無縫地帯

YouTuberが儲からなくて大変らしいですね

あれだけ宣伝していたYouTuberに対するPVあたりの広告料率が下げられたということで騒ぎになっていましたが、儲かる一握りはタイアップで頑張る傍ら視聴者のかなりの割合が小学生のようで困ったものです。

山本一郎です。たいしたことしてないのに風邪気味で喉が痛かったのですが、日曜ゆっくり休んでいたら回復してくれました。本当に風邪だったのかしら。

ところで、昨年の10月頃、YouTubeへ動画投稿するクリエイター募集PRとしてGoogleがTVを筆頭に街頭ディスプレイ、各種紙媒体などを利用して大々的な広告キャンペーンを展開したのを覚えている方は多いことと思います。キャッチコピーは「好きなことで、生きていく」でした。で、このキャンペーンに起用されたのはまさにそうしたYouTubeへの動画投稿で人気を博した人達で、世間は彼らのような存在を「YouTuber(ユーチューバー)」と呼んでおります。

そして、こうしたYouTuberを職業として生計を立てている人も中にはいるようです。

動画だけで稼ぐ「ユーチューバー」5人家族も支えられる?(dot. 14/10/9)

ITに詳しい専門家は、「日本では動画投稿だけで食べていけるのはまだ一握り」と話すが、家族5人の暮らしを動画投稿だけで立てている人もいる。「妄想グルメ」こと伊藤元亮(もとあき)さん(46)だ。
(中略)
週2本のアップを目標に、これまで1200近い動画を投稿。チャンネル登録者は約48万人、総再生回数は約1億6千万回。収入も徐々に増えていき、2月に会社員時代の月収を超え、8月には過去最高になったという。
いやー、頑張れるって凄いことですよね。

まあ、ここまで稼げるのは本当にごく限られた人達だけと思われますが、これを見て自分にも出来るんじゃないかと勘違いしてしまう人は世の中少なくないことでしょう。中には完全に人生の歯車が狂ってしまうといったパターンもありそうです。あまり見ていて気持ちの良いものではありませんが、どうしてもという方は以下などが参考になるかもしれません。

まるでマルチ商法で羽振りの良い偉い人の生活スタイルに憧れて、自分も自己実現するんすよと目をキラッキラに輝かせる少年少女(精神が)のようです。

底辺youtuberの実態(Togetterまとめ)

で、底辺の方々はともかくとして、PVを稼いで広告収益を上げていたようなYouTuberの皆さんも、ここにきて突然YouTubeの広告料率が変更されるという事態に直面し生活が苦しくなっているという話が出てきております。

動画広告レートが急に落ち込む収入「激減」にユーチューバー嘆く(J-CASTニュース 15/1/9)

以前からシバターさんは、収益について「1再生0.1円」と話してきた。1日数十万再生あり、金額についてはおおよそ平均値のデータが取れていると話す。これが2014年12月以降、1再生あたり0.025~0.05円に落ちているのだそうだ。現状ではユーチューブのみで生計を立てているが、今のペースだと2015年1月は赤字になる見通しだと嘆く。ユーチューブは広告料レートの金額を公表していないが、シバターさんの指摘に賛同する他のユーチューバーもいた。J-CASTニュース
YouTube側は広告料率がなぜ変更されたかについて公式な見解を出していないため色々な憶測を呼んでいますが、上記記事中では「広く視聴者を集めるうえで活躍したユーチューバーが、その役目を果たし終えた」ため、もはや「これ以上大勢のユーチューバーを抱えて広告料を支出し続ける必要はないと判断」されたのではないかと分析しています。もっともこれには別の見方もあるようです。

Youtuber、視聴者の大半が小学生で、企業も広告を出しても仕方ないということで広告料レートが下がっていっているという話はなるほど~感ある。しふみん
Twitter上で大量にリツイートされているものですが、似たような話は他にもネット上にあります。

YouTuberの視聴者は小学生!?(公式まさがえるブログ)

実はuuumの握手会にて参加者が、
小学生が大半だったということが発覚しています

詳しいことは話せませんが、
「YouTuberの視聴者が明らかに小学生」
だということが分かります公式まさがえるブログ
記事の中にある「uuum」というのはYouTuber専門のマネジメントプロダクションですね。同社の公式サイトトップページにアクセスすると突然ブラウザ画面いっぱいに巨大な動画が自動再生されてかなりウザイです。それはともかく、握手会参加者の大半が小学生というのは、同社のトップスターがHikakin(ヒカキン)という人で、彼が小学生に圧倒的な人気があるからということが起因しているようです。

小学生であふれた「Hikakin握手会」が【悲報】とまとめられています。(声優トレーニングまとめ)

もっとも、Hikakinが小学生に人気があるのは、最初から彼がそういう層をターゲットに活動しているということもあるようで、握手会に大量の小学生が参加しているのはビジネスが順調にいっているという証拠でもあるため、必ずしもそうした状況そのものに問題があるとは言えないわけです。

ヒカキンの動画が人気の秘密をわりとマジで考察してみたwww(YouTuberニュース+ 14/12/9)

YouTube業界でもヒカキンより先に低年齢層にターゲッティングしたYouTuberはほとんどいないので、ある意味、市場を独占することに成功しているのです。YouTuberニュース+
ただし、小学生に絶大な人気を誇るHikakinを起用して大人向け商品の広告を制作するとすれば、それはあまり効果が見込めないかもしれないですね。

