無縫地帯

クラウドファンディングやSNSが当たり前の時代にファンありきのクリエイティブ商売は面倒くさいという話

かねてから注目を浴びていたクラウドファンディングで製作資金を集めるローンチ手法、浸透が進んで大口案件が続いている一方、ファンコントロールに失敗したチームには地獄が待っていて大変そうです。

山本一郎です。E3真っ盛りですが、こちらは雨に降られて地方巡業であります。

ところで、今年もE3に合わせて、ゲーム関連各社が大きな発表を色々と行っております。今回の目玉は、やはりVR対応が北米市場でキャズム越えしそうな勢いで盛り上がっているというあたりでしょうか。

Oculus Rift: 製品版VRヘッドセットを公開・発売開始は2016年1~3月期(Business Newsline 15/6/14)

Oculus Riftは11日、2016年1~3月期に一般発売の開始を予定している 製品版VRヘッドセットを公開すると同時に、製品版の発売にあたってMicrosoftとも提携関係を結んだことも明らかにした。

これにより、2016年1~3月期に予定されているOculus Riftの製品版の発売と同時に、Xbox OneからOculus Rift対応のゲームが発売開始となる可能性も生じてきたこととなるBusiness Newsline
VRはゲーム周りでまずは普及しないことには他への展開はさらに厳しいことでしょうから、関連各社とも今回は相当力が入っていることと思われます。

VRの話は置いておくとしても、今回のE3絡みで驚いたのは、なんとあの「シェンムー」が復活を果たしたということでしょう。しかも、200万ドルという決して少額ではない開発資金をクラウドファンディングで募ったところ、呼びかけてから半日を待たずして達成してしまったという点です。

「シェンムー3」開発決定目標200万ドルを8時間半で達成(ITmedia 15/6/16)

「シェンムー3」の開発資金を募るKickstarterのプロジェクトが6月16日、開始から約8時間半で目標の200万ドル(約2億4000万円)を達成し、開発が決定した。ITmedia
個人的には大金をかけた割りに掛け声倒れのクソゲーという認知しかしていませんでしたので、身の回りにこんなにファンがいたことにむしろ驚きました。

馬鹿なのではないでしょうか。いい意味で。

で、ファンディングにはKickstarterが利用されたのですが、発表後しばらくしてから当該ページをのぞいてみたら、リアルタイムで投資額の数字がどんどん大きくなっていく様はちょっと異様でさえありました。凄いですね。

今回の結果は、過去のカルトなゲーム作品への人気投票的な側面もあったと思うわけですが、これだけファンの期待が大きいと開発側も妙に気負ってしまって負担になったりしないものかと勝手に心配してしまうのですが、インタビューを読む限り鈴木裕さんご自身は全くそんな感じではないようでして、やはりこれぐらい肝が太くないとクリエイター商売なんてやってられないということでしょう。さすが会社の金で外車買った人は違います。

「シェンムーIII」の企画はファンの声がきっかけで立ち上がった。鈴木 裕氏への合同インタビューを掲載(4Gamers.net 15/6/17)

海外で人気があるといっても,(シェンムーIIIを)海外に向けた作りにするつもりはありません。4Gamers.net
で、シェンムーが多くのファンの期待に支えられて華麗に復活した一方で、同じように過去多くのファンから愛されたもう一つのゲームも復活を期したわけですが、こちらは全く逆の形で大きな注目を集めてしまったようです。

任天堂「メトロイド」新作が炎上開発中止求める海外署名に1万2000人(ITmedia 15/6/18)

任天堂が発表した「メトロイド」シリーズ最新作の予告動画に4万件以上の低評価がつく異例の事態になっている。ニンテンドー3DSに合わせたゲーム内容に従来のコアなファンが失望しているようで、「任天堂に開発を中止してもらおう」と呼び掛けるネット署名には世界から2日で約1万2000人が集まっている。
(中略)
署名サイト「Change.org」で始まった、同タイトルの開発中止を求める署名運動は、米カリフォルニア在住者が発起人になっている。据え置き機のWii Uで高い技術による新作が出ると期待していたのに、登場したのはメトロイドの要素が全くない作品だった――として「愛するメトロイドシリーズの名をこの作品に冠するという暴虐をやめさせ、任天堂に開発を中止してもらえるよう、力を貸してほしい」と呼び掛けている。
ITmedia
愛が強ければ強いほど、一旦それが憎しみに変わるとその反動は強くなるということでしょうか。

それにしても、シェンムーがクラウドファンディングというネット時代ならではの手法で開発資金を短時間で易々と集めることができた一方、メトロイドはSNSでのコメントやネット署名という形でネガティブな意見を短時間で一気に集めてしまったというのは、なんとも皮肉なものがあります。

はたしてこうしたファンの意見がメトロイドの開発に影響を与えるのかどうか。そして、シェンムー3も今後同じような事態に直面する可能性はあるわけでして、言葉は悪くなりますが多くの過剰に熱心なファンを抱えることで成り立つようなクリエイティブ商売はなかなかに面倒くさいものがあるなと感じた次第です。

追記:このブログ記事を書いた後で、以下のようなアンドリュー・ハウスSCE社長のインタビュー記事を見つけました。

PS4が開いた新たな市場。早く訪れた収穫期を確実に(AV Watch 15/6/18)

まず鈴木さんは、元々「Kickstarterで出資を募って開発をしよう」という意思をお持ちでした。それがスタートだったんです。我々の社内のチームがそれを聞いた瞬間に「これは面白い。なんとか支援したい」ということになったんです。

しかしその前に、「本当にそれだけのファンベースがあるかどうか、確かめましょう」ということになったんです。そして、クラウドファンディングの目的を達成した段階で、ソニーからの支援をします、という形です。したがって、コンソールではPS4独占のタイトルになります。AV Watch
これ、もしKickstarterで目標額に達しなかった場合にSCEはどう対応したんでしょうね。それでも企画を支援したのかどうか。穿った見方をすると、KickstarterはSCEの大がかりなプロモーションに利用されたという解釈もあり得て、かなりリスキーな話にも読めます。そういえばパナソニックが関わったkickstarter案件が順調に目標額を達成しながらも、理由の詳細を明かされぬままに運営側から停止処分を言い渡された事件を思い出したりしてしまいました。

774万円が白紙「非常に困惑している」パナソニックの技術で開発したデバイス『Listnr』Kickstarterで停止処分(週刊アスキー 15/3/13)

同じようなことにならなければ良いのですが。

ゲーム業界では、権利処理がされないまま多額の資金を集めてしまい、制作完了のアナウンスがいろいろとアレなことになっていた稲船敬二さんの『Mighty No.9』(パクリ元はもちろんカプコン社製『ロックマン(Megaman)』シリーズ)もあり、正直この界隈は百鬼夜行であります。

当然のことながら、リスク情報を開示することなしにプロジェクトが途中で失敗に終わった場合、欺瞞的取引であるとして監督当局から詐欺認定をされることはあり得ます。

FTCが初めて、失敗したクラウドファンディングを裁定…詐欺の一種と見なす(Tech Crunch 15/6/13)


この辺、夢ばかりではない世界ですので、しっかり足元を見てどうにかしていかないといけませんね。なお、クラウドファンディングの問題については、実務面も含めて『ゲームの今 ゲーム業界を見通す18のキーワード』という本に論考を収録しました。ご関心のある方はぜひご笑覧ください。