小学校での都市伝説ネタが最近ではネット発が多いようで
いまだに「8.6秒バズーカ反日説」みたいなネット発のガセネタが流行しており、しかも小学校で浸透しているという話を聞くに、情報と社会の関係について改めて考えてしまうことの多い毎日であります。
山本一郎です。「口悪る男」と言われないよう日々を頑張って生きています。
と申しますか、いまや「口裂け女」という言葉を聞いてピンとくるような人は、今やほとんどが中高年の域に達しているわけですが、往時はマスメディアでも大きく取り上げられほどの社会問題と化し大騒ぎでした。
口裂け女(ウィキペディア)
口裂け女(くちさけおんな)は、1979年の春から夏にかけて日本で流布され、社会問題にまで発展した都市伝説。それから約35年の年月を経て、今どきの小学校で流行っている都市伝説の一つが、単なる無意味なお笑いネタを実は反日分子による日本を侮蔑するためのものだとするデマだったりするそうです。子供を持つ主婦の方がTwitter上でそうした出来事があった経緯をツイートして、ネット民の間でかなりの反響が巻き起こっておりました。
(中略)
この都市伝説は全国の小・中学生に非常な恐怖を与え、パトカーの出動騒ぎ(福島県郡山市・神奈川県平塚市)や、北海道釧路市・埼玉県新座市で集団下校が行われるなど、市民社会を巻き込んだパニック状態にまで発展した。ウィキペディア
9歳息子へのネットリテラシー教育「ネット上のデマについて」(Togetterまとめ)
一連のツイートについては上記のまとめを読んでいただければと思いますが、こうしたツイート発言に対して、同様な体験をしたという報告が他にも出てきており、決して局地的な現象ではないことが推測されます。
とある小学校でクラスを担任する教諭の方が書いたというブログでもそうした一幕が記されています。
気がつけば、教室は何かの最前線(小学校笑いぐさ日記 15/5/7)
担任している小2女児が、児童の父兄が出所や根拠が不明なネトウヨ話を真に受けるのはもう仕方のないことなのかもしれませんが、その子供が素直にそうした言説を信じていわば無垢な正義感に燃えてとんでもないデマを学校内に流布していくという流れはまさにホラー以外のなにものでもありません。世代を超えてデマが再生産されることになるわけですし、今回の8.6秒バズーカもブームが終わってみれば得体の知れない反日話ばかりが残る可能性もあるわけでして、ちょっとさすがに可哀想だろと思うわけであります。また、学校側からすれば、父兄といういわばステークホルダー的立場にある個人の価値観を子供の眼前で否定するのは相当に困難であることも容易に想像できるわけでして、これは対応がなかなか大変そうです。さらに、このブログのコメント欄にもネトウヨが沸いているようでして、お約束の展開になってしまっています。
「あのね先生、ラッスンゴレライって、韓国にめいれいされて日本の悪口を言ってるんだよ」
と、“教えて”くれたのが連休前のことになります。
思わず
「……誰が言ってたんですかそんなこと」
「お父さん」
お父さんか……。小学校笑いぐさ日記
以前、私も「THE PAGES」に問題の所以について解説したわけなんですが、それなりにカロリー使って燃え尽くしたはずなのにまだ話が広がっているというのはそれだけ「ネットとリアル社会が一体となった」ことの証左だろうとも感じるわけです。
<ネット作法>「8.6秒バズーカーは反日」説にみる炎上の原理 山本一郎
http://thepage.jp/detail/20150513-00000003-wordleaf
今回のラッスンゴレライというお笑いネタですが、爆発的に流行るのに役だったのがネット上の動画サービスやSNSでした。そして、そのラッスンゴレライが反日的な存在であるというデマが広まるのに役だったのも同じ動画サービスやSNS。昔の口裂け女の都市伝説が純粋に口コミだけで急速かつ広範囲に子供達の間で広がった点は非常に特異であり、それだけに同様な事象が頻繁に起きることはあまり無かったわけですが、今や小学生も普通にYouTubeを見る時代です。「ユーザーが信じたい偽情報がそれらしく伝わってくる」形で広がるデマは瞬時にして全国へ伝わり、一気に都市伝説的なものとして子供達の心へ浸透していく可能性があります。しかも何度でも同じようなデマ拡散が容易に繰り返されることも十分あり得るのが怖いところです。物の分別がつかない大人はこの際仕方がないと諦めるにしても、将来のある子供達にはネットに流れる情報の真贋を見極められるような適切なリテラシーを身につけて機会があることを切に願う次第です。それも、単に一口「リテラシー」というのではなくて、両論を並べて冷静に読んでみたり、当事者や原典になるだけ当たる努力をしてみるという、ごく当然のお作法を身につけるという意味ですが。
ちなみに、口裂け女の噂によるパニックは半年以上続いたようですが、小中学校が夏休みシーズンを迎えることで子供達の情報交換=口コミが途絶えたため沈静化されたと言われています。しかし、SNSの時代を迎え、はたして子供達の情報交換が途絶える機会はあるのか気になるところです。
いわゆる「信じたくなっちゃう類の話」ほど、受け止めるときに一呼吸置くのがいいんじゃないでしょうかね。