無縫地帯

堀江貴文さんの「ホリエモンドットコム」で有償広告記事で「広告」未表記

堀江貴文をファウンダーとするSNS社が運営する「ホリエモンドットコム」で、2012年に問題となったペニーオークションのステルスマーケティング同様の営業が行われていたことが取材により判明しました。

山本一郎です。ホワイトゾーンです。

2012年、某サイバーエージェントという会社の某アメーバブログで、芸能人やタレントなどの著名人たちが代理店経由でタイアップ記事の掲載を営業し、ブログに掲載してタレントランクごとに報酬を貰う仕組みが明らかになり、問題となったことがありました。

その際たるものは、ペニーオークション(ペニオク)の詐欺紛い広告記事で、お金を貰った芸能人が「試しにやってみたら儲かった」などとアメーバブログに記事を掲載し、その内容がペニオクのサービスともども適法とは言えないものであったためにサイバーエージェントのメディア事業全体が問題視された事案です。

「最高で250万円」という芸能人ブログ“広告”もステマに業界危機感、健全化へ動く (1/2)(ITmedia 12/2/6)
サイバーエージェントの媒体資料に真心を込めたステマぽい提案の真髄を見る(やまもといちろうブログ 12/2/9)
芸能人ブログのペニオク詐欺の黒幕サイバーエージェントはステマ総本山
ペニオク詐欺騒動に巻き込まれたサイバーエージェントとステマ商材を担いでしまった芸能人(ビジネスジャーナル 13/1/26)

やはり、見る者の心に去来するものは「お前、3年前もステマやめるって言ってたじゃねーか」という侘び寂びの境地であり、それはある意味でアクセスの母集団さえしっかり確保していれば旨みのある商売であるため「やっぱりやめられねぇ」ということなのかもしれません。まあ、ビジネスマンとして気持ちは分かります。

[[image:image02|left|2012年当時のサイバーエージェントご謹製ステマ絵巻。やりたい放題感が満喫できる]]

サイバーエージェントの名誉のために付記しておくと、問題になったあとで、いったんはサイバーエージェント本体経由での広告掲載についてはPR表記をきちんとつけるガイドラインを社内で徹底するよう伝達がありました。ただし、これがザルで実効性の無かった理由は、アメーバブログに広告記事を掲載するにあたっては当の芸能事務所が勝手にクライアントを見つけてきてサイバーエージェントに黙って広告記事掲載を行って資金を確保する事態が横行、そこはサイバーエージェントと芸能事務所の力関係もあってサイバーエージェントが黙認した事例があったため、なし崩し的にその後もステルスマーケティング紛いの行為が続いてしまったという不幸な事例であるように見受けられます。そして、3年が経過した2015年も、幾つかの案件で「ステマではないか」というタレコミがあるぐらいには一般化してしまった状態です。

このような広告表記外しをベースにした読者を騙す類のウェブメディアビジネスが興隆を誇る理由はただひとつ、黒に近いグレーゾーンであり、儲かるからです。今回、いろいろ取材をして分かったことは、消費者庁やJIAAのガイドラインを遵守する気は媒体社側にも広告代理店側にもクライアントにもない場合があることで、儲かるし、広告費用あたりの反響も他と比べて高いため、むしろクライアントの宣伝部自らが代理店に対して「ノンクレ依頼」をする悪質なケースが多いということも分かってきています。逆にウェブ界隈の広告のお作法が良く分かっていないクライアントに対して、なかば騙すような形で代理店が持ちかけるケースもあって、そのあたりは実に闇が深いところではあります。クライアントと代理店との間でそのような依頼を行うメールをたくさん入手したので、適切な取材を経てしっかりと経緯は公表してまいりたいと思います。

そんなウェブメディアが儲かる金城湯池とも言えるネイティブアドの広告クレジット外しは、大口の代理店だけでなく、出版社のウェブメディアや著名人メディアでも定番のマネタイズ手段として一般化してしまっている現実があります。

先日、おおいに騒がれたCINRA.netの杉浦さんという代表の方が、ご自身で運営しているメディアのインタビュー記事の9割がタイアップであり、そのすべてにPRや広告表記をしていないという犯罪自慢のようなブログ記事を声高に記述しておられました。もちろん、広告というものに対して杉浦さんが真剣に取り組もうという姿勢は分からないでもないのですが、一応はインタビューコーナーに「有名無名を問わず編集部の独断と偏見により今をときめく人をピックアップ!」と書いてある以上、業者が媒体にカネを払ってインタビューを載せてもらってSNSでバズらせることを目的に全力で釣りにきているとは読者としては思わないでしょう。

