スマホでニュースを見る時代は「札束で殴り合う業者たち」という世界観
先日来、ニュース系アプリや「キュレーション」を称するアプリ群の話が報道に多く出てきていまして、これはこれで注目しております。
山本一郎です。なんか微妙にダルいのは夏バテか何かでしょうか。
ところで、ここ最近の報道メディアを巡る動向としては、好むと好まざるとに係わらず「キュレーション」というものが一つのトレンドとなっているように見えます。とくにスマホ向けニュースキュレーションアプリ周りが賑わっており、今年になってからもかなり大きな額が動いているようです。
ニュースレコメンドエンジンのGunosyがKDDIと資本業務提携、調達金額は12億円かーーTVCMも開始へ(THE BRIDGE 2014/3/14)
ニュースアプリ「Gunosy」が12億円を調達--KDDIやジャフコから(CNET Japan 14/6/23)
ニュースアプリ「Gunosy(グノシー)」を運営するGunosyは6月23日、KDDI、ジャフコ、B Dash Venturesから総額12億円の資金を調達したことを発表した。同社は3月にもKDDIから出資を受けたばかりだ。CNET Japan驚くことにGunosyはたった数か月のうちに総計20億を越える資金を調達できたようでして、これはちょっとしたニュースアプリバブルと言えるのかもしれません。これはこれで、素敵な話ですね。地べたまでアクセル踏んで頑張って欲しいものです。
また、権威あるメディアから野良にコンテンツを掻っ攫って微妙すぎる運営で問題視されていたSmart Newsもちゃんと払い、win-winでやっていける方向へ経営を転換。それなりにまともな会社になってきたんだねということで好感が持てるようになってきました。
なぜかローラを交通広告等に起用して遅れ馳せながらメジャーアプリの一角に入ろうと頑張っているAntennaを擁するグライダー某も頑張ってます。大元のマクロミルはべインキャピタルの買われる途中で変なディールやってて当局が俄然注目していましたが、イエローカードどまりで良かったね、といったところでしょうか。
ところで、こうしたニュースキュレーションアプリ提供事業者は、読者が喜びそうな記事を拾い出すという部分においては独特のテクノロジーを評価すべきである一方、乱暴に言ってしまえば単にWeb上にあるニュース記事ページの見出しを拾ってきてリンクを張っているだけじゃないかという見方もできます。もちろん、通信社や新聞社、テレビ局などの既存メディアのサイトの記事を扱うときは広告収入をバックするなどの譲歩はしているようですけれども。このような形で商売するという行為がはたしてどうなのかという話については、拙ブログでも過去に前述のSmart Newsの件を色々と取り上げてきました。
我らが「スマートニュース」がまさかのオプトアウト宣言(13/12/14)
あれから一年が経ち、スマートニュースはどれだけ適法となったか(13/12/10)
"smartnews"なるアプリがコンテンツ泥棒と批判された件で(12/12/27)
で、Gunosyはこれじゃいかんだろうと思ったのかどうかは知りませんが、ここに来てややベクトルを変えた戦術を打ち出してきました。
配信記事キャッシュ開始したGunosy、広告収益分配ではSmartNewsを先制(Techcrunch 14/6/24)
同社は6月24日、ニュースリーダーアプリ「Gunosy」上で閲覧できるオンラインメディアの記事のキャッシュ化と、メディアに対して広告収益の一部を還元すると発表した。(中略)Gunosyでは今後、大手を中心としたオンラインメディアに対してキャッシュ取得の打診をしていくとのことだ。(中略)また、キャッシュの取得とあわせて、媒体社に対して広告収益の一部を還元していくという。数字こそ明言しないものの、Gunosyは月間で億単位の売上があるという。その一部について、キャッシュの取得を許諾したメディアに対して還元していくという。Techcrunchスマートニュースと同じようにデータをキャッシュするけど、うちは事前に了解とるから許してね、おまけにちょっとだけど広告収入の一部も分配しますよという話です。落としどころとしては、確かにこの辺しかないのが実情ですよねえ。各報道メディア側がこうした提案に対してどう応えていくのか注目されるところです。
収益の還元についてはスマートニュースでも以前からメディアに対して何らかの形で行うとしているものの、現時点では広告事業も収益還元プログラムなども発表されていないTechcrunchまあ、各社からせっつかれているようですから、Smart Newsもいろいろと手を打ってくることでありましょう。
それにしても、こうした報道メディアがネット上において自前だけでは十分な集客力を実現できず、キュレーションアプリ的なものに頼らざるを得ないという状況は今後さらに拡大しそうな気配があり、その時にはトータルな収益をどうやって関係者間で按分するかという話が大きな課題となっていきそうです。ややコンテクストは異なりますが、海外では以下のような事態も発生しています。
独メディア各社「Googleニュースは記事から得た利益を支払うべき」(WIRED.jp 14/6/24)
ドイツの複数の大手新聞社と雑誌出版社は、グーグル、マイクロソフト、ヤフーの各社に対して、コンテンツの抜粋によって得た総売上高の11%を支払うよう求めている。(中略)ドイツ連邦議会は2013年、ニュースを引用する検索エンジンに対して使用料の支払いを課す法案を可決したが、これは「短い抜粋」を例外として認めていた。今回の法的申請は、メディア側がこの法律で得られなかったものを獲得しようとする試みのようだ。WIRED.jp言いたいことは分かるんですよね。
普通に時事や報道をやってもカネになりませんから。
このところEU圏ではGoogleに対する反発が高まる傾向にあるため、このドイツでの新しい動きも他のEU諸国へ影響を及ぼす可能性は低くないでしょうし、今後の成り行きが注目されるところです。
もう一度国内の話題に戻しますが、ちょうどGunosyが1回目の資金調達を成功した際、Huffington Postが以下のような論考を掲載しておりました。
GunosyにKDDIが推定12億円出資ニュース配信サービスの今後の行方は(Huffington Post Japan 14/3/16)
多額の資金調達や大企業との提携が始まったことで、ニュース配信サービス各社は、個別の技術や特徴を争うのではなく、マス向けにシェアを争う体力勝負のフェーズに入ったのかもしれない。Huffington Post Japanアプリ・サービスの純粋なアイディアだけで勝負する時期は終わりつつあるということでしょうか。当たり前と言えば当たり前ですけれども。体力勝負が始まると相当大変そうでありますが、一方で、国内においてニュースアプリを標榜するのであれば、まずはLINE NEWSより認知度が高くならないと勝負にならないのかもしれないという現実もあったりするようです。
ニュースアプリの認知度・利用率は「LINE NEWS」が首位【リビジェン調べ】(MarkeZine 14/4/11)
何でしょう、この展開は。LINE恐るべし。
そのLINEも、諸説ありつつも野村パワーで上場に漕ぎ着けるようでありまして、リクルートと並んで大型案件として日本市場に花を添えそうな気配ですね。
LINEが東証に上場申請、時価総額1兆円も-関係者(Bloomberg 14/07/16)
まあニュース系アプリに関してはいろいろ言いたいこともあるんだけど、今日のところはこの辺にしといたるわ。