世界中でなにかとお騒がせのUberですが今年はどうなるのでしょうね
一時期はその利便性と快適さで話題になった無料の配車サービス(ライドシェア)の「Uber」をはじめ、シェアエコノミーの概念が浸透する一方、既存法や安全性、信頼性にまだまだ懸念が残る現状があるようです。
山本一郎です。騒ぎを起こさず静かに生きていくのをモットーに毎日を穏やかに暮らしております。
ところで、日本では今のところ法的な問題もあることから実質的な事業参入もなく実態がいまひとつ分かりにくいのですが、諸外国ではタクシーに代わる新しい交通手段としてライドシェアというサービスが普及しだしています。配車サービスとも言われてますね。
その代表的な事業者の一つが「Uber(ウーバー)」です。名前の語感が特殊ということもあって、どこかで見たり聞いたりしたことのある人も少なくないかと思います。
ライドシェアがどういうものかと言えば、あえて悪い言葉を選んで説明すると、ITの力で最大限の効率化を図った白タク斡旋サービスといったところでしょうか。当然ながら、既存の交通産業、とくにタクシー事業者との軋轢が生じるのは避けられないのに加えて、新興産業ならではのどうしてもいたらない未熟な部分が色々と表出し、さながらトラブルの百貨店状態といった印象です。とくにUberはわずか数年の間で急成長していることから注目され、良きにつけ悪しきにつけメディアで取り上げられる機会は圧倒的に多いです。
快進撃を続けてきたライドシェア「Uber」に暗雲(マイナビニュース 14/10/3)
Uber、相次ぐ幹部のスキャンダルに大揺れ―モラルの立て直しが即刻必要(TechCrunch 14/11/20)
インドのUberドライバー、女性乗客を強姦した容疑で逮捕--米報道(CNET Japan 14/12/8)
Uber、各国で相次ぐ営業停止・当局からの訴訟(WIRED.jp 14/12/11)
最近の目立つトラブル報道を拾ってみましたが、直近では韓国で遂に同社CEOに逮捕の可能性まで浮上してきたようです。
韓国、Uberを違法とし、CEOを告発(海外移住者しんえつたいまの東南アジアトレンド日記 14/12/24)
韓国のタクシー事業法では、レンタカーの会社はタクシーサービスを提供してはならないことになっており、この法律に違反すると、2年以下の懲役と1万8千ドルの罰金が課されます。何というか、問題の宝庫な感じで、これだけ問題を抱えるとまずは韓国で火災が起きるという国際社会の儀礼に則ってさっそくややこしいことになっております。
Uberは韓国では昨年の8月から営業を開始し、20%を手数料として受け取っていました。
ソウル中央政府は、Uberに繰り返し異議を唱えてきましたが、UberのCEOは回答してきませんでした。海外移住者しんえつたいまの東南アジアトレンド日記
どうやらUberは韓国においてレンタカー会社を利用することで法規制を回避しようと試みたようですが、その目論見は全く通用していなかったということですね。まあ、CEO本人が韓国まで出頭しない限り逮捕はないのでしょうが、韓国側から何度問い合わせがあっても回答してこなかったあたりは確信的なものが匂います。さすがです、Uber。この事件を扱った別の記事ではUber側の弁明が取り上げられていますが、はたしてこんな都合の良い言い訳があの国で通用するのか今後の成り行きが楽しみではあります。
UberのCEOが韓国で2年の懲役刑か…当局は輸送法違反で同社と彼を告訴(TechCrunch 14/12/24)
Uber Technologiesは韓国の法律制度を尊重し、全面的な協力を提供する。弊社の、運転者と乗客をアプリケーションを通じて結びつけるサービスは、韓国で合法であるだけでなく、消費者に歓迎され支持されている、と弊社はかたく信ずる。それと同時にUberは、このサービスによって生計を立てようとしている運転者を当局が罰しようとすることが適切であるとは信じない。弊社は、韓国の裁判所がこの訴訟において公正で分別ある判決を支持することを、確信している。TechCrunch「お前のやっていることは違法な有料配車斡旋だ」と訴えられているにもかかわらず「消費者に歓迎され支持されているとかたく信ずる」って応答は落語みたいでかっちょいいですよね。この韓国当局相手に話が噛み合ってはいけない、目を合わせない姿勢がUberの百戦錬磨ぽさを感じ取らせます。
Uberが抱える問題の根本は、実際に提供される交通サービスについてその質を担保しておらず、同社が提供するのは交通サービスを利用したいユーザーと交通サービスを提供したいユーザーのマッチングだけであり、それ以外の責任を一切放棄している点だと思われます。
Uber、インドの強姦容疑者逮捕後に訴訟の恐れ(TechCrunch 14/12/8)