だからヤマ発は「YouTuber」を起用した(東洋経済 14/10/6)

ヤマハ発はHIKAKINさんを新商品の試乗会に招き、動画でその模様をレポートしてもらった。

結果は大当たり。動画の再生回数は半日で60万回を突破し、「乗ってみたい」「カッコいい」など、動画へのコメントが数多く寄せられた。東洋経済
Hikakinが起用されたヤマハ発動機のYouTube広告は再生回数やコメントといった部分では非常に成果が見られたようですが、では実際の購買行動に結びついたのかどうかは謎です。健闘したかもしれませんが、外からはその成果が良く分からない、というのが実情です。どっかのウェブメディアが追跡取材とかしないかなあと思うところではありますが、いくらたくさんの小学生が動画を見てコメントをしてくれても、小学生には乗れないスクーターは売れないのではないでしょうか。この辺りのマッチングの問題がもしかしたらネット広告の世界で問題となり、以前のように何でもYouTuberを起用すればいいという話からは事情が変わってくるという可能性はありそうです。

ここで興味深く感じるのは、数十年前のテレビの時代であれば子供が好きなタレントを起用して広告を流せば家族全員がそれを見るので何も問題なかったのに、今は家族揃ってテレビを見ることはなく、個々人がそれぞれスマホやPCを使って各自の好きなものしか見ない状況となることで、広告についてもよりターゲティングの精度を上げていくことが求められる時代になったという点です。子供向け番組にイケメンやアイドルを出して密かに両親世代にアピールするというような技も、テレビよりもスマホが当たり前の時代になってくると徐々に通用しなくなる可能性はありそうです。

こういう見方はあまり適切ではないのかもしれませんが、つまようじ混入で世間を騒がせた事件も、わざわざ動画をYouTubeへアップするために色々やっていたらしいということを考えると、これはYouTuberの極北という事例だったのかもしれませんね。

誤認逮捕を狙う?つまようじ混入動画、偽装の可能性(朝日新聞 15/1/18)

スーパーで菓子の容器につまようじを入れたり万引きしたりするような動画がインターネットに投稿された問題で、警視庁は18日、不正な目的で店に侵入したとして、東京都三鷹市の無職少年(19)を建造物侵入の疑いで逮捕した。
(中略)
捜査幹部は「(実際にしていない万引きなどで)誤認逮捕を誘発する狙いだったのかもしれない」。同庁によると、一連の動画に絡んで実際に万引き被害が確認された例はこれまでにないといい、少年が異物混入や万引きを装った動画の投稿を続けていた可能性もあるとみている。朝日新聞
で、前述のuuumもそうだと思いますが、周辺の事情を聞くに「YouTubeからの配信報酬をアテにしているのではなく、YouTubeでこれだけのファンを抱えているから企業から直接広告が入るのだ」というビジネスモデルになっています。当たり前といえば当たり前ですが、それであれば、YouTubeが盛んに宣伝していた「好きなことで、生きていく」というのはマルチ商法と同じ煽りに過ぎないのではないでしょうか。

しかも、海外で定番になっているTwitchなどのゲームプレイ動画勢は、もともとゲームプレイヤーと動画の配信を観る層との高い親和性と、eスポーツやタイアップビジネスの延長線上にその収益性があると見られます。日本では、AppBankのマックスむらいさんの場合、ニコニコ動画生放送やYouTubeで人気作「パズル&ドラゴンズ」のプレイ動画の配信で人気を博した一方、強気になったAppBankとタイアップをしてうまくいくコンテンツはそれほど多くなく、費用に見合わないケースも多くあります。日本のゲームシーンが、必ずしもメインストリームに「プレイ動画の鑑賞」にまだ向かっておらず、過渡期にあるのではないかなあと感じるわけです。

言われてみれば、YouTube含めたネットでの動画視聴は、たとえそれが「ながら視聴」であったとしてもよほど作品や出演者にコミットされていなければ相当に時間を食うわけです。YouTuberが小学生以下に高い人気を誇るのも、購買力のない小学生が「安価な時間を楽しく潰せる仕組み」として、ブロードバンド環境下でパソコンやiPadなどでこれらの動画を観ているわけですから、その盛り上がっている数字が子供主体であってもなんら不思議はないんですよね。

それを広告主が気づくと「いくらYouTberやAppBankに取り上げてもらっても、無料アプリで無課金ユーザーが来るだけで儲からないので、そっちにタイアップをして金を突っ込むよりもニコ動やYahoo!に広告を突っ込んだほうが効果が出やすい」という話になってしまうわけです。いまでも「無料ダウンロード数を宣伝で使いたいから小学生でいいので告知したい」と思っている広告主は多いので、そういう方面ならまあいいんでしょうが、YouTubeの主力になっている髭剃りや海外旅行などの広告をいくら小学生に見せても効果がないのは当たり前なんですよねえ…。

このあたりは、YouTuberでとても人気になっている瀬戸弘司(せとこうじ)さんがTwitterでYouTubeに限らずネット広告単価は経験上1月8月は下がるというお話もされていましたし、リアルの世界を知れば知るほどYouTuberは普通のメディアビジネスとそれほど変わらないのでは、と感じるわけであります。

mixiの動画配信サービスへの早期参入と早期壊滅を心からお待ちしております。