無縫地帯

家計簿アプリの便利な機能は自己責任で使いましょう

便利なため普及し広がっているスマホでの家計簿アプリですが、口座情報との繋ぎ込みその他で危険性がないとは言えず、利用にはリスクもある事態をユーザーにもう少し知らせても良いのではないでしょうか。

山本一郎です。知名度的にキャズムの手前が一番居心地が良いことを良く存じ上げております。

ところで、スマホがキャズムを越え大きく普及して久しい時代となりました。そのおかげもあるのでしょうが、PCの時代には少しばかり敷居が高いと思われていた個人向けの会計管理ソフトなども、家計簿アプリと言い換えることで随分広い層に普及している感があります。とくに、内蔵カメラを利用したレシート情報の読み込みが可能となることで一気にブレイクしつつあるようです。

スマホでレシート撮影、即家計簿に人との比較も献立提案・金融機関と連動…(日本経済新聞 15/6/11)

スマートフォン(スマホ)でレシートを撮影するだけで、日々の支出を簡単に登録・管理することができる――。日本人の3人に1人がつけているといわれる家計簿。手軽にデータを入力・管理できるアプリが、従来の「面倒だから長く続かない」イメージを払拭。ユーザーは主婦だけでなく、大学生やシニア層などにも広がっている。支出を管理するだけでなく、ゲーム感覚で楽しめる機能なども増えている。日本経済新聞
いずれのアプリも気軽にゲーム感覚で使ってもらうなどの工夫を凝らすことで、ユーザーが継続して利用できるようにしているとのことで、そうしたポイントが実際に数多くのユーザーに上手く訴求できた結果が今のちょっとしたブームにつながっているのでしょう。

かつて、バズワード的に「ゲーミフィケーション」とか言われておりまして、セミナーも盛んに行われておりましたが、あれだけ熱気を集めていた人たちのカロリーはどこに消えてしまったのでしょうか。

さて、こうして便利なサービスが提供されるのは良いのですが、データ漏洩などのサイバー事件が増加している昨今の状況を考えると、やはり家計簿アプリでもセキュリティの面が気になってきます。で、かなりザックリとした切り口ではありましたが、その点に疑問を呈したツイートがまとめられてネット民の間で話題となりました。

いやー、家計簿アプリ業界、そのうち絶対にヒドい事件がおきると予想します(ツイナビ 15/6/30)

ごもっともです。

多くの家計簿アプリで導入され人気となっている機能の一つに、銀行やクレジットカード情報と連携できるというのがありますが、それは危ないのじゃないかという話ですね。本来は他言無用であるはずのネットバンキング用の乱数表データまで入力させるのは、まるでどこかのフィッシングサイトみたいだという指摘にはさすがに同意したくなります。

で、こうした騒ぎに対して、スマホアプリ会社の皆さんはやはり場数を踏んで慣れているのか、割と手早く消火活動が行われた模様です。たとえば、普段であれば自ら炎上役を率先することが多いJ-CASTニュースなども、アプリ運営会社に取材するという体裁でやんわりと落ち着いた記事を掲載しておりました。

家計簿アプリに「銀行暗証番号」入力の例も「セキュリティ上大丈夫なの?」の声(J-CASTニュース 15/7/2)

「金融機関と同等のセキュリティ体制を備えております」J-CASTニュース
こんなに元気のないJ-CASTは久しぶりです。いったい何をしているのでしょう。炎上サーベイランサー仲間としてそこはかとない親近感を抱いていた私に対する熱い裏切り行為に身悶えする思いです。なぜ、なぜそこでガソリンをくべないのかJ-CAST。痛烈に総括するべき事象ではないでしょうか。

もちろん、この件で無用な煽りを行って人々をパニックに陥れる必要は全くありませんが、大きな見出しを使って直截に安心さを訴えられたりすると、どこかにPRのタグがあったりしないだろうかと思わず探したくなります。なお、そういうタグは見当たりませんでしたが。

比較的中立的なネット民からは、金融機関側がOAuthに対応したAPIを用意したら良いんじゃね的な声も多く見られましたが、そうした意見に対しての興味深い反論がありましたのでご紹介しておきます。

家計簿アプリ業界について思うこと(プロマネブログ 15/7/3)

こちらの記事、色々な背景を説明しつつ、一体何が問題なのかを分かりやすく示しているので是非リンク先をまるまる読んでいただきたいと思いますが、一番のポイントは以下のところでしょう。

「金融機関はAPIを用意してない」ってのは正確ではなく、「誰かれ構わず利用できるAPIはないが、信用できる代理店と情報連携するためのAPIを用意している」というわけ。
(中略)
結局のところ、家計簿アプリ提供会社が、サービス提供する上で必要となる金融代理店となるためのコストを、利用者のセキュリティ上のリスクや、ペイオフ対象外になるなどの見えない利用者利益の削除などに転嫁していることになるわけで。プロマネブログ
これらの議論は家計簿アプリを提供する事業者はいずれも細心の注意を払ってセキュリティ面のケアをしているであろうことが大前提ではあります。しかしながら、それでも、もし不幸にしてサイバー攻撃などの結果、家計簿アプリが起因して情報が漏洩し、連携していた金融機関口座から不正に預金が引き出されるなどの事件が発生した場合、その損害は誰も補償してくれないという現実があることはユーザー全員に明確に知らされてしかるべきです。

この事実をきちんと認識した上で、それでも家計簿アプリを銀行やクレジットカードのシステムと連携するというのであれば、それは自己責任ですから全く問題ありません。その利便性を最大限に享受するのが良いと思われます。

ところが、個人的には、上記ブログでも最後に提案されているように「きちんと金融機関と家計簿アプリ会社双方の利益になるようなスキーマを作るべき」と思います。そうした仕組みが実現されるまでは無用な金融機関との連携機能は、本来は利用を控えるべきだと感じる次第です。当たり前のことなんですけどね。

これらの指摘があって、家計簿アプリ側にも温度変化が見られるようで、いろいろと蠢いているものもあるようです。いずれ、仕組みが安定すれば大手商業銀行公式・公認の小遣い管理アプリみたいなものも出てくるかもしれませんし、どこぞのカレンダー屋のようにいつの間にか大口の傘下に入って機能統合したりして、問題を解決できるようになれば、真の意味で安心さと利便性が両立するようになるのでしょう。

素朴な感想としては、結局スマホで手軽にサービスを受けられ便利な世の中になるといっても、そのセキュリティ上の問題や何かあったときの法的な補償の問題となると、とたんに大手資本とのコネクションがモノをいい、最終的にイケてるサービスほどどっかの大手資本の傘下に入ってバイアウトによるEXITが増えるというクソつまんない世の中なんてポイズン。