ネイティブアドよ、死語になれ。

さらに、堀江貴文さんがファウンダーとなっているSNS株式会社の運営する個人メディアサイト『horiemon.com』(ホリエモンドットコム)においては、一連の黒に近いグレーゾーンノウハウが凝縮されたようなタイアップ提案が行われており、大変に興味深い内容になっております。

[[image:image01|left|堀江と名がつけば、SNSでも雑誌記事でも何でもカネにしてやろうという修羅を見る]]

その中には、FACEBOOKのフォロワー数47,000、Twitter100万と堀江さんのネットでの知名度や伝播力を示す数字を掲げつつ、タイアッププランとして「堀江貴文が直接お伺いし、商品・サービスを体験。感想を含めた対談で深く切り込んでPR」と称し、120万円の御代が記されています。ペニオクでのステマ疑惑において、サイバーエージェントがアメーバブログで囲っている芸能人に値段をつけて売りさばいていた手法とまったく同じです。堀江貴文のイメージと重ね合わさることで、どれだけ企業やサービスのイメージが向上するのかは良く分かりませんが、とにかく露出したい、世間に知られたいというニーズに対しては一定の効果があると見越したクライアントからの依頼があるようです。ちょうど、顔見知りのベンチャーがホリエモンドットコムに対談記事を掲載されていたので話を聞きましたが、対談自体はペイドではないものの、堀江さんの関連する先からの出資依頼を受けるよう何度も求められて困惑したとのお話でして、何だかなあという印象はあります。

[[image:image03|left|マックのサイドオーダー状態になっているオプションプラン]]

媒体資料においては、注意事項として「広告表示方法等の挙動については、今後変更になる可能性があります」とありますが、少なくとも現段階でホリエモンドットコムに掲載されている記事で、広告代金が支払われていることが取材により分かっているものに「広告」「PR」記載はありません。

元となる運営会社を見てみると、ターゲッティング株式会社との表記があり、サイトを訪れると株式会社ライブドアにてポータルサイト広告事業の営業統括を担当されていた藤田誠さんが代表取締役。元オリコンの中川さん、元サイバーエージェントでメディア・クリエイティブ部門を統括されていた一志さんが取締役に入っておられる企業のようです。そうですか。

ターゲッティング株式会社

著名人の持つメディア力を効率的におカネに変える仕組みとして、これらの広告表記をしないで掲載するというのは手早く儲かる分、やりたい気持ちは分かります。また、リテラシーの高い読者もプロレス的に分かっていて乗っている部分もあるのかもしれませんが、例えば、このような作り方で掲載された記事が、他のキュレーションサイトやニュースサイトで取り上げられたら、その先の読者はどう感じるでしょうか。

[[image:image04|left|収益のためには露出が生命線と割り切ったかのようなホリエモンチャンネルのセールス]]

例えば、大手ニュースアプリに成長したスマートニュースは、ネイティブ広告のクレジット表記については踏み込んだ対応を約束してくれています。以前はNHKオンラインの無断引用までやらかして、フリーライダーのブラックアプリの最右翼だったのに、いまではすっかり白くなられて、かなりの努力をされたと見られ、ウォッチャーとしても感涙ものであります。

ネイティブ広告におけるクレジット表記について (スマートニュース 川崎)
あれから一年が経ち、スマートニュースはどれだけ適法となったか(13/12/10)


一方で、このスマートニュースが素晴らしいレギュレーションをもって運営していたとしても、そこで契約しているサイトがダマテンでネイティブアドを普通の記事のように掲載しており、それが拾われて誤認が読者の間で広がった場合、どのように解決するべきなのでしょうか。スマートニュースのチャンネルプラス一覧には、多数のウェブ系ニュースサイトも入っていますが、安心確実と見られる新聞系メディアもあれば、お前ソースロンダリング専門サイトだろと目されるようなメディアも含まれています。それもこれも、ネットメディアの玉石混交がネットに活力であるとも言えますし、CINRA.net杉浦さんの仰る通り「新しい広告のあり方」を模索する一歩になるとも考えられますが、いまネット広告業界としてはそれ以前のところで倫理的な問題を抱えているように思えてなりません。これはもう、スマートニュースとしてはどうしようもないところではないかと思います。

スマートニュース 「チャンネルプラス」メディア一覧

上記CINRA.netや、ホリエモンドットコムについては、先方にも状況についての説明を依頼し、ターゲッティング社およびSNS社については9日をめどにご回答がいただけるとのことですので、恐らく彼らも出すであろう公式の声明も交えて、クライアントからの別件取材の結果も踏まえ続報を出していきたいと思います。