無縫地帯

『信長の野望 創造』のパワーアップキットと『シヴィライゼーション5』で暮らす年の瀬

慌しい一年がまもなく終わりを告げ、新年を清い身体で迎えたい私たちシミュレーションゲーマーにとって、年の最後に出た佳作「信長の野望 創造」のパワーアップキットが来年に繋がりそうなので記事にしてみました。

山本一郎です。世に言うオタクの中でも少数民族に位置する「シミュレーションゲーマー」の住民です。

したがって、いま開催中であるらしいコミックマーケットとかまったく無縁です。仕事柄、関わらざるを得ない部分はあるんですが、そのあたりは社員に任せて自分はじっくりと腰を落ち着けてゲームに没頭する…そういう生活だったはずが、いまではすっかり子育てに追われる毎日です。

なので、昔みたいに「CIV2でぶっ続け3日プレイ」とか、「パラドゲーですべての国家を試す」といった時間を大量に使うプレイもできなくなり、良質な作品でしっかり遊ぼうというモチベーションになってきたわけなんですよね。本来であれば、信頼と実績のシヴィライゼーションの最新作「Civilization: Beyond Earth」で年越しはみっちり時間を使うのが筋、なんですけれども、申し訳ない、これはまだ発展途上の駄作ですわ。私がCivのSF作品に求めていたのはですね、真の意味での名作、「Sid Meier's Alpha Centauri」およびその正統な続編である「Alien CrossFire」の、究極の発展系なんですよ。迫りくるヤン議長のイカレた視線を真正面から受けてね、やっすい歩兵にオプション兵器つけて都市に立て籠もるプレイこそが求められている本作品の醍醐味なんですよね。作品の概要については、畏友徳岡正肇さんが書いた渾身のレポでも読んでいただければと思うわけですが。

日本語版「Sid Meier's Civilization: Beyond Earth」のプレイインプレッションをお届け。2014年秋の夜長の友達は,これに決定だ(4gamer 14/10/11)
"Sid Meier's Alpha Centauri"(GOG.com)

なもんで、12月に発売された「信長の野望 創造」のパワーアップキットがsteam対応して戻ってきました。4Gamerにも信長の野望シリーズ伝統の弱小大名として名高い姉小路家のリプレイの前編を掲載しておりますが、細々、シミュレーションゲームとして詰まっていない部分はあるもののプレイに足る佳作にまで仕上げてきたなあという印象であります。

【山本一郎】「信長の野望・創造 with パワーアップキット」プレイレポート――輝け! 魂の姉小路家!~風雲嫁取り篇~(4gamer 14/12/27)
信長の野望 創造 with パワーアップキット 公式サイト(コーエーテクモゲームズ)

久しく信長の野望シリーズは綺麗なグラフィックの割にシミュレーションゲームとしての完成度がさほど高くなく、往年のウルフチームのような状態になっていたため、パワーアップキットを買わないと本来の作品の良さが見えないという残念な仕上がりが続いておりました。同様に、三國志のシリーズも「狙いは分かるんだけど、少しはシミュレーションゲームのトレンドを見極めた作品作りしてくれや…」と言いたくなるようなフィーチャーが満載の作品が続いてしまったため、なかなかプレイヤーとしては長く遊びづらいシリーズになってしまっていたのがもったいないところです。

というのも、ご存知のとおりRTSが全盛期のころは「Age of Empires」があり、「Star Craft」やら「Total War」があって、さらには「Hearts of Iron」に代表されるParadoxのシリーズがリリースされており、洋ゲーの世界においては日本製シミュレーションゲームは決してポジションとして高くありません。ゲーム単体の品質で見るならば、今作の「信長の野望創造」も決して技術的に劣るものではないのですが、シミュレーションゲームの設計という点ではゲームとしての楽しみもギミックの質も、そしてシミュレーションゲームとしてのリアリティという点でも厳しいのは事実です。

軽く問題点をあげて見ましょう。

・ 外交が非対称。あくまで一人プレイに割り切っているからか、自大名から見た他AI大名と、向こうから見た自大名の価値が異なる。基本的に他Ai大名から関係改善の使者が来て外交が劇的に変わるというようなジレンマはない。唯一、従属させたAI大名が、自大名に姫を送ってくることはあるが、この手のシミュレーションゲームの醍醐味である「A派閥に属する大大名と結ぶとB派閥の大名群からは総スカンにされて不利になる」という決断を迫られることが少ない。パワーアップキットになって「連合」という概念が入ったが、連合が組まれるころには大勢が決していることが多く、婚姻している大名は敵対しないので「連合が組まれてしまったとき対策」も容易。

・ 使えない武将は最後まで使えない。何の役にも立たないので、後方の城で城主にもならずゲーム終了か寿命が来るまで何もさせることなく一生を終える。従って、直轄地から外れた地域はAI軍団長に仕えない武将ごと任せて後方においておくだけ。その武将が死ねば、ほとんどの場合その一家も絶えるため、置いておいてやる理由もない。ついでに、娘を縁組させてもその武将だけが血縁である一門衆になるだけで、その親兄弟子供は赤の他人のまま。

・ 戦争に出かけている武将も普通に内政できる。合戦や城攻めの日数がかかりすぎることもあり、兵站がなんと120日分もある腰兵糧で賄われる。どんな腰ですか? 自国城や同盟国の城で補給できるため、理論上は鹿児島で徴兵した領民兵が青森や北海道で戦争することもできる。しかも、所属が城単位のため、出陣が城単位で部隊が編成される。遠くで城を囲んでいる武将が、地元の畑を耕しているというのはあり得ないし、システム的に無理がある。

