ヤフージャパン、総務省にパブコメを出すも激しく全否定されネットでも十字砲火を浴び炎上
ヤフージャパンはどうなってしまうのでありましょうか。総務省の「位置情報プライバシーレポート」案に対し、ヤフーが素敵な意見をお贈りして総務省に返り討ちを浴び、ネットで晒されて豪炎が上がっております。
山本一郎です。そのうち別所直哉×山本一郎とかいうテーマの薄い本でも出されてしまうのではないかと心配で夜も寝られません。
先般より、総務省で「緊急時等における位置情報の取扱いに関する検討会」が行われ、検討会の報告書がまとめられているんですけれども、その中で登場するヤフーの意見と、それに対する総務省のコメントが凄い面白いと評判になっており、見物にいきました。
ヤフーの意見書がクズ過ぎると話題に(総務省位置情報取扱い検討会のパブリックコメントで)(togetter 14/7/17)
Y社がボコられとるな。 / [PDF]「位置情報プライバシーレポート」(案)に対して提出された御意見及びそれらに対する考え方 平成26年7月 http://www.soumu.go.jp/main_content/000303639.pdf …Twitter - nilnil26いやー、素敵ですね。根っからのヤフーっ子であり、別所直哉ファンクラブ会員と自認する私としても、これは椅子と双眼鏡をもって馳せ参じなければならないという義務感を持たずにはいられません。
ヤフーには是非とも頑張っていただきたいと、そのように思うわけですね(揉み手)。
少し形勢が悪い感じのヤフーですが、一個一個つぶさに見ますといろいろな想いが去来するところでありまして、総務省の反応と共に意訳と解説を記しながらポイントを皆さんと一緒に考えてまいりたいと存じます。
■ヤフー:本レポートは、電気通信事業者が、電気通信事業の提供にあたって取得する位置情報について取りまとめたものであり、電気通信事業者であっても、電気通信事業に該当しないサービスにおいて取得、利用し、または第三者提供する場合については、本レポートの射程範囲外であると理解する。【意訳】
■総務省:位置情報の高いプライバシー性に鑑みれば、電気通信事業者が電気通信事業に該当しないサービスを行う際に位置情報を取り扱うに当たっても、本報告書案の趣旨に沿って適切に取り扱うことが適当であると考えます。 「位置情報プライバシーレポート」(案) に対して提出された御意見及びそれらに対する考え方
ヤフー「今回のネタは第三者にデータ売ることとは関係ないよな?」
総務省「そんなわけあるか馬鹿」
【解説】
ゴング開始と共に軽いジャブを打ってきたヤフーに対して、真っ向から全否定するフルスイングで迎え撃つ総務省。「位置情報の高いプライバシー性に鑑みれば」という言葉の重みが、ヤフーの提起した「電気通信事業に該当しないサービスにおいて取得、利用し、または第三者提供する場合」という前提を木っ端微塵にしているところが素敵です。もうこの時点で、ヤフーの意見書の前提が総崩れで大変なことに。頑張れ、立ち上がれヤフー。
■ヤフー:利用者が通常の注意を払えば理解できるようになっているかどうかを問題とすべきであって、そのようになっているのであれば、「サービスごと」や「個別」に同意を得ることは必要ない。過剰な同意取得はかえって同意の意味の希薄化につながることに留意すべきである。【意訳】
■総務省:位置情報の高いプライバシー性に鑑みれば、原則として、位置情報の取扱いについては個別かつ明確に同意を取得することが必要であり、個別かつ明確に同意を取得することは過剰な同意取得には当たらないと考えます。 「位置情報プライバシーレポート」(案) に対して提出された御意見及びそれらに対する考え方
ヤフー「約款が分かりやすければ、一発承認すればサービスまたいでも問題ないだろ。サービスごとにいちいちユーザーの同意得る必要無くね?」
