無縫地帯

赤い巨人パナソニックが今日も三倍元気に迷走中

不調、苦境が伝えられるパナソニック、ヘルスケア事業からの撤退や電子書籍ビジネスへの進出という失笑しか感じられない噂話が流れ、しかも広報が否定するという伝統芸まで披露しました。何をしていんでしょうか。

やまもといちろうです。風邪でも流行っているのかなあと思ったら、みんな花粉症対策だったんですね…。

えー、パナソニック絡みで大きな報道が2つありました。

パナソニック、来年度にも出版社買収を検討ヘルスケア事業は売却(SankeiBiz/Yahoo!ニュース 2013/3/17)
パナソニック、TV事業を大幅縮小 プラズマ撤退へ(日本経済新聞 2013/3/18)

その後、パナソニックは、テレビ事業に関する報道内容は同社が発表したものではなく、テレビ事業戦略について様々な検討をしているが、決定した事実はないと発表しています。

当社事業に関する本日の一部報道について(パナソニックIR資料 PDF 2013/1/18)

一方で、出版社買収とヘルスケア事業売却に関する報道については、3月19日午前の段階ではまだ何もパナソニックからコメントがありません。

テレビ事業が厳しいことは、何もパナソニックに限った話ではなく、他の家電メーカー各社も同様に何らかの事業構造改革を迫られて久しいですから、今回の報道でプラズマ撤退と言われても、あぁ、そうだよねぐらいにしか思いません。テレビが売れないというネタでの論考もやや出尽くした感があります。

っていうか、いまごろプラズマ撤退って本当に市場のことが分かっているのか不安で仕方がないのですが、それでも松下大本営は「テレビ事業に対する報道内容は同社が発表したものではな」いとか言うわけですね。遅いってレベルじゃないと思うんですよ。社内でいろいろ起きているんだろうとは思いますが、そういう社内政治や調整ごとに明け暮れてビジネスやっているから遅れを取るんじゃないですかね。

もう何度も何度も「テレビが売れない」って言われているからまたその理由を考えてまとめてみる(空気を読まない中杜カズサ 2012/11/20)

しかし、今後市場としても有望視されているルスケア部門を売却して、どう考えてもパナソニックが得意とは思えないコンテンツ事業へ新たに手を出すという報道は、やや衝撃的なものがありました。まあ、好調で高く売れるものは売れるうちに売ってしまおうという話なのかもしれませんが。

成長領域を売却し、衰退産業を買収するパナソニック(ASSIOMA 2013.3/17)

高齢化社会に突入している先進国では今後は「ヘルスモニタリング」の必要性は増すと考えられている。
また、パナソニックは過去にユニバーサル映画を買収したり、ゲーム事業で3DOを立ち上げたりしてまして、こういったソフトがメインに絡む事業はことごとく失敗しています。ちょっと前も、Jungleなる新しい携帯ゲーム機の開発を進めているという報道がありましたが、製品が世に出る前に、プロジェクトは無事お蔵入りになったようです。同じ思いを抱く人は少なくないようで、すでにこんな論考もネットに上がっていました。

パナソニック「出版社買収検討」報道を受けて、目が点になる(編集者の日々の泡 2013/3/18)

でもパナソニックってさあ……。バブルの金でハリウッドのMCA(ユニバーサル映画等)を買収したものの、5年くらいで放り投げたよねたしか。あとなんて言ったっけ、ゲーム機、そう3DO。あれもやたらと宣伝して高額で売り出したものの、肝心のゲームは微妙な奴ばかりであっという間に撤退してた。
電子書籍イコール、今注目のスマートデバイス事業ということで、パナソニックはそちらが強いのかと言えば、すでにスマートフォン事業は苦戦が続き昨年には欧州市場からの撤退が発表されています。

パナソニックモバイル、欧州のスマホ事業から撤退へ(ケータイWatch 2012/10/31)

あまり得意ではないスマートデバイスが戦場となる場所で、いきなり出版社を買収して電子書籍事業に新参するというのは、家電業界の巨人としては相当思い切ったなという感があります。実際のところ、どこの出版社も電子書籍に関しては暗中模索している状態で、紙の本で成功したところがそのまま電子書籍でも成功できるとは誰も考えていないでしょう。

それだけ誰も訳がわからない混沌とした状態なだけに、今、電子書籍を巡る世界では、大小様々なビジネスコンサルタントという魑魅魍魎が跳梁跋扈していて、かなり面白い状況でもあります。「電子書籍ビジネスチャンス」といったキーワードで検索すると、とにかくポジティブな言説が溢れ盛り上がっていますが、もしかして、パナソニックの中の人もこういうのを読んでいたりするのでしょうか。

今回のパナソニックの動きについては、村上福之氏が書いたコラム記事における考察が一つのヒントになるのかもしれません。なぜなら「電子書籍」も、今世間を騒がせているキーワードですから。

なぜ日本の伝統的メーカーは「エラい人のキーワードでモノつくる構造」を早くやめられないのか(エンジニアtype 2012/9/3)

もう、時効だから言いますけど、10年くらい前に、PDAとか流行った時、「うちもM下らしいPDA(Personal Digital Assistant)を作ろう」という大号令が掛かり、コンセプトも決まらないまま。60人以上のエンジニアが投入され開発にGoが出ました。

「M下らしいPDAって何ですかね?」とエライ人に聞いても、「そりゃ、M下らしさを前面に押しだしたPDAだよ!」とか返されて、みんな黙ってしまいました。開発現場では「Sニーの●●のロゴをうちのに変えればいいんだよ!」とか冗談を言いながら、無駄なコードを書いてました。

開発が難航し、一年後、無駄な試作品をいくつか作って、日の目を見ないまま消えました。
しかし、もし本当にこんなことが理由で電子書籍の世界へパナソニックが足を踏み入れるのだとしたら、なんとも空恐ろしい話ではあります。願わくば、たとえ大いなる迷走だとしても、それが結果的に良かったと言える未来が来て欲しいものです。

この電子書籍の世界というのは、ネットが分からない大手にとってはヤッパ鬼門ですね。ええ。皮肉ではなく、事実として。