無縫地帯

米国で偽携帯基地局が大量発見の謎

アメリカで基地局を偽装しエリア内にある普通に利用される携帯電話からの通信その他をごっそり抜き取る類の影のネットワークが出てきており、我が国でも重大な問題になりつつあります。

山本一郎です。季節の変わり目からか、どうものどが痛くて具合が悪いです。誰か影武者でも立ってもらえないでしょうか。

ところで、スノーデン事件をきっかけにして、NSA等の組織が相変わらず電話の盗聴に勤しんでいることが改めて明らかにされた昨今ですが、ここに来てさらに物騒な話題が報じられています。

ニセの携帯電話基地局がスマホの通信を盗聴している可能性(GIGAZINE 14/9/4)
謎の偽装携帯基地局、米国に多数存在 - 特殊なスマートフォンで明らかに(WirelessWire News 14/9/5)

アメリカでは設置されている携帯電話基地局の中に偽物が存在し、国民が使用しているスマートフォンから情報収集している可能性が指摘されています。
(中略)
一体誰がどのような目的でサイバー攻撃を可能にしてしまう携帯電話基地局を仕掛けているかについて、Goldsmith氏は「インターセプターを設置した組織や、建設目的に関してはっきりとしたことはわかっていません。しかしながら、発見されたインターセプターの位置は全てアメリカ軍基地内にあることが判明しており、普通ならアメリカ政府が基地内にインターセプターを設置したと考えられますが、他の国が設置した可能性も排除できません」と発言。GIGAZINE
もともと影のネットワークという意味で、ニセの基地局の隠されたネットワークが構築されているのではないかという話は安全保障界隈で浮かんでは消える類の話だったんですけど、ここに来て俄然具体的な内容に進化してきております。

昨今、3G/4Gとなり携帯電話の盗聴もそう簡単な行為ではなくなっているはずですが、「偽基地局が3Gや4Gのネットワーク接続を妨害するような電波を発信し、セキュリティ機能の弱い2G波で接続するように仕向け」(WirelessWire News)ることで盗聴を実現しているそうで、なかなか凝った仕組みのようです。

気になるのは、この驚愕の事態を発見し報告したのが高度なセキュリティ機能を売りにするスマホの販売事業者という辺りでして、なにやら自社製品を使えばこういう事態が起きても大丈夫というPR活動の匂いを感じなくもありませんが、すでに米国ではこの件を報じるメディアの数も少なくないようです。

Fake Cell Towers Allow the NSA and Police to Keep Track of You(Newsweek 14/9/5)
Mysterious Fake Cellphone Towers Are Intercepting Calls All Over The US(Business Insider 14/9/3)

NewsweekはすでにNSAとの結びつきまで示唆するような見出しになっていて大丈夫なのかと思わなくもありませんが、一方でNSAは本当に盗聴しようと思えばこんな面倒なことをしなくても盗聴できるはずだからこれはセキュリティ業者が宣伝を目論んだ与太話なんじゃないかという論考も見られます。まあ、そりゃそうだ。ただ、足がつきにくく確実なワイヤータップをしたいのだという話や、海外でもこっそり何らかポータブルに盗聴を実現しようって狙いだと確かに合理性あるよね、っていう専門家もいるようで興味深いところではあります。

Fake Cellphone Towers-Sales Scam Or Real Hack?(2paragraphs 14/9/6)

こう書くと不謹慎かもしれませんが、事態は今後どのように進展するのかその成り行きが楽しみな話でもあります。なお、米国におけるこの手の話では以下のような話題もしばらく前に出ていました。

携帯電話基地局になりすましてスマホの個体識別情報や位置情報を集める捜査手法「スティングレー」の実態(14/6/6 GIGAZINE)

しかし、偽の携帯基地局という話題では米国よりも中国の方がさらに先を行っておしまして、すでに1年前には華々しい事件が起きています。さすがです。

中国各地に携帯の偽基地局…スパムメールを大量無差別配信(サーチナ 13/8/6)

中国政府・公安部(中国国家警察)はこのほど、北京市、遼寧省、湖南省、広東省など全国各地で携帯電話の偽基地局を摘発したと発表した。72グループ、217人の容疑者の身柄を拘束した。偽基地局からは、電波の入るエリアにある携帯電話に対して、メールアドレスなどに関係なく詐欺目的のスパムメールを大量に送付していた。サーチナ
まあ、仕組みが分かっていれば、そのぐらいのことは平気でやるのが中華クオリティですよね。とはいえ、最近ではGoogle様ご謹製の位置ゲー「Ingress」にハマりすぎた役人が政府機関の建物の中からうっかりプレイして特殊な基地局の位置を割るなどの弊害も続出するなど、リテラシーの問題にも直結している状態です。逆に言えば、それだけ大規模な影のネットワークも運用され始めているわけで、そうなるともはや国家対国家だってことですね。スパイ大作戦ですね。冷戦まっしぐらですね。戦争反対。そう思うわけであります。

ということで、皆様いつなんどき通信が遮断されても大丈夫なような仕組みをご家族みんなで話し合っておかれるとよろしいかと思います。