Appleのモバイル決済システムや楽天の米EC事業買収から見るプライバシーの考え方
Appleの「iPhone6」発表が注目を集めていますが、その決済システム「Apple Pay」がデータ資本主義的なアプローチに背を向ける一方、楽天が打って出た米EC事業巨額買収も興味深いところです。
山本一郎です。昨日、プライバシーフリークカフェの第3回を開催したのですが思った以上に盛況で、我らが高木浩光せんせも大満足の状況です。
勢いを駆って、鈴木正朝せんせとのイベントの語りを起こしたものを中心にしたプライバシーフリークカフェの公式鼎談本も出るのでよろしく願いします。
いきなり宣伝したところで恐縮ですが、遂に新型iPhoneが発表されまして、その発表内容自体は事前リーク情報を大きく覆すものではありませんでした。まあ、今のAppleの製品出荷規模になると、もはやどんなに頑張っても昔のような厳格な情報統制は無理ということでしょう。これはまあしょうがないことなのかなと感じます。また以前のように売れなくなれば、誰もが驚くような突然の新製品という発表の仕方も可能なのでしょうが、そうなるともうAppleという企業自体が持続できないかもしれないので、それもまた微妙な話かもしれませんが。
今回もIT系のメディアはここぞとばかりに競うように記事をアップしていて皆さまご苦労様です。
iPhone 6/6 Plusは5s/5cからどう変わった?(ITmedia 14/9/10)
速報:iPhone 6 は9月19日発売、予約受付は12日。128GBモデルも登場(Engadget日本版 14/9/10)
iPhone 6 Plus 速攻ハンズオン:「これはデカい」(ギズモード・ジャパン 14/9/10)
【速報】Apple、「iPhone 6」と大画面の「iPhone 6 Plus」を発表(ケータイWatch 14/9/10)
iPhone 6/6 PlusはTD-LTEとVoLTEに対応(ASCII.jp 14/9/10)
「iPhone 6/6 Plus」、ドコモはVoLTE、auとソフトバンクはTD-LTE対応(ケータイWatch 14/9/10)
【速報】iPhone 6、SIMフリー版は6万7800円(税別)から5.5インチ「Plus」は7万9800円(税別)から(ねとらぼ 14/9/10)
ハード的にはいよいよVoLTEに対応可能なのであとはキャリア次第。また、最初からSIMロックフリー版も発売されるようなのでMVNOにとってもチャンスあり。このところやや沈滞ムードだった携帯電話市場がまた活気づくきっかけになるやもしれません。
一方で、期待されたウェアラブルデバイスは「iWatch(仮)」改め「Apple Watch」としてこちらも無事に発表された訳ですが、出荷時期は「来年初頭に」ぐらいのザックリした設定。価格だけは349ドルからということですが、iPhoneのミニマムスペックモデルよりも高い設定がはたしてどのように影響するのか、ちょっと今の市場のあり方を見る限りではよく分かりません。
Apple Watchは349ドルから、来年早々に出荷(TechCrunch 14/9/10)
速報:Apple Watch発表、349ドルで2015年初頭発売予定。リューズ状のダイアルDigital CrownとRetinaディスプレイ搭載(Engadget日本版 14/9/10)
色々と機能があることは喧伝されても、一番肝心なバッテリーの持ちに関しては今のところ一切情報が出ていないようなので、ウェアラブルデバイスという道具としての完成度に関しては様子見するしかないでしょう。
で、今回一番面白かったのは、日本ではもはや当たり前となって何も目新しくないおサイフケータイが、「Apple Pay」という名前で改めてAppleから提案されたということです。
新iPhoneとApple WatchのNFCモバイル決済「Apple Pay」(ITmedia 14/9/10)
Apple Payは画期的NFC支払システム―登録はカメラ、指紋認証、店にカード番号が渡らず(TechCrunch 14/9/10)
残念ながらこのApple Pay、当面は米国のみでの運用となるため日本のユーザーには全く関係ない機能でもありますが、まずは同サービスにおけるユーザーのプライバシーを尊重したシステム設計は大いに評価すべきなのではないでしょうか。
ユーザーはiPhoneの新しいiSightカメラでクレジットカードの写真を撮るだけでPassbookにカード情報を登録できる。その後Appleはカードが真正なものであることを確認する。確認が済んだ後はAppleは自社サーバーにカード情報を記録しない。またカード情報は店舗にも渡らない。素晴らしい。実に素晴らしい。
つまりAppleは支払いの都度、一回限りの取引番号を生成する。Appleは「われわれは取引記録の履歴を保存しない」と強調した。また「iPhoneを探す」機能からクレジット・カードを停止することが可能となっている。TechCrunch
ユーザーの消費動向を逐一収集して、そのデータを使ってのターゲティングを虎視眈々と目論むどこかの国のIT事業者共には、Appleの爪の垢でも煎じて飲ませたいと思わずにはいられませんし、逆に言えば、ビッグデータビジネス推進を掲げる我が国からすれば、Appleはプライバシーフリーク過ぎるという評価になるのやもしれません。いまのところは全てはAppleの謳い文句を素直に信じればという話でありまして、iCloudのセキュリティ設計の綻びも一つの原因であった可能性がある先日の情けない事件等を顧みれば、何事も完璧はあり得ないなと思い知らされるところですが、ともあれ取り組みとして「個人に関する情報を扱うのは大変だな…ピコーンそうだ、情報を持たなければ漏洩することもないのだ!」という原始的な方向に回帰するのは実に正しいところだと感じます。
ヌード写真流出は対岸の火事ではない、iCloud事件の教訓(ITpro 14/9/8)
で、我らが楽天は世界的にデータを回収する方向での動きとなっており、対比として非常に興味深い状態になっております。
楽天の海外展開が新たなフェーズに、米EC関連2社買収(日経コンピュータ 14/09/09)
三木谷浩史さんが思い切り「『データを活用するEC事業へシフトしていく』と話す」と談話を出したようで、この私の胸を去来する「お、おう」という感情を抑え切れません。
まあ、確かに楽天のようなプレイヤーはそちらの方向に走っていくのが責務のようにもなっているんでしょうかね。金額の妥当性はちらっと見た限りでは何とも申し上げづらいところではありますが、ナイストライであることは間違いなさそうです。
プライバシー方面の考え方ひとつで大企業の作戦一つ一つがこうも異なるのか、ということに改めて気づかされるところでありまして、いわゆるデータ資本主義のあり方は今年来年でぜひ国民全体の議論として考えておきたいものです。