総務省「馬鹿か。つまんねえ御託並べてねえで、サービス一件一件ちゃんとユーザーから同意もらってからデータ取って使えよカス」
【解説】
再び登場する必殺の「位置情報の高いプライバシー性に鑑みれば」を繰り出し、ヤフーの期待する「包括的なユーザー承認で何してもいいだろ」的アプローチを正面から受け止め粉砕する総務省。せめて承認を得るコストが高いよぐらいの話をしていれば「そうですか」で済みそうな話を面倒臭くなりそうな方面から愚直に総務省へ投げかけるヤフーの誠実さに涙するわけであります。この「過剰な同意取得はかえって同意の意味の希薄化につながる」とまで言い切る根性が素晴らしいです、さすがヤフー。
■ヤフー:過剰な同意取得は、利用者の同意に対する理解を低下させるだけであるため、コンテキストに沿った位置情報の取得・利用・第三者提供について同意を不要とすることを、例外ではなくむしろ原則として据えるべきである。【意訳】
■総務省:位置情報の高いプライバシー性に鑑みれば、原則として、位置情報の取扱いについては個別かつ明確に同意を取得することが必要であり、個別かつ明確に同意を取得することは過剰な同意取得には当たらないと考えます。 「位置情報プライバシーレポート」(案) に対して提出された御意見及びそれらに対する考え方
ヤフー「同意不要の方法は例外にするといちいち面倒だから、運用の原則として承認してくれねえかな」
総務省「何度も同じこと言わせんな。一件一件同意得ろっつってんだろクズ」
【解説】
さらに議論を進めるヤフーに対して、総務省側が必殺「位置情報の高いプライバシー性に鑑みれば」3回目を含むまさかのコピペ返し。運用の例外とした場合には例外に合致するようなサービスの構成や使用を念頭に置かなければならないため規約変更や承認手続き等の運用コストが極大化することを懸念するヤフーに対し、手ごろなところに来たフォークボールばりにコピペ操作でヤフーの主張を真っ二つにする総務省の細やかな心配りに頭が下がる思いです。
■ヤフー:「パーソナルデータに関する検討会」における議論の趣旨を踏まえて、「十分な匿名化」とは(仮称)個人特定性低減データとなる程度の加工水準と一致するものであるべき。【意訳】
■総務省: 現行法下においても、十分な匿名化を行ったデータについては、個人情報には該当せず、利用者の同意なく利用・第三者提供することが可能であると考えられます。
一方で、「パーソナルデータに関する検討会」で議論された低減データとは、個人が特定される可能性を一定程度低減させたデータを特定の第三者に提供するために、今後個人情報保護法を改正して新たに創設が検討される枠組みであり、その加工水準は十分な匿名化とは異なるものと考えます。 「位置情報プライバシーレポート」(案) に対して提出された御意見及びそれらに対する考え方
ヤフー「通信の秘密とかどうでもいいから、匿名化のために別で進めてる低減データの内容と仕様を揃えてくれねえかな」
総務省「面倒くさがんなクズ」
【解説】
そもそも本検討会では「パーソナルデータに関する検討会での検討を踏まえつつ、 (仮称)個人特定性低減データとして想定される位置情報の加工等について検討」するとしており、「通信の秘密に該当する位置情報については、総務省及び関係事業者において引き続き検討をしていくことが必要」だから「加工の方法・管理運用体制(「十分な匿名化」をする過程で作成される情報の管理体制を含む。)の適切性についての評価・検証の在り方について、総務省及び関係事業者において引き続き検討していく必要がある」だ、と議論しとるわけですね。何も制限せず加工しないデータが流通するとやばいので「十分な匿名化」という話を総務省はしているのに、この論法だと、ヤフーは情報の提供先まで低減データの規制を押し付けてしまいかねません。
