無縫地帯

ドローンの商業利用ルール案が米国で発表されましたがこのままでは宅配に使えないようです

案の定、ドローンについては公衆安全上の理由その他から商業利用が制限され、無人宅配などでの活用はいましばらくの議論が必要な状態のようです。

山本です。やはり「私の股間のドローンも規制されそうです」みたいなネタはやめたほうがいいなと思いました。

ところで、このところドローンに関連した情報を耳目にする機会が増えています。技術の進歩に伴い様々な可能性が高まってきたということなのでしょう。

なぜ投資家たちはドローンに夢中になっているのか(WIRED.jp 15/2/15)

連邦政府当局は、いくつかの実験的な試みを除いて、ドローンの商業目的の利用は認めていない。それでもいわゆる無人機に群がるシリコンヴァレーの投資家たちの勢いを止めることはできず、この2年間ですでにドローンの新興企業に9,500万ドルもの資金が注ぎ込まれてきた。WIRED.jp
やはり誰もが気にするのはドローンの商業利用が今後どうなるかということですが、米国では連邦航空局(FAA)がドローンの商業利用にまつわる規則案を2月に発表しています。

FAA、商業ドローン飛行で規則案―新時代の幕開けに(ウォール・ストリート・ジャーナル 15/2/16)

連邦航空局(FAA)は15日、商業目的のドローン飛行を事実上禁止している現在の方針に代わって、最大重量55ポンド(約25キログラム)までのドローンの商業的運航をFAA規則に関する書面での試験に合格するだけで認めることにした。ただし一定の安全基準を順守するよう義務付けられる。資格は2年ごとに更新が必要。

同規則案によれば、商業用ドローン飛行は高度500フィート(約152メートル)未満とし、昼間だけ、オペレーターの視界の範囲内に限定される。注目されるのは、規則案が空港近くないしドローン飛行に関与していない人々の頭上での飛行を禁止している点だ。ウォール・ストリート・ジャーナル
同案は今後60日間の一般聴取期間を設けて意見を集め、その後に最終規則を決定するそうですが、注目点としては、飛行できるのが「昼間だけ、オペレーターの視界の範囲内に限定される」というあたりでしょう。この影響により「アマゾン・ドット・コムやグーグルが計画し試験飛行を行っている配達用ドローンの使用など多くの商業使用の障害になる」と指摘されています。「オペレーターの視界内」という用語ですが、一体どういう意味を持つのか、もう少し詳しく見てみましょう。FAAの規則案の原文では「昼間だけ、オペレーターの視界の範囲内に限定される」が以下のように記されています。

Press Release - DOT and FAA Propose New Rules for Small Unmanned Aircraft Systems(FAA 15/2/15)

The rule would limit flights to daylight and visual-line-of-sight operations.FAA
ここにある「visual-line-of-sight」は「VLOS」と略されることもありますが、ドローンなどの遠隔操縦による無人航空機の運用における視界の定義では、遠隔地にいる操縦者から飛行物体が裸眼(あるいはメガネなどの矯正)だけで完全に視認できていることを意味します。たとえ一瞬でも何らかの遮蔽物によって視認できなくまった時点でVLOSではなくなります。また、望遠鏡などの装置を使っての視認も対象外とされます。当然ながら、ドローンにカメラを搭載してそのカメラ視点で操縦するといった手法や、GPS連動等による自動操縦などもVLOSではありません。VLOSの定義については、英語になりますが以下の記事が参考になります。

How do we see them: VLOS, EVLOS, BVLOS & FPV?(Australian Certified UAV Operators Inc.)

もし商業利用でのドローン飛行がVLOSに限定されることになると、たとえばこれは日本での先行事例として軍艦島においてドローン撮影が行われましたが、立ち入るのが危険な老朽化した建物の内部を動画撮影したという行為はおそらくVLOSではない手法で実現していそうですから、今後こういう試みは少なくとも米国では規制される可能性があるということになります。

軍艦島をドローンで撮影した4K動画 - 西日本新聞社「軍艦島アーカイブス」(マイナビニュース 14/11/6)

先日、AmazonはFAAからドローンの耐空証明実験について認可を取り付けましたが、やはりVLOSをはじめとした厳しい条件が示されたようです。

アマゾンのドローン配達、実現へ一歩近づく:FAAが耐空証明実験を認可(WIRED.jp 15/3/23)

日中の「有視界気象状態(VMC)」で、高度400フィート(約122m)以下での操縦を行えるが、「ドローンを、常に操縦者と監視者の視界範囲内に置く」ことが義務付けられる。さらに、「ドローンを実際に飛ばす操縦者には、最低でも、自家用機パイロット免許と、現時点の健康状態に関する医師の診断書が必要」という。WIRED.jp
FAAが提示した商業ドローンの運用に関する規則案へどのような意見が集まり最終的にどのような決定が下されるのかはまだ分かりませんが、今のままだとAmazonが夢見たドローンによる宅配の実現はかなりむつかしいのではないでしょうか。

一方、日本国内では国内メーカー製ドローンを保護する方向で総務省が規制を検討中という報がありました。

ドローンに専用周波数割り当て総務省方針、国内メーカーの開発促進(SankeiBiz 15/3/10)

総務省は、産業分野やホビー分野でドローン(無人飛行機)の利用が拡大していることに対応し、混信の防止や違法電波の取り締まり強化を狙いに専用の周波数を割り当てる方針を固めた。同時に、国内で欧米製や中国製のドローンが幅を利かせるなか、周波数割り当てを国内メーカーによる機器開発の促進につなげたい考えだ。SankeiBiz
ドローンの運用では、電波法や航空法、道路交通法、さらにはプライバシー関連法など種々の法律が複雑に絡んでくる可能性があるため、何か大きな問題が起きた場合にこれまでの一般常識だけでは対応できないという点が大きな課題です。テクノロジーの進化する速度に法律が追いつけないという近年よくある事例の典型とも言えますが、ドローンは仮想世界で実現するネットサービスと違って事故があれば物理的な被害が発生するだけに、そうそう乱暴に「やって試しにやってダメなら考える」ともいかないところがむつかしいですね。