無縫地帯

Googleの新興国向け格安スマホがもたらすもの

新興国向けのスマートフォン市場が激戦となり、その中でgoogleの打つ手が命中する形で席巻している状態ですが、50億人のためのスマートフォンとか言われるとさすがに気が遠くなります。大丈夫でしょうか。

山本一郎です。鼻水が止まらないのでちり紙を鼻の穴に押し込むプレイでデスクワークを進めております。

さて、以前から話題になっていたGoogleの新興国向けの低価格スマホですが、遂にインドで販売が開始された模様です。

初の「Android One」端末、インドで発売6399ルピー(約1万円)から(ITmedia 14/9/16)
Android Oneスマートフォンは約1万円で発売、最新OS Android Lを年内提供。「次の50億人」市場向け (Engadget日本版 14/9/16)

米Googleは9月15日(現地時間)、6月のGoogle I/Oで発表した取り組み「Android One」の初の端末がインドで発売されると発表した。価格は6399ルピー(約1万円)からで、地元キャリアとの協力により、通信料金も安くなる。ITmedia
Android One スマートフォンは年内にフィリピンやインドネシア、スリランカ、バングラデシュ、ネパール、パキスタンなどの国で、2015年にはさらに多くの国で提供予定。Google では Android Oneについて、現在は先進国を中心に10数億人に限られるスマートフォンユーザーを新興国市場で拡大し、PCよりも安価に誰でもインターネットの情報が得られる「次の50億人のための」スマートフォンと位置づけています。Engadget日本版
すでにスマホ市場におけるAndroidの優位さは数々の統計で分かっていることではありますが、こうしていよいよGoogleは真の意味でのグローバル市場を獲りにきたということになりそうです。

端末の仕様などを見ると、スペック的には先進国市場で売られているモデルより劣っていても、OSだけを見れば我が国で売られている高級モデルなどよりも先を行っている点が興味深いです。

OSは出荷時にAndroid 4.4 KitKat、年内にAndroid Lアップグレード予定。OSは素のAndroidベースでGoogleが直接アップデートを提供するため、Nexusシリーズのように真っ先にAndroid Lが使えるようになり、その後も長期間に渡って新OSとアプリ・サービスの恩恵を受けられます。Engadget日本版
このあたりは、Androidの弱点として度々指摘されてきたOSのフラグメンテーション問題にGoogleが懲りたということなのかもしれません。とくに新興国市場であればOSのメンテナンスをキャリアに委ねるのはかなりのリスク要因となり、それが後々大きな事故につながる可能性もありますから、しっかりとコントロール下に置きたかったということでしょう。気持ちは分からないでもありません。

また、逆に言えば、新興国市場で普及しつつあったGoogleのサービスを利用しないオープンソースのAndroidを搭載した格安スマホ(業界用語では「AOSP」端末と呼ばれることが多い。一方でGoogleのサービスを利用したものは「OHA」端末)の普及を潰したいという思惑もありそうです。この辺りの経緯は以下の記事などを読むと参考になるかもしれません。

グーグルの直面する「Androidのオープンソース問題」とは(ASCII.jp 14/8/21)
GoogleがオープンソースのAndroidから利益を生み出すカラクリとは?(GIGAZINE 14/1/24)
Android は本当にオープンソースなのか?(インターネットコム 13/8/12)

そうですか。

いずれにしても、Googleとしては自社サービスの使われる機会を最大限に拡大すること目論んで今回のAndroid Oneを市場へ投入してきたことは明白です。今後同プロジェクトはさらに規模拡大する予定であり、なんと国内スマホ市場向けには事業撤退したパナソニックまでもが目ざとく参入するあたりは要注目と言えましょう。

グーグルが新興国向けスマホ発売パナソニックも生産へ(日本経済新聞 14/9/16)

メーカーとして「アンドロイド・ワン陣営」に新たに参画したのはパナソニックのほか、台湾の宏達国際電子(HTC)、中国レノボ・グループなど端末メーカー9社と、半導体大手の米クアルコム。インドメーカー3社にシステムLSIを供給する台湾の半導体メーカー、聯発科技(メディアテック)を加えると計14社となる。日本経済新聞
しかし、新興国市場での競争は生易しいものではありません。勝算有りと目して臨んだはずのソニーは早くも大敗を喫しております。

ソニー業績悪化、スマホ不振が痛手新興国販売伸び悩む(朝日新聞 14/9/18)

スマホ事業は、12年4月に就任した平井社長が、「三つの稼ぎ頭の一つ」として力を入れていた事業だ。新興国を中心に販売を伸ばし、韓国サムスン電子、米アップルに次ぐ世界3位のスマホメーカーになることを目指していた。

だが、実際には、低価格を売りにする台湾や中国メーカーの台頭で、ソニーの販売は伸び悩んだ。現時点でもシェアは3%程度で、上位5社にも食い込めていない。今年、顧客を広げようと、ソニーとしては割安な1台2万5千円ほどの商品を投入したものの、それも受け入れられなかった。朝日新聞
いやあ、ソニーは厳しいですね。改めてスマホで新興国市場へ挑むパナソニックには幸多かれと願うばかりです。ここで厳しいと、パナソニックも携帯事業が消滅してしまいかねません。

なお、新興国市場向け格安スマホは今後かなりの短期間で急速に熟成していくものと思われますが、そうなると先進国市場においても高度な機能を必要としないユーザー層向けモデル等へこれら格安スマホで得られたノウハウがフィードバックされ、さらなるスマホのコモディティ化に拍車がかかることでしょう。そういう意味では今回のGoogleによるAndroid Oneの投入は、スマホ市場のフェーズが次の段階へ入ることを報せる号砲であり、メーカーにとってはさらなる厳しい競争の幕開けでもあると言えそうです。

なんか一連の動きを見ていると、懐かしのPCマニアであれば誰もが涙ながらに語るであろうMSXの興亡を微妙にダブるところがあり、いつか来た道なのかしらと感ずる次第ですが、たぶん気のせいですね。