ソニーがテレビをAndroid化するようですが大丈夫なのでしょうか
ソニーのテレビ事業が完全子会社化されるに伴い、黒字化の秘策としてテレビにAndroid OSを搭載すると発表して「ふーん」という空気が業界内を漂っております。
山本一郎です。中身よりも先に名前がコモディティ化しております。
ところで、コモディティー化してお荷物となりつつあるテレビ事業に対してソニーが分社化という決断を下したのが今年の2月でした。
ソニー、テレビ事業を分社化内外で5000人削減(日本経済新聞 14/2/6)
ソニーは6日、2014年7月をめどにテレビ事業を分社し、完全子会社にすると発表した。事業の独立性を高めて経営責任を明確化すると同時に、意思決定のスピードを引き上げる。日本経済新聞で、約半年後の7月1日付けで100パーセント子会社の「ソニービジュアルプロダクツ」が発足されました。その発足日の前日に同社社長となる今村昌志氏がメディア各社の取材に応えるPR活動を展開しておりました。
ソニー:テレビ事業分社化社長、黒字化に自信(毎日新聞 14/6/30)
ソニーテレビ新会社きょう発足、「4K」に注力、「今期黒字化に自信あり」(MSN産経ニュース 14/7/1)
TV事業、「天変地異なければ」今期黒字化に自信=ソニー幹部(ロイター 14/6/30)
一般報道メディアが注目したのは概ね「事業の黒字化」というポイントでした。まあ「ソニーのテレビ事業は平成17年3月期から赤字が続いており、平井一夫社長が掲げる電機部門再建の大きなネックになっている」(MSN産経ニュース)という厳然とした数字がありますから、こういう視点での取材になるのは当然ですし、新会社の社長に求められるプライオリティもまずはそこでしょう。今村社長の方も黒字化については「天変地異がなければできる自信がある」と強気の姿勢を示してまして、月並みですがまずは模範解答。実際に結果が出せるかどうかは時間が答えてくれるといった案配です。
ところで、同じ事案の取材記事でもIT系ニュースメディアは一般報道と明らかに異なるポイントを突いていて興味深いです。
ソニー、2015年よりテレビに「Android TV」を全面採用へ(AV Watch 14/6/30)
2015年度からBRAVIAのOSとして、6月25日(現地時間)、サンフランシスコで開かれた開発者会議「Google I/O 2014」で発表された、Androidを使ったテレビ向けプラットフォーム「Android TV」を全面採用すると明言した。AV WatchテレビにAndroidを全面採用というのはかなり思い切った方針の打ち出し方だと思いますが、上記記事の中での今村社長の言葉を拾い出す限りかなりの熱の入ったニュアンスに読めます。
今ソニーが自分達で、まったく新しいOSを開発することはあり得ません。お客様が便利で使いやすいものを横糸として選ぶことが重要であり、Googleが新しく提唱するAndorid Lに、BRAVIA全体をあわせていきたい、と考えています。AV Watch今村社長は事業の進め方について「縦糸と横糸」という比喩を使うのがお気に入りのようで、縦糸は「ソニーの高画質化技術」、一方で横糸は例えばGoogleのAndroidのような他社の技術で、そうしたソニーの技術と他社の技術を組み合わせることで、素晴らしい織物=消費者から歓迎されるテレビを作り出せると語っております。なるほど、なかなかに面白い例え話ではあります。
しかし、はたしてテレビにAndroidが必要なのかどうかは今ひとつよく分からないというか、Androidが搭載されたテレビはテレビなのかという疑問が頭に浮かびます。もしかしたらOSがWindowsじゃないというだけで、それはPCの類なのではないだろうか。であれば、撤退したはずのPC事業とは何が違うのかという。
しかも、Googleの直近の発表によれば、テレビに搭載されるAndroidはサードパーティーによるカスタマイズを禁止するという情報があり、もしそれが本当であれば、他社類似製品との差異化を図るのもかなり大変そうです。
Google、時計/TV/車向けAndroidではサードパーティーによるカスタマイズを禁止(ITmedia 14/6/30)
Android TVの場合、UIが従来よりも製品と一体化している。われわれはAndroid TVのユーザー体験は一貫したものにしたい。家に2台のAndroid TV製品があるとすれば、2台が同じ操作で使えるようにしたい。端末メーカーは自社製Android TV製品をブランディングし、サービスを追加することは可能だが、それ以外はまったく同じでなければならないITmediaまあ、ソニーは縦糸があるから大丈夫ということなのでしょうかね。あとはGoogleもころころと方針を変更するところなので、サードパーティーからの苦情が多ければこうした話も突然無かったことになる可能性はゼロではないでしょうが。
一つだけ注目しておきたいのは、Androidというのは基本的にGoogleへログインしなければ使えないOSです。なので、もしテレビにAndroidが搭載されるということになれば当然Googleへログインした形でテレビ番組を見ることが推奨されることになるでしょう。すると、Google検索と同じようにテレビの視聴動向もすべてGoogleが収集する可能性はかなり高いと想像できます。当然ながら細かい機能のオプトイン/オプトアウト等は用意されるのでしょうが、私たち含むプライバシーフリークな皆さんにとってみればなかなか厄介な話となりそうです。
こうして見てくると、実はソニーがどうこうというよりは、Googleがテレビというプラットフォームに乗っかっていよいよお茶の間占拠を本格的に狙ってきたという話なのかもしれません。ネット接続環境が無いのになぜかGoogleへは接続できる技術なんてものもそのうち開発されたりするのでしょうか。
やはりここはひとつTizenに一肌二肌脱いで戴きたく、パッとしない者同士が肩を組んで成り上がっていこうという坂の上の雲状態で突き進んでいって欲しいと願う次第でございます。
引き続きよろしくお願い申し上げます。