無縫地帯

音楽配信ビジネスが突然盛り上がっております

Appleが鳴り物入りで日本にも上陸しようという動きを見せる本命「Apple Music」に対抗するべく、日本のサービス各社も相次いでサービスを発表、なんか「いつか来た道」を感じさせる状況です。

山本一郎です。いろいろと山へ柴刈りへいき、頑張って積み上げて立派なキャンプファイヤーをしたいと思いながら頑張って調べ物をしています。私は元気です。

ところで、今年になってにわかに音楽ストリーミング配信ビジネスを新たに始めようという機運が盛り上がっているようです。

まずは、音楽業界の雄であるエイベックスとIT業界の雄サイバーエージェントの二者がガッチリとタッグを組んで新会社を設立しました。

エイベックスとサイバーの定額制音楽配信サービス「AWA」は5月27日よりスタート(TechCrunch 15/2/21)

AWAは、2014年12月の設立。エイベックス・グループ・ホールディングスの100%子会社であるエイベックス・デジタルとサイバーエージェントが共同出資している。アプリケーションの開発や運営をサイバーエージェントが、配信楽曲調達の手配をエイベックス・グループがそれぞれ担当している。TechCrunch
同サービスについては、エイベックスとCA両社の社長二人自らがその意気込みを熱く語るという企画インタビュー記事がありまして、なんというかビジュアルも含めて濃すぎます。

定額制音楽配信「AWA」の衝撃、舞台裏をトップが語るエイベックス松浦社長、サイバーエージェント藤田社長インタビュー(日経ビジネスオンライン 15/5/30)

なんでも二人で釣りをしながらアイディアを練ったそうです。その辺りも演出なのか素なのかよく分かりませんが、いかにも大物社長のイメージを醸し出すことに徹しているというか、プロレスと同じでアングルが大切ということなんでしょう。

で、AWAの発表があった翌日、なんと今度はLINEが同じような音楽サービスのLINE MUSICを知らせるティーザーサイトを公開しました。

定額制音楽配信「LINE MUSIC」、予告サイト公開(ITmedia 15/5/28)

もっとも、LINEの場合は随分前から音楽サービス開始を発表しながらその後全く音沙汰がなくなってしまうということを繰り返していて、今回も単にAWAへの牽制だけと疑われても仕方ないような感じではありました。過去のやるやる詐欺的な経緯については当ブログでも昨年記事を書いております。

LINEは絶好調のようで色々と課題も多い2015年になりそうですね(15/1/13)

ですから、今回もまた掛け声だけで終わるものばかりと思っていたところ、遂に本当にサービスが始まりまして、正直ちょっと驚きもしました。

「LINE MUSIC」開始、定額制ストリーミングで20時間・30日間が500円~(ケータイWatch 15/6/11)

ほうほう。今回ばかりはまじめにやるつもりなんでしょうね。

LINE MUSIC立ち上げの経緯については、AWAと同じように主要関係者であるLINE MUSIC社長とソニー・ミュージックマーケティング社長二人自らが登場するインタビュー記事があり、そこで熱い思いが語られておりますが、やはりビジュアルが濃いです。

「本物の定額制音楽サービスを見せる」 LINE MUSIC仕掛け人、狙いを語る(Techcrunch 15/6/9)

こちらの記事を読んで分かったのですが、LINEがやるやる詐欺を繰り返した裏には発表の都度に企画をご破算にしてきたという微妙な事情があったようでして、さすがお金のある企業は違うなあとちょっと感心しました。

2013年に「LINE MUSIC」を立ち上げて、そこに対して、各メーカー・レーベルさんに参画いただく、という形で準備を進めました。我々は「LINE MUSIC 1.0」と呼んでいるんですが、これは予定日の1週間前になって、サービスのローンチを止めました。ちょうど1年前でしたが、アプリマーケットの審査も通しましたし、記者会見の場所すら押さえていたんです(笑)。Techcrunch
「人騒がせすぎんだろ。いい加減にしろ」と思わず液晶の前で呟いてしまったのは私だけじゃないのではないでしょうか。

さて、AWAにしてもLINE MUSICにしても、国内事業者が相当なリソースを注ぎ込んで同じようなタイミングでサービスを立ち上げる背景には、ここで始めておかなければならないだけの大きな理由があるわけです。

大荒れ、定額音楽配信アップル迎え撃つ国内勢(日本経済新聞 15/6/11)