・ 城管理、武将管理が手間だし、城の開発は醍醐味なのだが拡張と建設、変更を駆使するのが大変。また、地域に分けられているはずなのに豊作や一揆などのイベントが城単位で発生するのでイベント自体が空気。なので、季節ごとに対策するべきことは秋前の農地整備ぐらいでメリハリがない。その割に、城の成長は青天井で、マックスまで成長させるとよほどのことがない限りその城の城主や奉行がやることはなくなる。後背地の兵隊さんはひたすら遠征するだけの作業。

・ 相変わらず謀略はほとんど使えない。忠誠度の低い敵武将を見繕って寝返りを促したり、軍団を無力化させる程度の働きしかできないため、敵の作戦を見極められないと足止めさえ確実に使うことができない。敵情の偵察も一度偵察したら永劫丸見えというのもおかしい。戦場の霧はどこへ。はるか遠くから自国の城へ攻め込む軍隊が向かう瞬間からアラートが出るとか、もうちょっと考えようよ。

・ 城に防御力がない。どういうことだ…なので、城の耐久よりも少ない兵隊で包囲されても時間がかかると落城してしまう。寡兵で正面から敵を足止めしなければならないので有利な土地で待ち構えて地形効果を利用しようにも、城ではなく陣地を構築しなければならない。普通、戦国時代の戦争をするときは敵の城を攻略するために陣を張って自戦力を合流させたる目的で陣地を建設するんじゃないの…。

・ 戦力が大きくなっても大名に固有のイベント以外でお家騒動は発生しないため(”南部家津軽家”や”三好家と松永久秀”、”本能寺の変”など)、一定以上自勢力が大きくなるとあとは統一のための作業と化す。他AI大名も決して馬鹿ではないのだが、先方も大きくなって天下分け目の合戦…と思いきや、地味に平押しで前線の敵城を一個一個落としていくルーチンワークをプレイヤーに強いる。その間、敵味方の情勢を見て、中間にいる大名や軍団長がどちらにつくと有利かといった外交は発生しない。

・ レベルデザインは全体的にいい加減。成長が厳しい序盤の本城に20,000人の人口を持たせて一回目の拡張をやるまでは死ぬほど苦労するが、55,000人から60,000人へ増やす最後の9回目の拡張は簡単。道路が整備されれば人口が増える理由がはっきりしないし、人口が増える仕組みや民忠が兵力の源泉になっている仕組みも不合理。なので、所与の人口が多くひしめく近畿や関東の大名はプレイが容易で、上級プレイなどでここに敵AI大名がいると放置したら先々手がつけられなくなる。武将の成長も+20で打ち止め。元の能力が10でも30まで、100だと120まで。例外なし。前線で戦う一線級武将は城主になって10年ほどでどんなに若くても能力のマックスに。

[[image:image01|center|織田家と結んだ上級・姉小路家。この時点で北条方面へ向かうしかなくなる]]

おそらく、シミュレーションが求めるリアリティと、ゲームとしての面白さを両立させなければならないので、戦国時代をモチーフとしながらもテーマに沿ってゲーム全体をきちんとデザインする必要がある、ということで取捨選択せざるを得なかったのでしょう。前作「信長の野望 天道」で、やりたかったけどできなかったテーマや仕様が数多あり、意欲的に盛り込んでこの「信長の野望 創造」を作ったことまでは良く分かるんですよ。

でも、例えば「使えない武将問題」や「何か変な補給システム問題」ひとつとっても、他のシミュレーションゲームではいろんな工夫をしてリアリティをゲームの中で再現しようとしています。それこそ、ほかならぬコーエー初期の作品で、ナポレオン時代をモチーフにした傑作シミュレーションゲーム「ランペルール」というゲームがあります。このゲームの凄さは、将軍の人数の制限など初期のコンピュータゲームの機能的な制約もありながら、古いプロヴィンス管理システムの中に「前線に食糧を送ろうとすると、パルチザンやコサックに襲撃されて、送った量ほど前線には届かない」とか「敵が攻め込まれたプロヴィンスを焼け野原にして撤退する」という仕様をもって、対ロシア戦線の厳しさや焦土戦術を表現しています。

コーエー定番シリーズ 「ランペルール」

たぶん、本来の「信長の野望 創造」が目指していくべきゲームというのは、この手のレベルデザインやフィーチャーを工夫しながら、とても良いテーマである「道」を駆使するという洋ゲーにはない仕上がり感を見せることだと思うんですよ。相変わらず地図のズームが段階も決まってて、いまの領土にちょうどいい大きさでズームを固定できないといった、細やかなUIの部分や、使うコマンドが直感的でない、情報画面が出ると裏側の画面を確認しながら判断できない、せめてウインドウ複数立ち上げて情報管理させてほしいといった、PC専用シミュレーションゲーマーのイラつく感じをすべて踏み抜くマゾい手触りが気になるわけであります。やっぱり協会を拡張して大聖堂を作ると兵隊がいっぱい雇えるようになるとか意味の分からない仕様はもう少し考えたほうがいいと思うんですよね。

でも佳作です。良くできてるんですよ、本作品は。それほど、「信長の野望 創造」は、いままで半ば諦めかけていた国産シミュレーションゲームの可能性をほんの僅かながら見せてくれました。できることはいっぱいあるけど、ちょっとした改良で傑作に化けるような、外国製シミュレーションゲームにはない良さを備えています。かつては「従軍慰安婦コマンド」などさまざまな地雷を踏みながらも一定水準以上の良作を世に送り出してきたからこそ「コーエーといえばシミュレーションゲーム」という存在が際立っているのでしょう。

せっかくsteam対応しているのですから、MODやユーザーツール、拡張作品の再販許可などコーエーテクモにも時代にあった変身を遂げてほしいと切に願います。やっぱりMOD作りたいですよねー。