目の付けどころがいまひとつで目指す未来がちがってしまったIGZOの件
シャープが自社の液晶ブランド「IGZO」の商標が無効とされた件が少し紛糾していたのでピックアップしてみました。
山本一郎です。目の付け所は別にシャープじゃありませんが、目つきがエロいと良く言われます。三人の子持ちです。
ところで、シャープがスローガンを刷新したのは今からもう5年以上も前のこと。
「目の付けどころがシャープでしょ」から変更シャープ、20年ぶりスローガン刷新(ITmedia 10/1/6)
シャープは2010年1月からスローガンを一新した。1990年から使っていた「目の付けどころがシャープでしょ。」を20年ぶりに刷新、「目指してる、未来がちがう。」に変更する。ITmediaこのスローガン変更には「目指している未来のイメージがほかと違うからこそ、普通なら思いも付かないようなことを実現し、気がついたら世の中の当たり前にしている」という意味が込められていたそうですが、こと液晶製品の商標に関しては世の中で当たり前の誰もが思いつくようなものを選んでしまったが故に、望まない未来を迎えてしまったようです。
シャープ液晶「IGZO」商標は無効知財高裁判決(朝日新聞 15/2/25)
スマートフォンなどに使われるシャープの高精細・省電力液晶「IGZO」の商標登録を無効とした特許庁の判断を不服とし、同社が取り消しを求めた訴訟の判決が25日、知財高裁であった。設楽隆一裁判長は、同社の請求を棄却し、IGZOを同社の商標と認めなかった。この記事から判断にするに、シャープは最初から商標登録にはあまり相応しくない名称を選んでいたように見えます。知財に関して神経質にならざるを得ない昨今の状況において、シャープ社内ではIGZOという商標が法的に問題となる可能性を全く考慮しなかったのかどうか気になるところです。もちろん、IGZOという名前になんらかの思い入れがあったのかもしれませんが…。
(中略)
IGZOとは、亜鉛などからなる複合物質の略称。
(中略)
この物質の活用技術の特許を持つ科学技術振興機構(JST)が13年、「商標法は原材料名は商標に使えないと定めている」として登録無効を特許庁に求めた。同庁が認めて登録を無効とした。シャープが昨年4月、「すでに製品名として浸透している」として提訴していた。朝日新聞
ちなみにIGZOを用いたディスプレー用技術が発表された当初は、IGZOという原材料名ではなく「透明アモルファス酸化物半導体(TAOS=Transparent Amorphous Oxide Semiconductor)」という名称が一般的に使われており、同技術のライセンスを世界で最初に受けたメーカーはSamsungだったという事実があります。同技術がどのようにして実用化されるまでに至ったかの経緯についてはJSTの広報資料に詳しく記されています。
透明アモルファス酸化物半導体(TAOS)が実用化へ!実用化には“運”も必要です(JSTニュース 2010/4)
このSamsungへのライセンス供与で興味深いのは、当時国内メーカーはどこも同技術に興味を示さなかったがため、結果的にSamsungだけが起用することになってしまい、そのことが国内では誤った形で批判されることもあったそうです。
酸化物半導体の基本特許を出願して、さまざまなことを体験しました(日経テクノロジー 12/2/22)
新聞などの報道記事の見出し程度しか見ない“半可通”の読者などからは「日本の大学の研究成果をライバルの韓国企業に売るとは何事か」という反応があり、細野教授の耳にも入ることがあった。「大学教員からの“苦言”という形の反響もあった」という。日経テクノロジーこの辺は、事情を知りようもない一般人が受け取る報道のリテラシーとしてやむを得ないところもあるんですが、不本意だったのでしょう。気持ちは良くわかります。
シャープがIGZOのライセンスを受けたのはSamsungに遅れること約半年後の2012年1月で、同じ年に問題の商標権も取得したようです。おそらくは、Samsungよりも先に量産化に成功したことで一気に勝負を賭ける意味も込めてこの名前を選んだのではと推測されますが、そこで目の付け所を誤ってしまったということなのでしょうか。個人的にはこういう前のめりなシャープの姿勢は嫌いではないんですよね。勇み足もまた文化ということで。
さて、今回の判決が確定してしまうと、シャープは「IGZO」という表記を独占的に使用することは出来なくなります。ただし、まだシャープは最高裁への上告といった最後のチャンスも残されています。また、他社との差別化は今よりもむつかしくなりますが、カタカナ表記の「イグゾー」や、独自デザインしたロゴマークについては依然として商標権はシャープが所有して有効ですから、そちらで頑張るという道もあります。
このところ、シャープは目指してる未来があまり好ましくない形でちがってきている気配がありますが、なんとか踏ん張ってより良い方向へ軌道修正していただきたいと思います。
ここら辺で、シャープもイメージキャラクターを吉幾三にするなどして、よりエッジの立ったマーケティングを徹底されたい。