ネイティブアドの行方を最近の海外事情から適当に占ってみる
海外では、さまざまな論争の中でネイティブアドは過渡的な概念であって、最終的には別の市場へ導入されていくのではないかという話が出ており、これはこれで興味深く感じるところが大であります。
山本一郎です。投資家なんて占い師みたいなもんです。
ところで、業界内で話題になってもなかなか一般のところまでは問題の構造が届きにくいのがネイティブアド関連の騒ぎでありますが、粛々と話が進んでいっています。
サイバーエージェント、「ネイティブ広告」騒動で謝罪(CNET Japan 15//5/12)
サイバーエージェント子会社、「広告」表記なしのネイティブ広告販売を認める(TImedia 15/5/12)
まあ、下手にメディアがこの話題に触れると自分のところへ帰ってくる藪蛇になる可能性もありますから、なかなか扱いがむつかしいというのが正直なところでしょう。あまりに皆さん正直すぎて驚くばかりですが、お心当たりのある会社さんはこれを機にぜひご再考いただければと思います。
さて、そんなネイティブアドの将来性について海外では興味深い意見が出ているということをスマートニュースの藤村厚夫さんがツイートされておりました。
WSJ営業幹部、ネイティブ広告の将来性について否定的な見解。“メディアがすべきことが多すぎる”と|Wall Street Journal sales boss: Branded content will never be a… http://pocket.co/soaTBl 藤村厚夫ツイート中で取り上げられている記事は以下のものです。
Wall Street Journal sales boss: Branded content will never be a dominant revenue source(mUmBRELLA 15/5/12)
"We all like this content - I think the New York Times has done a cracking job - but it's a lot of work for the client, it's a lot of work for the publisher."これはニューヨークで開かれたニュースメディア関係者向け会議イベントでの一幕を取材した記事です。面白いことに、まずはコンサル会社の人間がこれから5年でネイティブアド(記事中では“branded content”と表記されています)に費やされる金額は今の2倍以上の250億ドル(3兆円ぐらい)に膨れあがるからガンガン逝こうぜと息巻いたようなんですが、それに対して、ウォール・ストリート・ジャーナルの営業部幹部であるTrevor Fellows氏がそんなことはあり得ないと水を差したという展開だったようです。同氏曰く、クライアントのいくつかは今後広告費用の25~30パーセントをネイティブアドに割くかもしれないがそれ以上は期待薄だと、至って冷めた見方をしております。理由としてはクライアント側にとってもメディア側にとっても、ネイティブアドは効果はあるかもしれないが手間も費用もかかり過ぎるということにあるようです。もちろん、こうした手間も費用もかかるという側面には、ここ最近国内で話題になっているステマ同然のやり方ではなく、ちゃんと真っ当な広告として見せるという前提があってのことだとは思われますが。
Fellows said there was a perception that it was cheap and easy, but argued this was wrong and that many of the case studies being cited could not be easily repeated.
Fellowsさんのおっしゃることには肯くばかりです。
で、こんな議論がやり取りされている米国ですが、一方ではこんなニュースも入ってきました。
米ベライゾン、AOLを買収5280億円で合意(日本経済新聞 15/5/12)
米通信大手のベライゾン・コミュニケーションズは12日、インターネットサービスのAOLを約44億ドル(約5280億円)で買収することで合意したと発表した。ベライゾンはAOLが手掛ける携帯電話向けの動画サービスやインターネット広告、メディア事業を強化する。競争が激しい米携帯業界で首位の地位を固める考え。日本経済新聞通信会社がメディアを自前で用意しようと動くのは世界共通のようですが、今回の買収の思惑がどこにあるのかについては以下のような論考が出てきています。
VerizonのAOL買収、狙いはコンテンツよりも動画広告か(ITmedia 15/5/13)
米通信大手のVerizon Communicationsは米AOLの44億ドルでの買収を発表した際、AOLを「デジタルコンテンツと広告業界のリーダー」と評した。AOLがHuffington PostやTechCrunch、Engadgetなどのデジタルコンテンツを持っていることはよく知られているが、直近の業績資料を見ると最大の収益源は広告であることが分かる。もちろん、この辺は言いたいことはたくさんあるんですけれども、まずは差し置いて。
(中略)
VerizonはAOL買収の発表文で「LTEによる無線動画とOTT(Over The Top、上限を超えるほど大量の通信容量を使う動画配信などのサービス)戦略をさらに推進する」としており、モバイル向けの動画事業に重点を置いているようだ。ITmedia
ネット上ではかなり影響力のあるメディアを有しているAOLですが、買収された主な動機はそうしたメディアにあるのではなく動画広告だったという話は、ある意味で先にご紹介したネイティブアドは手間ばかりかかって儲からないという意見を裏付けているように見えなくもありません。さらに、有力メディアであるはずのHuffington Postにはスピンオフの噂が出ているのもなるほどという感があります。
考えてみれば、モバイル通信でのブロードバンド化が進み誰もがスマホでアクセスする現代においては、もっとも「ネイティブ」な情報形態は、実は「動画」であると言えるのかもしれません。つまり、これからの真のネイティブアドは動画であってステマではないということですね。
必要なのは、スマホという限られたスペースの中で適切に利用者からアテンションを拾い、それを広告として認知してもらい消費や購買に結びつけることです。そうである以上、いまのネイティブアド問題の底流はアドテク(広告配信技術や個人情報を利用したあれこれ)にあり、その流れていく先は動画広告のようなシームレスでメディアと一体化した仕組みであろうことは間違いないのではないかと思います。