出版不況で雑誌も生き残りが大変そうです
このところ、キュレーションメディア()の興隆もあり、若干下げ止まり気味とはいえ出版不況が大変な状態であることには変わりありません。典型的な構造不況業種と言っていい出版業界の明日はどっちでしょうか。
山本一郎です。先日、某社編集部の忘年会と、別のネット系メディアの忘年会をはしごしたんですが、老人の集まりでまるでお通夜のような某社編集部忘年会と、若手ライターが食事に群がり人を掻き分けるようにして移動し大声でないと声が通らない活気に満ちたネット系メディア忘年会のコントラストが目に沁みました。
ところで、キャバクラで働く女性を主な読者に想定するというニッチな編集方針が逆に話題を呼び一時は「盛り髪」といった社会現象まで巻き起こしたファッション誌「小悪魔ageha」を発行していた出版社のインフォレストが破産したとのこと。
「小悪魔ageha」の出版社インフォレストが破産決定、雑誌の市場規模は4割減(IRORIO 14/12/12)
「小悪魔ageha」が売れなくなった理由としては、名物編集長の退社などに起因して編集方針が迷走したことが大きかったという話も聞きますが、やはり雑誌市場の縮小やそれに伴う広告収入の下落が影響していることは間違いないでしょう。特に女性ファッション誌は厳しい状況にあると言われています。
ファッション雑誌の相次ぐ休刊インターネットが経済に与える功罪とは?(経営者online 14/8/24)
今、女性向けファッション雑誌の休刊がブームです(男性向けも同様)。某社の統計によると、2010年~2014年7月の間に100紙以上の雑誌(ジャンル関係なく)が休刊しており、その多くを女性向けファッション雑誌が占めていました。で、売れなくなった雑誌の代わりに同様な情報を提供するWebサイトが増えているといいうことのようです。従来の雑誌であればバックナンバーを手に入れなければ見ることができなかったアーカイブ情報をWebなら簡単に閲覧できるというのは、確かにエンドユーザーからすればメリットの一つになりますね。
(中略)
低迷なファッション雑誌に変わって表にあらわれたのがインターネット上に乱立するファッションサイトです。
(中略)
この類のサイトはページランクを上げるためなのか、古いアーカイブ記事をそのまま残しているのが特徴であって、これにより6ヶ月前・1年前の流行ファッション等も見ることができます。経営者online
こういう状況ですから、雑誌を出版する側も生き残りのために色々と施策を考えなければならないわけですが、女性ファッション誌として老舗の一つである「anan」はそこでニュース配信という道を選んだようです。
雑誌『anan』連動の女性向けニュース配信「anan news」スタート(ITmedia 14/12/17)
マガジンハウスは、12月10日に女性向けファッション誌『anan』のニュース配信サイト「anan news」の運用を開始した。お、おう。
(中略)
配信ジャンルはファッション、芸能、美容、カルチャー、フード、旅、恋愛、結婚、ダイエットなどで、毎月200本以上を提供するとしている。ITmedia
本件については、同誌を発行するマガジンハウスからのプレスリリースを読むと、よりどういう思惑でサービスが開始されたのかをうかがい知ることができます。
雑誌『anan』が毎日ニュースを配信する『anan news』を開始(マガジンハウス/@Press 14/12/16)
・コンセプトここに書かれているのは、エンドユーザー向けではなく、あくまでも広告出稿などを検討しているクライアント向けということもあるのでしょうが、「オンナの武器」という言葉はちょっと意外というか、スマートでお洒落なファッションの世界とは正反対の下世話な匂いがしなくもありません。まあ、いつも「SEX特集」が最も売れるという話もあるようですから、ananという雑誌はもはやいつでもそういう線で商売しているということなのでしょうか。
「好奇心がオンナの武器!ananからニュースを配信します!」マガジンハウス/@Press
それはともかく、ここで注目したいのは以下の部分です。
・配信先つまり、単独の自社運営サイトからのニュース配信だけではマネタイズできないので、記事を遍く広く売りたいということですよね。あとはイマドキのネイティブ広告で大型タイアップ案件を回すということになるのでしょうが、残念ながらプレスリリースではネイティブ広告の文字はなく、代わりにシンプルな「記事広告」と記されているあたり、まだマガジンハウスもネット仕事にあまり馴染んでいない感が無きにしも非ずですが、これは逆に、うちはネット屋ではなくちゃんとした紙の雑誌の出版社ですというプライドがにじみ出ているのかもしれません。あくまでも勝手な憶測ですが。いずれにしても、こちらで上手く回り出せば、いずれは軸足を紙の雑誌編集からニュース配信へ大きく移すということも検討しているのではないでしょうか。
主要ニュースサイト、キュレーションメディアに配信予定マガジンハウス/@Press
そのほか雑誌の生き残り策ということでは、電子書籍形式でサブスクリプションサービスにラインアップされるという道もあります。ドコモが運営する「dマガジン」は、公称会員数が100万を突破したとのことでそれなりに順調なようです。
電子雑誌読み放題サービス「dマガジン」会員数が100万人突破(ITmedia 14/12/17)
しかし、こちらで配信される一誌あたりの売上が具体的にどれくらいになるのかは知りませんが、ここでの売上だけで雑誌編集事業そのものを維持するのはおそらく困難でしょう。雑誌という形での媒体が生き残るためにはもう少し違う手法が必要とされそうに思いますが、それが簡単に分かれば苦労はないわけで、なかなか大変そうです。
紙が売れなくなるのは分かっていたので、それに対する模索をし続けているのが出版業界の現場なのだろうと思いますが、せっかく作ったオリジナルで価値の高いコンテンツが、売り場を見繕えないというしょっぱい理由で新興のアグリゲーターに安く買い叩かれている現実というのはさみしいものがあります。記事の作成に対して応分の負担をしっかりしてもらえるような仕組みができないと、書き手と売り手と読み手のエコシステム()が崩壊しかねないなあと思う今日この頃です。
今年も引き続きただ酒が飲める忘年会からのお誘いを心から待っております。