ダイヤモンドオンラインで児童養護施設関連の謎議論が勃発
私も係わり合いのある児童養護施設の界隈で批判が殺到している記事があるので読みにいったんですが、どうも公的助成金額を月間と年間で見間違えたまま施設不要論を展開しているような記事で心が暖まりました。
山本一郎です。私的な話なんですが、25歳からいままで16年ぐらい、多かったり少なかったりしますが毎年児童養護施設には活動資金として寄付を続けてきていまして、また同時にいろんな問題を知る機会もあって、多感な子供の成長というのは本当にむつかしいのだなと痛感する次第です。
で、先般ダイヤモンドオンラインで不思議な記事が出ているというので、児童養護施設界隈で物議を醸していたようでして、興味を持って見物にいってきました。
1人に1億円以上かけて、ホームレスやワーキングプアを量産!? 『明日ママ』でも描けなかった、児童養護施設をいますぐ止めるべき理由(ダイヤモンドオンライン14/10/28)
なんですかね、これ…児童養護施設で暮らす子供たちが「卒業」するまでに、一人当たり1億円以上公的支援があるというのは聞いたことがありません。そんな潤沢な予算があるなら、寄付なんていらないんじゃないかと思ってしまうぐらい、別次元の話でありまして、なんだろうこれは、と思ったわけです。
どこの世界の児童擁護だろうか、と思って元データとされる千葉県を見ていたら、素敵なことが判明しました。
社会的養護を必要とする子どもたちのために ~千葉県における社会的資源のあり方について 答申 (案)~
問題の箇所を抜粋します。
[[image:image01|center|確かに金額はぴったり一致。しかしこれは…]]
上記ダイヤモンドの記事では、こんなことを書かれています。
千葉県は平成19年3月に、要養護児童の経費について公表したが、これによれば、要養護児童1人をを0歳から18歳まで養育するために、県立児童養護施設で養育する場合は約1億1500万円、民間の施設で養育する場合は約7680万円の費用がかかる計算となる。もう少し詳しく伝えると、県立乳児院の乳児1人当たりの経費は月額約96万円。県立児童養護施設の子どもひとりの費用は月額約45万円である。一般人の感覚からすれば、これはいくらなんでも費用がかかりすぎだと感じるだろう。1人に1億円以上かけて、ホームレスやワーキングプアを量産!? 『明日ママ』でも描けなかった、児童養護施設をいますぐ止めるべき理由まさか、'''”年間”'''の児童養護施設の公的予算のところを、'''”月間”'''と間違えて論じてませんかね…しかもこの資料、NPOなどが運営する民間の児童養護施設よりも、千葉県が公費で運営する県立県営児童福祉施設のほうがコストがかかっているのが問題かもしれない、と思案している内容ですね。だからこそ、民間と比較して、県立施設は1.6倍以上かかってる、と指摘しているわけです。
逆に言うと、それだけ児童養護施設にかけられるお金は限定的だということです。抜粋した資料にもあるとおり、県が運営する3つの施設、乳児院は昭和47年(1972年)、富浦学園は昭和42年(1967年)、生実学校は昭和46年(1971年)の建設で、リノベしているかもしれませんが基本的には老朽化が進んでいると思われます。
そんな施設で暮らしている児童は、このダイヤモンドの試算と同じ数式を流用するならば、施設を出るまでにわずか千万程度の教育予算しか使ってもらえていないという話になるわけですね。これではワープア養成施設だと批判する筆者の主張がまったくあべこべになってしまいますし、むしろ児童をしっかりとした就業の出来る人物に育成するためにももう少し予算がかけられるような方法を模索するべきという結論になります。
もちろん、途中で幸いにして引き取っていただけるご親戚や里親の方が出たりして施設を出る児童もいるでしょうから、そのあたりは本当に概算だけでは分からないことが多いです。
この本論で語られていることも相当イカレている部分が感じられ、まあそれは意見や現状認識の違いはあるのかもしれないので措くとして、筆者の竹井善昭さんの過去記事を何個か見ましたがもう少しきちんと論じられるモノがあるんじゃないのという気持ちです。社会貢献で頑張っておられるからといって、適切な政策論ができるわけではないという生きた見本としてこれからも連載を続けていっていただければと願う次第であります。
最後に、まったく違う文脈で釣られた我らが駒崎さんのツイートを引用して本稿を終わりたいと思います。
家庭養護率が低いのはその通りだが、だから児童養護施設を今すぐ止めろ、というのは暴論。:1人に1億円以上かけて、ホームレスやワーキングプアを量産!? 『明日ママ』でも描けなかった、児童養護施設をいますぐ止めるべき理由 ダイヤモンド駒崎弘樹:Hiroki Komazaki今後ともよろしくお願い申し上げます。