無縫地帯

理研の笹井芳樹さん自殺と政治責任

理化学研究所の発生再生科学総合研究センターの笹井芳樹副センター長が、神戸市内で5日自殺を図った件、問題発生から処分までの道程が不透明で、時間がかかりすぎて大変な問題となってしまいました。

山本一郎です。まさかというか、薄々そういうことがあってはいけないとみんなが思いながら、その通りのことが起きてしまったわけですが…。

理研・笹井氏が自殺図る神戸、救命措置中(47news 14/8/5)

どういう形であれ、一命を取り留めることを祈念する次第です。こんな馬鹿な事件で、笹井さんのように大変優れた人が判断ミスで自ら命を絶ってしまうなんて、本人や周辺のみならず、日本社会全体に対して大きな損害であることは言うまでもありません。

恐らくは、事実関係をすべてご存知の上で、取り返しのつかないことだと己を責め続けた結果、自ら死を選んだのでしょう。辛かったのか、責任を取りたかったのか、真相は明らかではありませんが…はっきり言って、笹井さんがサークルクラッシャーのような女性に取り込まれて舞い上がって組織を巻き込んでやらかしたのだという話だったとしても、筋道を立てて説明し、再発の防止に協力して、後進の育成や公正な評価に資する活動に笹井さん自らが身を投じていれば、あれは悪夢だったのだと忘れることもできたのでしょう。挫折のない人が順調にレールの上を走ってくるほどに、ちょっとした事情で思い悩み、相談する相手も周囲になく、自分を追い詰めてしまうのはよく目にすることです。勿体無いとしか言いようが無い。

そういうときに、物事を客観的に判断し、然るべき対応を促す政治判断というのはとても重要だったと思うのです。確かに小保方晴子女史を引き上げた責任は笹井さんにあり、また微妙な捏造論文を科学誌に掲載させてしまうような後押しをしたにせよ、その事情を評価し事後処理を行う責任を持つのは紛うことなき行政と理研トップ、ひいては全体の方針を決定付ける---厚生労働省---文部科学省の大臣が責務を負っていたと思うわけです。

一口に研究組織のガバナンスの問題と言うのは簡単でしょうが、STAP細胞の再現実験に小保方女史を参加させるの、論文不正がどうだのといった、戦線が拡大してしまった理由と言うのも、人生を捧げている研究者の皆さんや、研究費を事実上負担している日本国民納税者が納得のいく厳正なる対処を進めることこそが唯一の解決方法だったのに、それを採らなかったことだと思うからです。留保つきでもいいから、いったん小保方晴子女史の研究者としての資格を停止する判断をしていれば笹井さんだけが責任を感じることなく死なずに済んだだろうに、という点で、原因究明や小保方処分に逡巡したすべての関係者に責任があるんだろうと考えるわけですね。

「小保方女史をうっかり処分すると、他の問題にも飛び火するかもしれない」という躊躇が、結局メディアの関心を呼び起こして関係者の自殺にまで結びついてしまうわけですね。誠に残念なことですし、一時期はノーベル賞候補を京都大学山中教授と争ったとまでされる俊英笹井さんの無念を考えると、もっと早く手を打っておけばと強く感じるわけですよ。もちろん、情愛交じりのメールを公衆の目に晒したNHKのドキュメンタリーも、その後痛い腹状態で出てきた経費の不正使用疑惑も、すべては「3月4月ごろに論文の取り下げを行い、関係者の処分を迅速に行っていれば、これ以上のダメージもなく問題を処理できていたであろう」という点で、やはり理研執行部や監督官庁である---厚労省---文科省と、何よりも下村博文文科相のリーダーシップが発揮されていれば回避できたことだろうなあと感じるわけであります。

下村文科相「小保方さんを活用して細胞の証明を」(産経新聞14/6/17)

あくまで結果論ではありますが、いま思えば、この辺のすったもんだでいたずらに時間稼ぎをされてしまい、然るべき処分が遅れて問題の幕引きができなかったというのは大きいと思うわけですよ。

慎重にやった結果が、疑いが疑いを呼んで収拾がつかなくなるというスキャンダルのダメージコントロール問題は、今回のガバナンス不全の対応と併せていろんなものを浮き彫りにしたと思います。

(修正11:37)監督官庁を間違えて厚労省と書いてしまいました。文部科学省の間違いでしたので、謹んで修正いたします。