無縫地帯

書籍の自炊代行事業が合法化へ一歩前進?

書籍の自炊、すなわちリアルの紙の本を裁断し、スキャナで取り込むなどして電子書籍に入れる作業を代行してくれる自炊業者が違法とされて幾星霜。どうも合法化、解禁へ向けた動きが出始めているようです。

やまもといちろうです。自炊は自力派です。

個人が所有する自分の本を裁断してスキャナーで読み込み電子書籍化することを「自炊」と呼ぶようになって久しいですが、いざ自分でやってみるとこれが結構面倒です。そこで、この1~2年、にわかにそういう自炊作業を代行してくれる業者が登場しだして、それなりに需要がありそうなこともわかってきました。

しかし、そういった自炊を代行する営利事業が、はたして著作権的に問題ないのかといった議論も、権利者などを中心にして当然のように起きました。

この件に関してどう考えるべきかは、著作権法を専門とする弁護士、福井健策氏のインタビュー記事が大変参考になります。

「スキャン代行」はなぜいけない?(ITmedia 2011/12/23)

ごく親しい少人数のグループのために自炊(スキャン)してあげるようなケースを除いて、恐らく違法ですね。私的複製を作成する作業は、あくまで自分自身で行うのが原則なのです。
ここで福井氏が、「恐らく違法ですね」と断定を避けている理由は、まだ司法による法律判断が行われていないからでしょう。

それにしても、上記インタビュー記事で興味深いのは、こういった自炊代行事業に対して、法的に整備して権利者が使用料を徴収できるシステムを作るというアイディアが出てきている点です。インタビューそのものは2011年1月初旬に行われたそうですが、それから約2年の歳月を経て、権利者が著作権使用料を徴収するルール作りの提案が具体的な形で浮上してきました。

「自炊」代行ルール作りへ書籍の電子化で著作者団体(MSN産経ニュース 2013/3/26)

現時点では、新たに協議会を作ってこれから検討を開始するという話でしかありませんから、実際にどうなるのか詳細は不明ですが、これまで「グレー」だった自炊代行事業の合法化が実現するのかもしれません。

ちなみに新しく作られる協議会の名前は「Myブック変換協議会」(正式名称は「蔵書電子化事業連絡協議会」)だそうで、会長は作家の三田誠広氏が務めるそうです。

「自炊」代行を認めるルール作りへ、作家など「Myブック変換協議会」設立(ITmedia 2013/3/26)

会長の三田さんは、

「『便利になった』という利用者の実感を無視して、規制を強めるだけでは、多くの利用者を敵に回すことになります」

「処分する本をただ廃棄したり、古書店に回したりするのではなく、費用を出してでも電子ファイルとして残したいという人は、本当に本が好きな人ではないでしょうか」

――と電子化の代行を依頼する読者に理解
三田氏は過去に、強く紙の本にこだわる発言したこともあれば、自炊代行業に対しても「違法だ」と断言されてきた方だけに、近年でずいぶんと考えが柔軟になられたのだなと感慨深いものがあります……。

わたしにとっては紙に印刷された本という形であることが重要
「100年後も作品を本で残すために」――三田誠広氏の著作権保護期間延長論 ITmedia 2007/7/25)
利用者が自分のスキャナーでPDFを作成するのは私的複製だが、営利目的の業者がかかわっている場合は違法だ
“書籍電子化代行業“は適法か? 企業法務戦士の雑感 2010/9/20)
さて、今回の一連の報道に対するエンドユーザー側の反応は様々です。

「自炊代行」業者に対し著作権使用料の徴収を求めることで「合法化」する試み(スラッシュドット・ジャパン 2013/3/26)
「自炊」代行、著作権使用料徴収で許諾検討(Togetter 2013/3/26)
文芸家協会「自炊代行」許諾の方向(fuakiの日記 2013/3/27)

何人かの方が指摘していますが、現状案として出ている「1冊30円程度」の著作権料で、作家も含めた権利者の間ではたしてちゃんと分配できるのかという疑問は、やはり気になるところです。

また、ある意味で感情的な問題でもありますが、自分がすでに代価を支払って所有している本の電子化にまた著作権料が発生するのは、著作権料の二重取りではないかという意見も見られます。このあたりは、エンドユーザーの誰もが納得できる回答を、権利者側がしっかりと提示していかなければならないのではと思います。

まあ、需要があるのは事実ですからね。実態に合わせていって欲しいと強く思います。私は自力派ですけど。