要は、通信の秘密に該当する部分だから、無原則に使われないようにパーソナルデータ検討会での議論もしっかりと踏まえてちゃんと検証するよ、って総務省が音頭とってる端から「通信の秘密なんて斟酌する必要ねえだろ」的な意見が言えてしまうヤフーの懐の広さに心が躍動することを抑えられません。
■ヤフー:「(ウ) 利用者が、いったん契約約款等に同意した後も、随時、同意内容を変更できる(設定変更できる)契約内容であって、同意内容の変更の有無にかかわらず、その他の提供条件が同一であること」は削除すべきである。本事項を満たさないことは、包括同意が有効かどうかとは、本質的には関係のないことである。【意訳】
■総務省:ご指摘の(ウ)の要件は、契約約款等による包括同意当時において予測し得なかった事情が将来生じた場合についても、随時、利用者が同意内容を変更することができ、将来、利用者が不測の不利益を被る危険を回避できるとの観点から、契約約款等に基づく事前の包括同意であっても、有効な同意ということができるための要件として必要なものであると考えます。 「位置情報プライバシーレポート」(案) に対して提出された御意見及びそれらに対する考え方
ヤフー「途中で規約はいつでも変更していいって制度にしろや」
総務省「できるかボケェ」
【解説】
ヤフーが社是として掲げているデータマネジメントプラットフォーム(DMP)事業を完遂させるため、利用目的に縛られない個人に関する情報の流通こそが利益率確保の決め手、と信じて疑わない状態のため、データ運用上どうしてもユーザーとの利用規約は後からいくらでも変更できる内容にしておかないとダルい、という少年のような素直で純真な心が垣間見えます。きっと、Y!モバイルを途中でやめる際に、アメリカで博打を打っている孫正義さんとかいう剛毛の人に「DMP事業推進するからY!モバイル遠慮しときますわ」みたいなエクスキューズでもしてしまったのかと妄想するわけであります。
しかし、そんなヤフーのピュアな気持ちに総務省が心動かされるはずもなく、かなり真っ向から「お前、何言ってるの?」的な返答を投げ返している姿が印象的です。
■ヤフー:利用者が通信以外の利用目的や第三者提供について、理解していれば、個別に同意を取得する必要性はない。過剰な同意取得は、利用者が反射的に同意を行うことを助長するだけであり、適切ではない。【意訳】
■総務省:位置情報の高いプライバシー性に鑑みれば、原則として、位置情報の取扱いについては個別かつ明確に同意を取得することが必要であり、個別かつ明確に同意を取得することは過剰な同意取得には当たらないと考えます。 「位置情報プライバシーレポート」(案) に対して提出された御意見及びそれらに対する考え方
ヤフー「第三者提供やサービスについて、個別にいちいち同意得る必要ないって言ってんだろ」
総務省「やかましい。まだそんなこと言ってんのか、このバカタレが」
【解説】
若干テクニカルだが、報告書のwifiで得られた情報の第三者への情報提供について総務省が「Wi-Fi端末利用者が予測しているものとは考えられず、電気通信事業者は、原則としてWi-Fi端末利用者の個別かつ明確な同意を取得すべきであり、また、事後的に同意内容を変更できる(設定変更できる)機能を設けることが必要」とした内容にヤフーが敢然と反論したもの。なぜここで熱く出るのかというと、Wi-fiなど通信機器で得たGPS情報を電気通信事業者以外(つまり通信以外)の業者に売ることを念頭に置いているからだろうと思われるわけです。具体的には、カーナビに搭載されたGPSを見てガソリンスタンドやコインパーキングの広告を流してドライバーに情報を提供しそちらへ誘導して利用してくれたお客様にクーポンを出してTポイントで還元するようなビジネスモデルが
'''いちいちユーザー承認取らなければできなくなってしまいますからね!'''
