Appleが己の正義と魂を燃やしweb広告業界の新しいルールを提唱している件で
AppleがWWDC 2015で iOS 9では、Safariに「広告ブロック機能」が実装されることを発表。また、自社で運営するAppStoreで「招待コード」「事前登録」のあるアプリを削除しました。
山本一郎です。平和を愛する男です。平和のためになら戦って死んでもいい感じです。
ところで、先日Appleが開発者向けイベント「WWDC 2015」というのを行いまして、色々と新しい技術やサービスが発表されました。前回の記事で触れた音楽配信サービスの「Apple Music」もその一環だったりします。
音楽配信ビジネスが突然盛り上がっております(15/6/11)
今回のイベントでは新しい派手なハード等の発表がなかったため、一見地味な感じがしなくもありませんが、次期OSやサービスの中には後々大きな影響を与えそうなものも隠されているようでして、とくに気になったのは以下の話です。
iOS 9では、Safariに「広告ブロック機能」が実装される模様(ガジェット速報 15/6/11)
既にiOS 9の開発者向けベータ版は提供が開始されていますが、今回Safariブラウザの設定メニューの中に「Content Blockers」という項目が追加されているのが確認されました。あくまでも海外のAppleマニア向け噂サイトで報じられた記事が、国内のガジェット噂サイトにて抄訳された情報であり、Appleが公式にコメントしたわけではありませんが、どうやら現時点で開発者向けに配布されているiOS次期バージョンのベータ版には広告ブロック機能らしきものが搭載される準備が進んでいる気配のようです。
現時点では機能が無効化されている上、その詳細についてもほとんど明らかにされていませんが、9to5MacによるとSafariブラウザにおける広告フィルタリング機能として将来的に正式に実装される見通しとのこと。なお、アプリ内広告には影響は及ぼさず、あくまでもSafariブラウザ内においてのみ動作することになる模様です。ガジェット速報
で、こうした噂を受けて、米国の株式市場ではスマホ向け広告企業の株価が下がったという話も出ております。
アップルがiPhone、iPadで広告非表示機能を開始か次世代サファリに実装?(Market Hack 15/6/12)
アップル(ティッカーシンボル:AAPL)が将来、iPhoneやiPadから広告を排除する機能を次世代サファリ・ブラウザーに実装するという観測が出ています。この広告ブロック機能ですが、あくまでも開発者向けのベータ版での話であり、しかも機能が無効化されているということから、今後製品版においても同じように搭載される保証は全くありませんが、もし製品版でも搭載されることになれば、その多くが広告ベースで回っているWeb業界にとっては戦慄の事態といっていいでしょう。とくに広告事業が本業のGoogleにとっては非常に大きな問題となりそうです。
(中略)
このニュースを受けて、今日、クリテオ(ティッカーシンボル:CRTO)が-6%急落しています。クリテオはパーソナライズされた広告をスマホにサーブするサービスを行っている企業です。Market Hack
Appleはこのところ機会があればGoogleのやり方を非難するような発言が増えています。今回のWWDCでも、周りからはGoogleの物真似でしかないと陰口をたたかれているサービスを発表しましたが、そこでも名指しはしませんでしたが暗にGoogleのやり方に対抗する意志を見せています。
Apple、「Google Now」のような「Proactive Assistant」(ただし個人情報は集めない)(ITmedia 15/6/9)
Google NowとProactive Assistantには大きな違いがある。それは、GoogleはユーザーによるGoogle Nowの使用履歴データを収集し、広告表示などに利用するが、Appleは個人データを集めないことだ(と、AppleはGoogleの名前こそ出さなかったものの、そう説明した)。お、おう…。
(中略)
Appleはこうした情報を提供する際にもユーザーのプライバシーを大切にしており、すべてのデータは匿名化され、Apple IDとリンクしたりサードパーティーに渡したりすることはないと強調した。ITmedia
