日本人の結婚観と、少子化対策の問題
日本社会の少子化問題がいかにいろんな社会問題と玉突きになっているのか、なんとなくまとめてみました。
山本一郎です。最近、仕事よりも育児のほうが時間と労力をかけているような気がします。
ところで、先日「しらべぇ」というサイトへの寄稿で、幾つかの婚活サービスの首都圏利用者データを使ってサンプル調査をしたところ、女性の結婚相場において31.6歳から急速に結婚に於ける価値が減衰するという内容を書きました。
【コラム】ババアと出会いの価値を算定する(後編)価値を落とさない5つの要素(しらべぇ 14/10/28)
記事自体は面白おかしく書いているわけですが、先日のデータえっせいで興味深い記事がありまして、要するに結婚した女性の出生率は各年代引きあがっているという構造であります。
少子化の要因の2局面(データえっせい 14/10/19)
未婚化が進んではいるが,結婚している女性から産まれる子どもの量は増えている。こういう傾向が読み取れるかと思います。とくに近年にあっては,両者のコントラストが際立っています。2015年まで曲線を延ばしたら,どうなっているでしょうか。一方で、我が国においての政策議論では、少子化問題タスクフォースが発表している文書を読んでいるとむしろ少子化全体の環境に対して、かなり網羅的な施策を検討しているようにも見受けられます。
最近,「婚活」という言葉が生まれ,各自治体も男女の「出会いの場」をつくることに躍起ですが,なるほど,こういう取組の必要性を支持するデータです。と同時に,結婚という型にとらわれない同棲や婚外子への許容度も高めていくべきなのか・・・。『世界価値観調査』などでみると,日本は,イスラーム国と並んで,これらに対する許容意識は格段に低い社会なり。データえっせい
内閣府少子化対策
少子化危機突破タスクフォース(第2期)取りまとめ
この辺をしげしげと見ておりますと、もちろん医学的な前提に基づいたテーマセットで総花的かつ全体の議論をしっかりと進めながら、個別に効果のある具体的な政策を洗い出そうとして、数字的裏づけを見つけきれず議論が迂回しているようにも見受けられます。上記のデータえっせいで指摘されている数値が正しいとすると(まあ、正しいんですが)、少子化対策に一番効く変数というのは実のところ「本人の意志を尊重した早期の結婚の斡旋」または「婚外子に対する社会的許容」であり、恐らくは、次いで「出産後の経済的不安の解消」「社会全体が出産・育児に対してより容認的になる諸制度の充実」といったところでおそらく少子化事由の80%は網羅されることになるのではないかと思うわけです。
一方で、少子化対策に予算を積むということは、合理的に考えて他の分野の予算を減らすことに他なりません。「必要だから金を出せ」というだけではたぶん駄目で、「他よりも比較としてこれだけ重要だから、このような重要な問題に取り組むのでここの予算を削りましょう」というのとセットでないといけないわけであります。
また、闇雲に少子化対策予算を積んでも効果が出たかどうかが分かりませんので、今回目標とする出生率2.07を達成するためにどのようなマイルストーンを置くのかという政策課題も同時にちゃんとセットしないといけないのですが、あまりその辺の議論が出てきているようには見えません。
出生率に数値目標は必要か「2.07まで回復」政府会議で検討開始(ハフィントンポスト日本版 14/4/22)
生々しい言い方ですが、政府予算(=税金)をどのくらい注ぎ込めば、予想される出生率を向上させられるかという議論はするべきであり、ぶっちゃけ赤ちゃん一人当たり幾らよ?という数値目標に他ならないと思うわけです。
ここで、社人研のデータを見てみましょう。
国立社会保障・人口問題研究所
日本の将来推計人口 平成24年版
以上見てきたように、日本は将来推計において、もっとも低い出生率・死亡率を見込んでいるという大きな特徴を持つ。日本の将来推計人口p.50データスキーからするとこの一覧を見るだけで圧巻なのだが、日本がもしもフランスやアメリカのような人口構成に近づいていきたいと考えるのであれば、やはり当面の出生率は2.07を目指していくほかないのかと考えるほかありません。そうなると、マイルドに諸政策を打って結婚を奨励し社会制度を変革していくよりは、税の優遇や出生一時金のような子供のいる家庭に資金をつけたり、これから生もうとする女性に対して経済的・制度的に生めるような設計をすることはどうしても重要になりましょう。
そうなると、削る先というのは必然的に世代間分配の延長線上、すなわち社会保障費の削減を行い、その一部を出生率改善のための原資とするしかないんじゃないのと思うわけであります。というのも、2013年の出生数が102万人、以後6年間同じだけ子供が生まれるとしても、この子供たちの扶助のため6年間、母親に対して年間120万円の公的助成を行えば、年度あたり7.2兆円ぐらいかかります。消費税1%で2兆円としても3%引き上げないと無理な計算ですね。
ちょうど国家公務員の総人件費も似たようなもので、ここから合理化して何兆円も捻り出すのは無理でしょう。
公務員人件費
一方で、社会保障費総額で言うと国庫負担が軽く40兆円超えというオーダーです。
社会保障の体系と現状
この辺を見ていますと、少子化問題は大変だし早急に対策を打たないといけないんだろうけれども、じゃあその財源は、どこを削るのという話になるととたんに頭の奥底がピリピリとくる議論へと発展するわけです。クチでは子供は大事だ、出生率を日本は向上させるべきだと言っても、じゃああなたの医療費負担をもう20%上げさせてください、支給する年金や生活保護の給付水準を15%下げます、となると途端に暮らせない人が出てきてしまう、というわけです。
少子化対策、しないといけないの?
必要なのはわかっているんだけど、なかなか一歩が踏み出せないというのは、実に厄介な問題を国民や社会に突きつけているわけでして、ぶっちゃけ衰退していく日本にはもはや潤沢な資金がない中で何を希望にして頑張っていくのか、そろそろまじめに考えないといけない時期に来ているのだと思います。