LINEは絶好調のようで色々と課題も多い2015年になりそうですね
昨年、大型銘柄と目され期待されたLINEが上場延期、その後の社長交代や音楽事業での不思議な動きが見え隠れしておりますが、今後どうなるのか楽しみなところです。
山本一郎です。少し悪くなった牛乳を飲んでも腹を下さない強い腸の持ち主です。
ところで、昨年末、突然の社長交代劇があって驚かされたLINEですが、あれはいったい何だったのでしょうか。
代表取締役社長を退任させていただくことになりました(LINE株式会社 森川社長ブログ 14/12/22)
今年4月から出澤COOも代表取締役として選任し移行する体制を整えたので、私は2015年4月から新たなチャレンジをしたいと思います。LINE株式会社 森川社長ブログこういう記述があるということはすでに2014年初頭にはトップ交代は決まっていた話ということだったのでしょうか。よくは分かりませんが、この件を受けて掲載された東洋経済の記事はその見出しとは裏腹に何も書かれておらず、あれはあれで東洋経済らしい釣りが見事でした。
LINE、森川社長が降板を決めた事情(東洋経済 14/12/23)
で、LINEと言えば、昨年は誰でもクリエイターとして稼げる可能性があるということでちょっとした夢のあるUGC企画としてLINEスタンプが盛り上がりましたが、こちらも今年になって新たな発表があり、そうしたユーザー達の熱い期待にちょっと水を差すような印象があります。
「LINE」自作スタンプ、作者の取り分3割減売り上げの50%→35%に(ITmedia 15/1/5)
もっとも、その代わりといってはなんですが、「振り込み申請に必要な最低支払い金額を1万円から1000円に引き下げ、より多くのクリエイターが売り上げを手元に得られるようにする」そうですから、小規模な幸せがよりたくさん生まれそうで良かったのかもしれません。まあ、こういうのは裾野を広げるのが大事ですからね。
さて、ユーザーの期待ということでは、音楽方面の事業展開もLINEは予定通り進んでいない感があります。同社は昨年の10月に開催された同社の事業説明会「LINE CONFERENCE TOKYO 2014」において、音楽配信ビジネスに参入することを発表しておりました。
定額制音楽サービス LINE MUSIC 年内公開。LINEとソニー、エイベックスが新会社(Engadget日本版 14/10/9)
LINEは音楽サービス「LINE MUSIC」を年内提供すると発表しました。LINE MUSICは、ソニーミュージック、エイベックス、LINEの3社共同出資による新会社 LINE MUSIC Ink. が提供するサブスクリプション音楽ストリーミングサービスです。Engadget日本版レコード会社と共同で新会社を設立するということだけが示され、具体的な事業内容については一切何も触れず、新会社を10月下旬に設立予定であることが言及されただけです。まあ、この時点ではこれから半月後に予定された会社設立発表会でのインパクトを優先して、詳細は敢えて伏せたのだろうくらいに想像されたわけです。
しかし、その10月下旬が過ぎ11月になっても何も音沙汰はなし。さらに11月も終わってしまい、もはや先の発表会のことなど誰もが忘れてしまった頃になってようやく、遅ればせながら新会社の設立が発表されました。
音楽ストリーミングの新会社「LINE MUSIC」設立。LINEやエイベックスが新会社(AV Watch 14/12/12)
LINEとエイベックス・デジタル(ADG)、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)の3社は11日、サブスクリプション型音楽ストリーミングサービスの立ち上げに向け、三社共同出資による新会社LINE MUSIC株式会社を設立した。しかし、ここで驚いたのは、当初の予定から1か月以上も会社設立が遅れたのは仕方ないとして、この時点でも具体的な提供サービス内容が一切不明ということです。新規事業の立ち上げが予定通りに進まないのは世の常ですが、コンシューマ向け音楽配信という内容自体にはそれほど新奇性がないと考えられるサービスについて、どのような形を想定しているかも一切触れられないということでは、関係者間で相当揉めていると想像できなくもありません。
(中略)