定額制の音楽配信サービスが脚光を浴びている。米アップルは8日(日本時間の9日未明)、新サービス「アップルミュージック」を30日から始めると発表した。月9.99ドル(約1200円)で3000万曲が聴き放題になる。サイバーエージェントもエイベックス・グループ・ホールディングスとの提携で参入。無料対話アプリのLINEも11日にサービスを始めた。目立つのはゲームや漫画などの伝統的な業界秩序を破壊してきたIT(情報技術)企業の姿。インターネットの力で音楽業界のパンドラの箱をこじあける。日本経済新聞
音楽ビジネスだけに目をやればAppleは日本市場においてこれまで完全に失敗しているわけですが、スマホというプラットフォームではAppleのiPhoneは日本において圧倒的に優位な立場にあります。ここで、もしAppleが心機一転で新しい音楽サービスを開始すれば、音楽ビジネスにおいてもAppleに利がある可能性は高いため、国内事業者としてはAppleが動き出す前にリードを得たいということでしょう。

日本の音楽市場は言葉の問題なども影響して海外音源が受け入れられにくいという特殊な状況があり、国内の音楽制作事業者が圧倒的に有利なガラパゴスです。従って、音楽配信事業者もそうした国内事情にどれだけきめ細かく対応できるかが交渉においては大切ですが、そういう意味ではAWAやLINE MUSICはAppleよりも二歩も三歩もリード出来ている可能性は大きいかもしれません。世界市場では最先端と言われるSpotifyなどにしても、こと日本市場については一時は話題にもなったりもしましたが、最近は噂も聞かないようなお寒い状況です。いったいあれは何だったのでしょう。便利は便利なんですけどな。

興味深いことに、AWAもLINE MUSICも関係者がかなり似たニュアンスの発言をしており、その辺りもこうした日本ならではの事情を反映しているのではないかと感じます。

松浦:そうです。AWAが一人勝ちしようとは思っていません。これは音楽業界全体のためにやるべきこと。AWAも含めて、いくつかのサービス合わせて数千万人のユーザーを獲得できれば、レコード会社の利益体質は2009年くらいに戻る、という試算も行い、浸透すれば音楽産業が復活する可能性がある、ということを話して回りました。日経ビジネスオンライン
一方、こうした仕組みを「LINEが旨味を独り占めする」ととられたくはない、と舛田氏は話す。

舛田:実は私、LINE MUSICという名前から「LINE」を外すことも検討したんですよ。このビジネスをやるのは「この座組だから」であって、音楽業界全体のプラットフォームになれたら、と思っているんです。LINEという冠があると狭く思われてしまうのではないか、と。LINE MUSICは「シェア」と「価格」で音楽ビジネスを再構築する
そうですか。

こうした、本音と建前の境界線上を上手に綱渡りしながら、猜疑心に満ちた国内音楽業界関係者の気持ちをヨイショするという交渉は、ドライでビジネスライクな契約文化の海外事業者にはなかなか真似できないものなのではないかなと勝手に想像してしまうわけです。当然AppleにしてもSpotifyにしても、交渉には日本の業界事情に詳しい人材を起用しているはずですが、最後の詰めの部分で日本ならではの面倒くささを本国サイドがOKしてくれず、間に立った担当者が泣きを見るみたいなことが起きているのかなと。

それにしても、音楽商売なんて真面目にやればやるほど儲かりそうにないですから、いずれはソシャゲみたいな感じで、有料ガチャを回して当たりが出ないと曲が聞けない限定コンテンツみたいなエグイ企画も組み込んだりするのでしょうか。握手券の件などを見ていると音楽業界もそういうやり方には全然抵抗なさそうですから、当たらずといえども遠からずな何かはありそうで今から楽しみです。

最後になりますが、Appleが鳴り物入りで開始しようと思っていた「Apple Music」で、今度はアメリカにて独禁法違反で出鼻を挫かれるという物件がありました。

「Apple Music」について米2州が調査、独禁法違反の疑いで(ITpro 15/6/11)

若干専門的で込み入っている状況ですが、やはり日本市場を狙う「Apple music」を迎え撃つためにも、黄泉の世界から「LISMOさん」と「mixi music」の霊を大川隆法(本名・中川隆さん)に呼び出していただいて対抗するしかないのではないでしょうか。

音楽配信の雄、リスモくん死去5歳(虚構新聞 11/9/23)

いっそみんなでFC2になってしまえばいいんじゃないかという気持ちでいっぱいですが、途中から自分でも何を書いているんだか分からなくなってきました。