無縫地帯

Apple、行列商法やめるってよ

いままでは「Appleの新製品が出る」と聞けばビッグウェーブな人を筆頭に行列ができるのが慣わしでしたが、今後はAppleはそのようなPR戦略は控えるほうがいいと考えていたようです。

山本一郎です。行列される側になりたいです。

さて、今のところ盛り上がりそうで一向に盛り上がらないウェアラブルデバイスですが、いよいよAppleの「Apple Watch」が発売されるということでメディアも同製品に関連した話題を取り上げる機会がまた増えつつあるようです。
かの商品においてはバッテリーの寿命が2年半だという話から充電で熱を持ちすぎて装着できないといったネタまでさまざま出ている状態です。

しかし、Apple Watchにしても、実際に製品が市場に出て一定期間が過ぎてみないと本当にITデバイスとして機能するのかどうかは分からないのですが、既に発売されているAndroid Wear等を搭載したスマートウォッチのことを考えると、それほど画期的なことがすぐに起きるとは想像しにくいのが正直なところです。同じように感じている人は決して少なくないでしょうし、以下のような論考はまったく同意するところです。

UI考(番外編) AppleWatchについて、あまり語られてない視点(fladdict 15/4/7)

Androidに対するAppleの最大優位性は、その操作性と作り込みだろう。ところが、Watchは操作は本質ではない通知マシーンだ。AndroidとiOSに通知マシーンとしての優位差は、ほとんどないといってよい。本質が通知マシーンであり、そして「より素早く目立たない通知」に本質的な需要があるのなら、なんでAndroid Wearはあそこまで流行っていないのだろうか。たとえAppleとGoogleの商品品質に大きな差があろうと、「新しい通知表現」に潜在的な価値と需要があるなら、Android Wearを触った瞬間に感じ取れるはずなのだが、これをさっぱり感じない。fladdict
上記の記事では結論として、Apple Watchのようなスマートウォッチ的デバイスはまだまだ未完成な代物であり、今すぐ利用してメリットがあるかもしれないのは一部の業界関係者だけ、あとは「アプリもユーザーもたぶん人柱」とバッサリ切っております。まあ、そうですよね。

で、そういう状況はメーカー自身がおそらくは一番よく認識していることとは思います。しかし、売り出す以上は「はい未完成です、すいません」とも言ってられないわけでして、そこは今ある状態でもお客様に満足していただけるような夢を色々と演出をしなければなりません。そうした流れからなんでしょうか、Appleとしてはこれまでのやり方を絶って新たな戦略を打ち出すようです。

アップル、店舗前の行列をなくす方針へ。意識改革を求める内部文書が流出(Engadget日本版 15/4/8)

アップルストアといえば長蛇の列というほど見慣れた新製品発売前の行列ですが、アップルは今後の新製品について、積極的に行列を作らせない方針に転換するようです。
(中略)
発売前の大行列は新製品の人気を示すものとして、アップルに限らず各社がみずからアピールしてきました。特にアップルでは一般消費者に受け入れられた iPhone の発売のたびに、何日も前から野営して並ぶ自称「熱心なファン」や、イベントとして往来で騒ぎたい客、先頭近くで取材されることが目的の並び屋など、謎の生態系が発生しています。Engadget日本版
そうですか。

わざと行列を作ってバズを作るというのはここ何年かAppleが享受してきた典型的な宣伝手法でありました。しかし、最近は上記記事でも触れられているような「謎の生態系」に加えて、テンバイヤー集団も参戦してかなり見苦しい状況になっております。ある意味で中華的日常でもあり、古き良き秋葉原バッタ屋的精神でもあります。これは、元バーバリーCEOにして現在はAppleの実店舗およびオンライン小売部門担当シニアバイスプレジデントであるAngela Ahrendts女史の美意識からすれば耐えられないような醜い状況だったと想像されます。

興味深いのは、お洒落アイテムとも言えるApple Watchだけではなく、ギーク御用達であろう新型ノートの販売でも行列お断りに舵を切る意向とのことで、これは昔ながらのイノセントでお祭り好きな一部のPCオタクユーザー層との訣別を意図しているのかもしれないと言ったらそれは考えすぎでしょうか。
日本人は旧ソ連時代のロシア人なみの行列好きですし、古くはWindows95ですら徹夜組を作り、JRの記念Suicaでは客がごった返して発売そのものを延期させてしまうだけのパゥワーがあるわけですし。

もっとも、単純に新製品の十分な在庫を発売日までに確保できそうにない現実を、一見お洒落に誤魔化すための苦肉の策というだけなのかもしれませんが。

そういえば、吉野家もオンラインによる予約注文システムを開始したようです。

つゆだく、ごはん少なめ指定も可! スマホで吉野家の牛丼持ち帰り予約スタート(週アスPLUS 15/4/8)

店が混み合っている時間帯に持ち帰りを注文するのはなかなか気が引けるが、スマホで事前予約することで出来上がりまでの待ち時間を減らしつつ、好みのオプションの牛丼をスマートに持ち帰れるのはナイスです!週アスPLUS
なるほど、店頭で並ばないというのはグローバルな流れということなんでしょうか。
まあ、吉野家とか商売はドメスティックぽくてもビジネスの構造はかなり高度に国際化している事業ですからな…。