「地方対中央」? 波乱な感じ強まる保守分裂の佐賀県知事選
混戦となった佐賀県知事選、終盤に来て元武雄市長・樋渡さんが依然リードという状態のようですが、混迷と閉塞感が強まる地方においては人柄や堅実さよりも実行力を求める傾向が強くなっているようです。
山本一郎です。本拠地も実家も東京のため、里帰りという概念に乏しく帰省される皆さんが少し羨ましく感じる江戸っ子であります。
ところで、4月に行われる統一地方選挙の前哨戦とも言える佐賀県知事選があさっての今月11日に迫っているのですが、自民党本部が主導した候補者選びに地元が反発し、党の推薦候補に対抗するという興味深い選挙戦が繰り広げられています。しかも、自民党がなぜか「あの」元武雄市長・樋渡啓祐さんを担いだものだから、いちいち樋渡さんのあれこれに反発してきたネット社会も騒然。一部では樋渡さんDISのサイトも堂々と立ち上がるなど、地元だけでなくネットからも熱い注目が集まっております。
知事選で保守分裂「佐賀の乱」地方VS中央農協VS政権(東京新聞 15/1/8)
保守分裂の様相、自民必死の応援…佐賀知事選(読売新聞 14/12/31)
自民党の支持団体の「佐賀県農政協議会」(県農政協)は今回、樋渡氏の姿勢に反発し、無所属で出馬した元総務官僚の山口祥義氏を推薦し、支援体制を取っている。農協改革や環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の推進に不満があるとみられている。自民党の一部県議も「支持者に農業関係者が多いので、山口氏を支援する」と県農政協に歩調を合わせている。保守分裂の様相、自民必死の応援…佐賀知事選(読売新聞)難しい立場なのは「樋渡さんは微妙なんだけど、かといって農協と県連に担がれて無所属で出た山口さんも悩ましい」という佐賀県民の声でありまして、各種調査では樋渡さんが数ポイントのリードのまま選挙戦が大詰めに突入。地方首長選では比較的高い投票性向(投票に行くと答えた人は60%超)、同じく首長選では珍しい低い態度未定(二割台前半から中盤)。蓋を開けてみないと分からないことは多いのでしょうが、争点も農協やTPP問題だけでなく政治のあり方から原発再稼動問題にオスプレイと、結構興味深い代物が目白押しなんですよね。
樋渡さんはとってもアクの強い人物なので、ネット社会からのバッシングも凄いわけなんですけれども、これらの「武雄市長時代の功績」を佐賀県民の皆さんがどのように判断されるのかとても興味深いです。
「FACEBOOK市長」を踏み台にする海千山千の面々 (ハーバービジネスオンライン 14/9/30)
その結果が、武雄市からの恒常的な人口流出と産業基盤の低迷です。樋渡さんがどこぞで「武雄市図書館の効果で人口が増えた」と豪語して行政学方面のお歴々を苦笑させておりましたが、いや、確かに宣伝効果はそれなりにあったのです。20億でも30億でもあったのでしょう。しかし、図書館は観光名所ではなく、産業ではなく、雇用創出の場でもありません。うまく宣伝されたところで、売るモノやサービスがなければ有名になっただけで実入りがないのです。「FACEBOOK市長」を踏み台にする海千山千の面々樋渡啓祐を佐賀県知事に選んで本当に大丈夫?
00:武雄市問題(たけお問題)概要説明
樋渡さんの武雄市長時代の強引なやり方にネット住民が反発する一方、佐賀県の出口調査では投票の決め手が「人柄、誠実さ」よりも「実行力、リーダーシップ」「改革や閉塞感の打破」といった項目が上位に来ており、非常に微妙です。西日本新聞の世論調査でも似たような結果が報道されており、どうも佐賀県全体が人口減少や景気低迷、産業がいまひとつといった暗い状況を打破するために「いささかの問題はあっても強いリーダーを」と思っているのかもしれません。
3割が実行力に期待、期日前投票の出口調査「生活」重視が6割超(西日本新聞 15/1/7)
対する山口さんは、文字通り樋渡さんとは対照的に「大きな上ブレをするような破天荒な人物ではなく、堅実で真面目」という印象を有権者が持っているようで、非常に手堅い手腕を発揮するタイプだと認識されているようです。すなわち、暴れん坊で手続き無視なリーダーシップを持つ樋渡さんと、地味で無難で着実な政策を実現していくであろう山口さんとが、おのおの党本部と県連・農協に支えられての保守分裂というのが実情のようであります。
冷めた見方をすれば、武雄市の規模の首長だったのだから樋渡さんは好き放題で来たのかもしれないけど、党本部の寵愛を政策ひとつ間違うだけで失うところでリコールでもすればいいんじゃないか、という話もありますし、せっかく武雄市から出て県知事選で優勢なのだからネット民ももう少し樋渡さんで騒げておいしいのではないかとも感じるわけでありますね。佐賀県民の方は大変かもしれませんし、改革というのはいいけどそれによって割を食う人たちもたくさん出てくるので死活問題なのかもしれませんが。
それだけ地方経済の問題というのはにっちもさっちもいかない状況であるということだけは、国民はしっかりと噛み締めて、この前哨戦を見届けて参りたいと思います。