資本金は4億8,000万円で、出資比率はLINEとSMEが各40%、ADGが20%。代表者は、LINEの上級執行役員CSMO 舛田淳氏が就任する。提供サービスの詳細などについては、改めて告知する。AV Watch
音楽配信ビジネスは、各種の権利が複雑に絡み合い、利権者それぞれの思惑も異なることが多いため、最終的な事業形態を組み上げるには相当に調整がやっかいな代物です。これはあくまでも勝手な想像ですが、LINE側がユーザー間の共有機能で思い切ったことをやりたいと希望している一方、レコード会社側はそうした共有の機会をできるだけ制限する方向で着地させたいといった交渉が行われているのではないでしょうか。
欧米で人気の高いサブスクリション型音楽ストリーミングサービス「Spotify」が、日本でも事業を開始すると噂されるようになってかなり経ちますが、いまだ実際にサービスが開始される気配はありません。おそらく各利権者の思惑を上手に調整することができず今に至っているのが原因と推測されます。逆に言えば、Spotifyが足踏みしている間に、LINE MUSICはなんとか順調に事業をスタートさせたいいうのが悲願でもありましょう。
しかし、こうして外から見ていると、音楽配信ビジネス関連は労多くして功少なしという感が強いですね。プラットフォームビジネスという大きな枠の中で見ると、いかに音楽配信は客寄せ効果があるからといっても、その権利調整等で疲弊するようであるなら、自らは直接手を出さずに一番上手くいってるサービスに相乗りして適当に流しておくのが一番得策なのかもしれません。一方でこれはちょっと嫌な考え方でもありますが、テキストは勝手にコピーしても大きな訴訟沙汰があまり起きそうにないですから、皆がバイラルメディアに手を出してしまうのは当然の流れという穿った見方をしてしまいます。そういう今のネット界隈の在り方を肯定するつもりは全くないんですけれども。
こうして国内向け音楽配信事業ではやや難航ムードのLINEですが、その一方で海外向けは割り切った動きをしています。
LINE、マイクロソフトから音楽配信「MixRadio」を買収(CNET Japan 14/12/19)
LINEは12月18日、米Microsoftからラジオ型音楽配信サービスを提供するMixRadio事業を買収することを発表した。買収金額は非公開。同社が日本で提供を予定している「LINE Music」とは別のサービスとなる。CNET JapanLINE、Microsoft傘下のMixRadioを買収グローバル展開強化へ(ITmedia 14/12/19)
MixRadioは世界31カ国でサービスを提供しているため、LINEは少なくとも音楽サービスでの世界進出で各国での音楽レーベルとのライセンス交渉をする必要がなくなるだろう。ITmedia音楽配信の場合、面倒な権利処理の手間を省けるという意味ではすでにシステムそのものが出来上がり稼働している事業をそのまま買ってしまうのは理に適っていますし、そこからLINEのメインサービスへユーザーを誘導できる可能性は十分にあるでしょう。また、今日の音楽市場を突き放して考えた場合、日本国内で売れるものと日本以外のグローバル市場で売れるものが完全に乖離してしまっているという現実があります。そうであればいっそのこと国内と国外でバッサリと切り分けてしまおうということでもありそうです。あわよくば、国内向けのLINE MUSICよりも手を掛けずに回収することが可能かもしれません。
で、この日本国内で売れるものと日本以外のグローバル市場で売れるものが完全に乖離してしまっているという話については、映画やゲームにおいても似たような事態に直面しており、経産省辺りが目論んでいるクールジャパンとは裏腹に、誰も望んだわけではない国内コンテンツ市場のガラパゴス化みたいな状況が徐々にしかし確実に進んでいる感もありますが、その話はまた別の機会に踏み込めればと思います。
この界隈には、偉大なる先例として我らがmixi先生ご謹製の「mixi ミュージック」がしめやかに葬儀が営まれていたり、au by KDDIでもリスモちゃんの訃報で人々に惜しまれるなどの死屍累々でありまして、ぜひLINEにはきちんとその轍を踏んで豪雨の中で用水路の様子を見に行っていただければと願う次第であります。
ミクシィ、音楽で熱くつながる「mixiミュージック」サービスを開始(mixi IR 06/05/22)
「mixiミュージック」終了ユーザー数伸びず(ITmedia 09/7/29)
音楽配信の雄、リスモくん死去5歳(虚構新聞 11/9/23)