ソニー「VAIO」のスマホ進出の酷評から、ブランド商売のむつかしさを痛感する話
ソニー「VAIO」が日本通信と組んでがっかり端末を提供したということで、信者から貧民まで一斉に酷評している姿を見てブランド商売のむつかしさを改めて感じる次第です。
山本一郎です。ブランド商売をしようにも本名が偽名くさくて野望も萎える寒戻りの日々であります。
ところで、世の中にはブランドという看板に価値を見いだしてそこにお金を出す人達がいます。そういう人達がいるからこそブランド商売は成り立つわけです。そして、ブランドの価値観を維持しつつさらに大きな商売を目指すためには冒険も必要ということでしょう。
世界的に大成功したといえるだろうブランドの一つに「ハローキティ」のキャラクター戦略がありますが、こちらなどは「仕事を選ばない」という形容詞がこのところ定着したほどに予想外のコラボ企画を展開していますが、しかし依然としてその価値を保って商売が出来ていると考えられます。
仕事を選ばないキティちゃんが今度はニーチェとコラボ! その結果は…(LITERA 14/10/20)
誰でも知っているサンリオのキャラクター、ハローキティ。彼女は仕事を選ばないことでも有名である。全国、いや世界の各地に飛んでいって体当たりのコラボを行う営業努力は涙ぐましいばかりだ(私のお気に入りは、博多祇園山笠とコラボしたフンドシ姿である)。LITERAブランドと言えば、ソニーからスピンアウトした「VAIO」もまたPC界において確立したブランドと言って間違いないでしょう。独立後最初に発表されたフラッグシップモデルもIT系メディアはどこもこぞって大絶賛でありました。
新VAIO Z発表、国産メーカーを結集した「日本代表」PC(ITpro 15/2/16)
そのVAIOが続いてスマホを発表するということで並々ならぬ期待が寄せられていたわけですが、こちらの方はその始まりからなにやら「らしくない」展開。今からして思えばこの時点でその雲行きが怪しいことは予期できたのかもしれません。
日本通信、VAIOスマホのパッケージを初公開。2月の発売に向け準備は順調(PC Watch 15/1/30)
日本通信は、1月30日に開催した2014年度第3四半期決算発表の席上、VAIO株式会社との協業により、2月に市場投入する「VAIO」ブランドのスマートフォンに関する取り組みについて言及。初めて、VAIOスマートフォンのパッケージを公開した。しかしこの時点では、「Appleに次ぐブランド力を持つVAIOを提供することで、今のMVNO市場の問題を解決できる」といった発言が日本通信の三田聖二社長からもあり、その中身はVAIOならではの誰もが絶賛するような製品を期待せざるを得なかったと言えましょう。であるからこそ、その現物が発表された時の人々の落胆ぶりは凄まじいものがありました。
日本通信の福田尚久副社長は、「今日は、中身をお見せしたいが契約上、お見せできない。パッケージだけで勘弁していただきたい」として、片手にVAIOのロゴが入った黒いパッケージを初公開した。PC Watch
フタを開けたら“ごく普通の端末”だった――VAIOらしさが感じられない「VAIO Phone」の危うさ(ITmedia 15/3/14)
事実上「ブランド貸し+α」のスマートフォンであることが分かる。実態は、日本通信が主体で開発した端末に、VAIO風の味付けしたにすぎない。「日本通信フォン」のVAIOエディションと言ったところだろう。会見後の囲み取材で、「もしVAIOのロゴがなければ売れると思うか」と問われた福田氏が、「売れないと思う」と答えていたことも、それを裏付ける。厳しい言い方をすれば、これは“VAIOらしさを出した商品で売る”のではなく、“VAIOのロゴを使って売る”ということだ。「VAIO Phone」正式発表、「ELUGA U2(3万円)」と同モデルを5万1000円で販売する暴挙に(BUZZAP! 15/3/12)
(中略)
VAIOのロゴだけがついた“ごく普通の端末”で、簡単に勝ち残れる甘い市場ではない。第1弾はブランド力と話題性で売り切れたとしても、そこで失うものを考えると、本当にVAIOブランドのスマートフォンを出すべきだったのかは疑問が残る。ITmedia
「性能でなくデザインで差別化する」と意気込んでいたにもかかわらず、パナソニックが海外向けに発売したモデルと性能どころかデザインまで同じである上に、本体価格が2万円ほど上乗せされています。BUZZAP!VAIOスマホは、本当に"ガッカリ端末"なのか(東洋経済 15/3/13)
両社がコンシューマブランドの“VAIO”を使って、新しい時代のスマートフォンを発売する。そう言ってしまえば、もっと直接的にエンドユーザーに訴えかけるハードウェアが登場することを想像するものだ。一般の消費者の目からは見えにくい部分に差異化要因が盛り込まれているという主張は、一般の消費者にどのように評価されるだろうか。東洋経済この酷い言われようが、逆に「VAIO」とゆーブランドの奥行きの深さを感じさせますね。
で、同製品の発表を受けて公開された各メディアの記事は、比較的穏便な内容から酷評まで様々ですが、そのほとんどが「なぜVAIOである必要があったのか?」という疑問に集中しています。その真実は不明ですが、関係者から聞いた実態はとても公の場では明かせないといった不穏な発言などもSNS上に流れておりました。その結果なのでしょうか、日本通信の株価は製品発表のあった3月12日に大きく下落する一幕もあったようです。
VAIO Phone発表で日本通信の株価が急落(Business Media 誠 15/3/13)
VAIO PhoneはSIMフリースマホ市場の『ど真ん中』を狙った」と日本通信の福田尚久副社長は胸を張るが、発表会が終わった14時頃から日本通信の株価が急落。前日終値は605円だったが、発表会が始まる13時半には634円まで上がり、その後540円まで売られて終値は前日比7.6%減の559円となった。Business Media 誠VAIOの方は株が上場されていないためこうした市場の評価は分かりませんが、もし公開されていればやはり同じような結果を招いた可能性は否めません。
今回の件では、VAIOというブランドは消費者の期待を大きく裏切り毀損されてしまったと判断して良いと考えられますが、その挽回は今後可能なのかどうか。個人的には、今後もハローキティのように「仕事を選ばない」姿勢で打って出て、そこで大きく勝利するような面白い展開を期待したいところでありますが、製品や企業の性格からするとそういうパターンはなかなかにむつかしいのだろうなと思う次第です。
やはりここはウェブサービスとして世界的に人気な「mixi」という逸材も再発掘されるべきだと思うんですが、最近どうでも良くなってきました。