分かる、分かりますそのヤフーの気持ち。ビジネスに賭けようという滾る熱情。こんな総務省ごときの検討会で未来に広がるビッグデータ・DMP事業の芽を摘まれてなるものか、プライバシーとか興味ねえよ、いいからやらせろよというストロングスタイルの論述が本当に熱い。それに対して、総務省もコピペで対応、4度目の「位置情報の高いプライバシー性に鑑みれば」を繰り出して応戦するさまはまさに竜虎の戦いといっても過言ではないでしょう。
■ヤフー:本レポートは、あくまで望ましいと考えられるものを検討したものであり、法令の解釈を検討したものではないにも関わらず、それを法令解釈のもととなる個人情報ガイドラインや解説に反映させることは適切とは言えないのではないか。【意訳】
■総務省:電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン及び解説への反映に当たっては、本報告書案をもとに、今後の取組で挙げられている実証や、個人情報保護法の改正の状況等を踏まえて行っていくことが適当と考えます。 「位置情報プライバシーレポート」(案) に対して提出された御意見及びそれらに対する考え方
ヤフー「これって努力目標であって、業者が守るべきガイドラインじゃないんだよな?」
総務省「お前が何を言おうがこちらは粛々と作業するだけだからな」
【解説】
ここに来て、ヤフーが「そもそも論」を持ち出してきて報告書の正統性への疑義という議論のちゃぶ台を返す気満々で記述する一方、総務省からは報告書に基づいてガイドラインや解説に反映させるからなという寝た子を起こすような返答をされてしまい、話の道筋が逆に再確認されてしまうという実に見事なオウンゴール状況を演出しています。
■ヤフー:過剰な説明や同意取得を求めることはかえって利用者の理解を妨げることになる。事業者に過剰な取組みを求める前に、利用者が契約内容について正確に理解できるよう、リテラシーの醸成等、政府として適切な周知啓発を積極的に行っていただきたい。【意訳】
■総務省: 本報告書案に沿って、事業者が利用者に対して事業者が説明や同意取得を行うことが、過剰な取組となり利用者の理解を妨げることにつながることにはならないと考えますが、事業者、政府、消費者団体等が協力し、利用者に対して、電気通信サービスにおける位置情報の利活用とその成果について、位置情報の取得等における電気通信の仕組み等も含めて広く周知を行い、利用者の正しい理解を醸成していくことは重要と考えます。 「位置情報プライバシーレポート」(案) に対して提出された御意見及びそれらに対する考え方
ヤフー「お前らは国民のリテラシー醸成・向上に努力しろよ!」
総務省「チッ、うっせーな。はい、ご意見ありがとうございましたー」
【解説】
本報告書の結びの問答になっているあたりに侘び寂びを感じ取らずにはいられない名問答。何といっても、ヤフー側が盛んに放出する「過剰な説明や同意取得」が「かえって利用者の理解を妨げる」という主張に対し、総務省が「利用者に対して事業者が説明や同意取得を行うことが、過剰な取組となり利用者の理解を妨げることにつながることにはならないと考えます」と真正面から全否定。つーか説明や同意を得る作業がどうして利用者の理解を妨げるという結論になるのかさっぱり理解できないのは総務省の立場としては当然、といったところでありましょうか。
それでもあの白豆は黒いのだと豪快な理論をぶっ放すヤフー側の主張の数々は珠玉の出来であって並み居る業者の質問をさし措いて燦然と輝いており、これだからヤフーは本当に好きですわ。愛される条件、というものを再確認できた気がいたします。本当にありがとうございました(揉み手)。
最後に、我らがひろみちゅ先生がこのように仰っておられます。ぜひヤフーの皆様におかれましては良くご理解のうえ、然るべき個人情報の取り扱いについて適正かつ着実な運用を目指していただけることを切に願っております。
http://www.soumu.go.jp/main_content/000303639.pdf … に出ているヤフー意見で最もマヌケなのは以下のところ。
「4.(2)「パーソナルデータに関する検討会」における議論の趣旨を踏まえて、「十分な匿名化」とは(仮称)個人特定性低減データとなる程度の加工水準と一致するものであるべき。」Twitter - 高木浩光
総務省報告書の「十分な匿名化」は、何の制限もなく利用できる場合を言っていて、総務省回答にも「現行法下においても十分な匿名化を行ったデータについては個人情報には該当せず…」とあるのに、ヤフーの意見が言うように「個人特定性低減データ」に合わせると、むしろ提供先に規制がかかってしまう。Twitter - 高木浩光今後ともよろしくお願い申し上げます。