話をよく耳にする。保護者が子どもの利用に無関心な場合はもちろん、保護者自身がはまっていても、やはり子どもはネット依存になりやすくなる。子どもは保護者の端末との付き合い方をよく見ている。ぜひ、子どものお手本となるような使い方をしてほしい。CNET Japan
大人達が道具を創造的に使えていないのであれば、子供達もそれを倣ってしまうということですね。逆に言えば、大人達がスマホを創造的に使えているのであれば、子供達はPCでなくても創造的なITリテラシーをスマホから学んでいける可能性は大いにあるのではないかと感じる次第です。

我が家でも、妖怪ウォッチやYoutubeにハマっていたころは、子供達(5歳男&4歳男)のスマホ熱は高いものがありましたが、いろいろ工夫をして、のめり込み過ぎないように調整をするようになりました。

しかし、一方で子供達が自発的に自分達で物語を考えて台詞を入れて妖怪ウォッチやトッキュウジャー(放送終了)のおもちゃを使い人形劇のようなものを動画にしていました。作った動画を兄弟で見せあいっこしてたりするのを見ると、スマホだから想像力が下がるとか、手軽だから堕落するというばかりのものもないと思ったりもします。以前は、スマホからどう子供達を引き剥がすか悩んだ時期もありましたが、いまでは工夫をして子供達自身で撮った一緒に鑑賞したり、動画を褒めたりするようにしました。

そして親が介入した結果、一気に三兄弟の妖怪ウォッチ熱が冷めて買い集めたグッズ類やメダル類がゴミの山待ったなしで親涙目。そして今度は金魚を飼い始め、いきなり餌をあげすぎて死んじゃったりして、やはりこの手の議論は身近なサンプルで語るのはむつかしいと思いました。

まあ、この手の話は親の態度や家庭環境によってケースバイケースですね、という壮大な一般論で締め括りたいと思います。明日はもっと頑張ります。