Appleは基本的に広告収入に依存する必要がないため、今後こうした個人情報保護の機能を前面に打ち出して、Googleとの差別化を際立たせるようなマーケティングを行っていく可能性は十分にありそうですが、これが行き過ぎれば全世界の広告事業者を敵に回すことにもなり得ます。はたして本当にiOSに標準で広告ブロック機能を搭載するのかどうか注目したいところであります。
ちなみに、上記のような施策をとっているからといって、Appleのことを全面的に信用できるかと言えば、それはまた別の問題かもしれません。以下のような話もあります。
iPhone/iPadからiCloudのパスワードを盗める重大な脆弱性が発覚、Appleは脆弱性を約半年間放置した模様(GIGAZINE 15/6/12)
2015年1月にバグの詳細をAppleに報告したものの、その後公開されたiOS 8.1.2、および次のアップデートでもバグが修正されなかったこの記事をそのまま信用するとすれば、かなり深刻なセキュリティ脆弱性が半年間も放置された上、まだ修正が実施されていないということになります。さて、誰を信用すればいいのでしょうね。
(中略)
今回の件に関してAppleは「実際に攻撃されたユーザーは今のところ見つかっていませんが、次のアップデートで修正できるように現在バグの修正に全力を注いでいます」とコメントしています。GIGAZINE
で、Appleが一連の「web上の平和を守る」活動において、欺瞞性の最たるもののひとつである「招待コード」や「(アプリリリースの)事前登録」については、特に報償を加えるものに関してNGであるとして、アプリのストアへの登録を拒否する「リジェクト」を始めました。
Appleが招待コードや事前登録を取締中と判明。Appdriverは名指しでリジェクト。(GameCast 15/6/14)
まあ、もともと「一人のユーザーによる複数アカウントを助長する」とか「招待コードによってユーザーのプレイにおける有利不利をゲーム提供者側が実施することは差別的であり、不当なマーケティングを行うことを奨励する形になってしまう」といった議論がアメリカでは盛んだったため、そろそろ何かあるんじゃないかとは思っておりました。ただ、これもFTCとのコミュニケーションの中で出てきた話なんで、いずれ早い段階でGoogleも追随するのではないかといわれており、興味津々です。
そうなると、いわゆる欺瞞的取引の最たるものである「自社ゲーム内でのリワードで、自社の新タイトルなど新しいゲームアプリのダウンロードを促す」ようなマーケティングもいずれ禁止されていくことになります。ユーザーが「本来のアプリの魅力や価値」と違うモチベーションでアプリをダウンロードすることが欺瞞的だとアメリカでもEUでも考えられている現状からすると、当然「自社内のアプリで自社のアプリを紹介すること」も否定的に考えられることになるからです。
このあたり、日本人の感覚からすると「え、そこまでやるの」という話ですが、文化的に日本のやり方のほうが海外の当局者からするとleecher(寄生虫)のようなマーケティングでゲーム市場を蚕食していると見られるケースが多いようです。しかも、それまでどちらかというと日本独自のマーケティングであるリワード中心のプレイヤー確保に理解のあった日本法人の立場がどんどん悪くなっているようにも見えます。
日本の消費者行政においても、アメリカのモノの考え方に追随するだけでなく、海外から見てもちゃんとした内容になっていないといけないわけです。LINEやらセガやら自社アプリのユーザーを他の自社アプリに流すようなことができなくなっていく可能性が高くなります。自社のアプリを遊んでいるユーザーに、アイテムを上げて自社の他のアプリを宣伝したりダウンロードしてもらうことが何故いけないの?」「フェアじゃないでしょ」という文化の衝突のようなもので、まあどういう線引きをするべきかは業界全体でよく考えるべきなんですかね。
私は、日本政府(消費者庁や経産省、警察庁)の立場が弱くて、違法アプリが野放しになっているのは良くないと思っているので、まずはそこからしっかり公的立場をプラットフォーム事業者に整理して伝えられ、問題があるようであれば日本の法律で制限をかけたり要請をしたりできるしくみがあったほうがいいと思いますがね。
あくまで守られるべきはルールではなくて、利用者、消費者の利益のはずですからね。
まずは、未成年者の使うスマホに出会い系サイトや18禁エロマンガの広告が出ないように業界全体を綺麗にするところから始めて欲しいです。