無縫地帯

電子書籍をリアル店舗で売るビジネスモデルに可能性はあるか

リアルの本屋を巻き込んだ電子書籍プロジェクト「BooCa」が立ち上がったようで、いままでの電子書籍界隈のいきさつも見通しつつ行く末を占ってみました。

山本一郎です。電子書籍を読むようになってから、かえってリアル本屋に足を向けて本を眺める習慣ができました。まあレアケースなのかもしれませんが。

ところで、今年もまた何度目かの「電子書籍元年」がどこかのメディアで叫ばれたりするのでしょうか、もうさすがに浸透してきて市場の特性も見えてきたように思うんですけど。さすがにもう「元年」はこの数年の間で迎え、そういう時期は過ぎ去ってしまっているように思えます。ただ、社会全体の規模で見た場合、まだ多くの人々が実感として電子書籍を利用しているというレベルにまでは至ってないというところでしょうか。

出版業界としてもそうした状況をどう打開するかで色々と試行錯誤しているようで、こんな報道がありました。

電子書籍で100社連合アマゾンに対抗(日本経済新聞 15/2/27)

国内の書店や出版社100社超が電子書籍の共同販売に乗り出す。出版社が相乗りして、電子書籍を販売する専用コーナーを書店各社の店頭に設けて需要を喚起する。対象となる電子書籍の種類を早期に10万まで増やす計画。アマゾンジャパン(東京・目黒)が先行する電子書籍の市場で、出版・書店業界のライバル企業が協力して事業を広げる。日本経済新聞
Amazonに対抗ですか、そうですか。頑張ってください。で、これ、以前にもどこかで見たような話だなと思ったのですが、やはりそうでした。

対アマゾン、電子書籍で連携書店や楽天など13社、めざせ「ジャパゾン」(朝日新聞 13/12/22)

紀伊国屋書店など国内の書店や楽天、ソニーなどの電子書店、日販、トーハンなど取次業者の計13社が、書店での電子書籍販売に乗り出す。書店だけで買える人気作家の電子書籍を用意する構想もあり、業界で一人勝ちを続けるアマゾンに対抗できる連合体「ジャパゾン」を目指す。
(中略)
書店の店頭に電子書籍の作品カードを並べ、店頭で決済。購入した人は、その作品カードに書いてある番号をもとに電子書籍をダウンロードする仕組みだ。朝日新聞
これはこれで試みとしては分からないでもなかったのですが、あまり続報を聞きませんでした。

「ジャパゾン」という名称がなんとも野暮ったい響きであることも禍して、この実証実験事業は当時ネット民などから散々叩かれていた印象があります。そもそも「ジャパン」と「アマゾン」かけてどうするんだよ。むしろそれをいうなら「アマパン」だろ。

電子書籍でアマゾンに対抗! 「ジャパゾン」に盛大な“出オチ感”(キャリコネ 13/12/24)

スタート前から「ジャパゾン」という微妙な名前で報じられた「電子書籍販売推進コンソーシアム」。この一大プロジェクト、果たして上手くいくのだろうか。キャリコネ
電子書籍をわざわざリアル店舗で売るという発想は、ネット通販マンセーなネット民からすれば全く賛同できない考え方でもあるでしょうから尚更にネガティブな反応が多かったものと思われます。

しかし、この実証実験はその後拡大して「BooCa」という名称が付けられ、改めて実証実験が2014年6月16日~2015年2月末日予定の期間で行われるのだそうです。

本屋で買える電子書籍カードBooCa(BooCa)

BooCaは電子書籍を書店店頭で陳列し、購入することができる電子書籍カードおよびサービスの愛称で、Book+Cardの意味から命名しました。BooCa
今度は「Book」と「Card」かよ。それなら「CaBoo」でもいいじゃねーか。で、BooCaのメディア向け説明会を取材した記事では、同事業の経緯などを詳しく知ることができ興味深いですが、なんといっても面白いのは「ジャパゾン」という名称が実際には存在しなかったらしいということです。

リアル書店で電子書籍を売るO2O事業が続々登場(マガジン航 14/7/14)

関係者に話を聞くと、あの「ジャパゾン」は朝日新聞が勝手につけた呼称だとのことでした。マガジン航
そうだったのか…さすが朝日新聞汚い朝日新聞。

話題性を狙って記者が先走った記事を書いたということなんですかね。それはともかく、こちらの記事を読む限りにおいては、関係各社のBooCaに対する力の入れ具合は相当なものです。そして、改めて実施された実証実験において相応の成果が得られたということなのでしょう。めでたく今回の日経記事にあるように正式な形での事業展開の開始が発表されたと解釈できます。

しかし、このBooCaを購入するためにリアル店舗へ出向かなければならない仕組みは変わりません。当然ながらネット民からはあまり暖かい反応を得られていないようです。

「電話ボックスの中でだけ通じる携帯電話」みたいだなw。>書店内に紙の書籍を模したカードを陳列。客は選んでレジに持っていき代金を払う。その後はスマホで電子書籍をDL。>電子書籍で100社連合アマゾンに対抗:日本経済新聞 http://s.nikkei.com/1LMyblB 田端信太郎
さすがネット界で飛ぶ鳥を落とす勢いのLINE上級執行役員の田端さん、なかなか厳しいご意見です。働いたら負けのイメージを払拭しようと躍起になっているようです。

BooCa側としては「ブッカはスマホや電子書籍に不慣れな読者も紙の書籍の感覚で買えることから、需要拡大につながるとみている」とのことですが、気になるのはスマホや電子書籍に不慣れな人が紙の書籍も置いている書店にてわざわざ電子書籍を選ぶかということ。さらにはそういう不慣れな人達も、一度電子書籍の扱いに慣れてしまえば、店頭に行って購入するという行動をその後も継続する可能性があるのかどうかというところでしょう。

個人的には、リアル店舗で書籍を購入する一番のメリットは、本の中身をその場で確認できることや、本屋の店頭で自分では絶対に検索しないような本に巡り会える意外性だと感じています。しかし、BooCaの場合たとえカードが店頭にあっても中身を紙の書籍と同じように確認することは不可能ですから、あまり面白くないのではないかと想像してしまいます。何か別の新しいユーザー体験でもあれば話は別なんでしょうが。

まあ、出版業界の大手事業者が集って1年以上の実証実験を行った上で本格的な事業展開を決めたのですから、当然ながらそこにはなにがしかの勝算もあってのことだとは思いますので、是非とも電子書籍ビジネスの新しい可能性を極めていただきたいものです。

そういえば、LINEノベルはどうなりましたか。