Uberは輸送会社ではなく、輸送手段の探し手(乗客)と輸送手段の提供者(運転手)を結びつけるITサービスである。Uberを利用し、必要な利用規約に同意することによって、利用者が世界中どこの都市で拾った運転手も第三者であり(Uberではない)、従ってUberは彼らの行動に関して〈一切〉責任を負わない。TechCrunchまあ、現地に事務所もないわけですから、責任の取りようがないといわれればそれまでなんですけれども。
このため、Uberの利用者は自己責任でサービスを利用するしかなく、なんらかの事故が起きてもその場合には自分で自分の身を守るしかないということになります。さらに、事業運用面における責任ということでは交通事故の事例で以下のような問題も起きています。
タクシー市場を揺るがす配車アプリサービスUber(後編)--浮き彫りになる問題点(CNET Japan 14/10/10)
Uberのアプリをオンにして客待ち状態だったUberXのドライバーが横断歩道で少女をひき殺した事件で、自動車保険の問題が浮き彫りとなった。ドライバーが個人で加入している自動車保険は、営業目的で運転していた場合は有効でない。一方、Uberは「乗客を乗せていなかったので会社に責任はない」という立場である。既成概念に囚われない自由な発想で新事業を興し、既存事業と競合することで新しい市場を開拓し、それによってユーザーにメリットがもたらされることには何の問題もありません。しかし、社会における様々なルールには長年の実績で培われてきた人々の安全をいかに担保するかといったノウハウが数多く含まれているのも事実です。そうした安全にかかわるルールを蔑ろにしてまで営利に走るような企業姿勢であるとすれば、それは反社会的な行為となり得る可能性もあります。
(中略)
Uberは、ドライバーと共に遺族に訴えられているが、「独立業務請負人であるドライバーが起こした事故の賠償責任は会社にない」と反論し、係争中である。
CNET Japan
しかし、その一方でUberに代表されるような「シェア」という概念に基づく新しいビジネスは近年様々な方面において台頭してきており、海外IT系情報サイトの年頭を飾るコラム記事ではこうしたシェアリングビジネスを注目すべき動きとして取り上げていました。
Airbnb、Uber、Lyftが変えた世界:シェアリング・エコノミーの時代(WIRED.jp 15/1/6)
シェアリング・エコノミーはあまりにも短期間で大きな成長を遂げたので、政府機関やエコノミストたちはいまだにその影響力を測りかねている。けれど、結果は明白だ。こうした企業の多くが、つい5年前ならとんでもなく無茶だと思われた行動をぼくらに取らせているのだ。一方で、当然のことながら規制する動きも当然増えてきています。
他人のクルマに乗り込んで(Lyft、Sidecar、Uber)、空き部屋に他人を泊めて(Airbnb)、他人に愛犬をあずけて(DogVacay、Rover)、他人のダイニングルームで食事をする(Feastly)。車両(RelayRides、Getaround)やボート(Boatbound)や家(HomeAway)や工具(Zilok)を他人に貸す。WIRED.jp
中国、タクシー配車アプリ使った民間ドライバーの営業を禁止(ロイター 15/1/9)
交通運輸省は声明で「すべての配車アプリ会社は、交通市場の規則を順守し、責任を誠実に果たすべきであり、自家用車を使ったタクシー営業を行うべきでない」と表明。ロイターUber等のシェアリングビジネスが今後社会とどう折り合いをつけていくのか注視したいと思います。
便利だけど無法地帯も同然のサービスを使わせることは、当然統治する当局としても看過できませんので、そのあたりは何らかの返り血を浴びる前提での話になるのではないでしょうか。そもそも白タク有料配車という時点で、イット業界的には「規制をハックした」と大喜びするのかもしれませんけれども、単なる違法行為だと自制心を働かせる人が少ないからいつまでもイット業界はノリ重視の馬鹿の集まりになってしまうことは良く考えるべきだと思うんですよ。
以前も、ヤフージャパンという会社が別荘を使った宿泊斡旋サービスをやろうとして、よりによって規制の一番面倒くさい軽井沢町を舞台にやったもんだから、ネットの右と左で大論争になったのは記憶に新しいです。どこの会社か詳しく知りませんが、本当ならブレーキ役となるべき法務担当の人が率先して現行法に真正面からクレームをつけている姿を見ますと「ああ、私は闘争心の乏しい人間性で良かったな」と運命に感謝する次第であります。
「Yahoo!トラベル」の別荘レンタル、開始1カ月で休止「法解釈で行政側と相違」(IT media 14/6/30)
旅館業法の怪(ヤフーニュース個人 別所直哉 14/6/26)
[不動産][雑談]ヤフー株式会社執行役員社長室長でも5分で分かるウィークリーマンションと旅館業法(不動産屋のラノベ読み 14/6/29)
ヤフー社長室長による「ステルスロビー活動」記事の問題点。自らの利益のためにメディアを使うのを戒めよ(ヤフーニュース個人 14/6/30)
わたくし山本一郎は別所直哉さんの益々のご活躍、ご健筆を心よりお祈り申し上げております。