世界は釣り記事を待っているというお話
我が国にも「虚構新聞」を筆頭にネタサイトが存在しますが、アメリカその他のネタサイト関連の議論もなかなかに奥が深いところがあるようです。
山本一郎です。夜釣りは風流なものです。
ところで、洋の東西を問わず、やはりSNSにおいては釣りができるようなネタが重宝されるようです。こんな記事がありました。
アメリカのパロディーニュースの老舗、Onionが釣りネタでトラフィックを集めるClickHoleをローンチ(TechCrunch Japan 2014/6/13)
大げさな釣りタイトルの記事、なんとか診断、トップなんとかのリスト等々で手段を選ばずトラフィックをかき集めたいと考えているなら良い知らせがある。パロディー・ニュース専門サイトのthe OnionがClickHoleという釣りネタでクリックを集めるとBuzzFeedスタイルのサイトをオープンした。ソーシャルメディアのユーザーはこういう記事を拡散することで労せずに大きな反響を得ることができるというわけだ。出だしはなかなか好調のようだ。TechCrunch Japanこの手のネタサイトはやってる方が途中で飽きてしまってなかなか続かないものです。実際、ネタ記事を頑張って書き続けるには才能がどうしても必要で、単発であれば最高のクオリティを出せてもだんだん落ちていくのが世の習いです。最初は良くてもなかなか一定のクオリティを保つのが大変な仕事ででありまして、そういう意味で我らが東スポはまさにプロだなと常々感心する次第です。
で、まあネタをネタとして分かった上で楽しめている分には何の問題もないのですが、SNSでこういう見出しだけが流れて来た瞬間にもうリンク先を確かめることもせず脊髄反射的に反応してしまう人々というのも少なくないわけです。下手すると、記事の一行目も読まない人もおるわけですよ。それでも後になってネタだったのかと笑って済ませられるくらいならいいのですが、ずっとネタであることに気付かない人とか、ネタであることが分かった途端に騙された自分が許せなくて激怒してしまう人などもいたりして、世の中悲喜こもごもであります。まあ、こうしたあたりも洋の東西を問わないようです。
「こういう記事をいくら読んでもどこがおかしいのかわからない人々がネットには大勢いる」ということに気づいて暗い気持ちになる。TechCrunch Japanしかし一方で、じゃあネタサイトがネタとして分からないような表現をとっているとしたらどうなのかという問題もありまして、その辺りは我が国の「虚構新聞」という定番サイトがまさにそのボーダーライン上から一歩危うい方へ足を踏み出してしまっていた可能性もありそうでして、そうした論考としてやや記事の書かれた日付は古いですが今も十分に通用しそうなブログ記事がありましたのでリンクしておきます。
虚構新聞に騙された人を笑うモラルのない自称“情報強者”たち(デジタルマガジン 2012/5/15)
賛否両論というか、世の中には皮肉やジョークを理解できない人たちが一定の割合いるので、そういう人たちの救済のためにもどこかに「それと分かる」仕掛けが必要とされるのだ、という議論ですね。そして、それは虚構新聞やBOGUS NEWSなどのネタサイトにおいて無粋であるかどうかの問題というのがあって、この辺は本当に宗教論争に近い何かを感じずにはいられないのです。
興味のある方はデジタルマガジンが言及しているリンク先を読んでいただければと思いますが、文中にある「小さい字で注意を書いておけば許されるならソフトバンクは公取委に怒られたりしないんです」というのがいいですね。虚構新聞の場合、特に見出しなどでネタがネタであると分からないような見せ方や表現を確信的に行っている場合がままあるように感じますし、それがSNSなどを介してデマの源となる可能性はやはり否定できないでしょう。ただ、「読み手の知性が試される系のサイトであるのだから、それでいいのだ」という意見もあって、それはそれで説得力があるので、やっぱり平行線に至る、と。
さて、先に挙げたTechCrunch Japanの記事に戻るのですが、最後に〔日本版〕として追記されている部分が面白いです。
the Onion、The Borowitz Report、The Daily Currantはアメリカ版虚構新聞のトップ3。日本のソーシャル・メディアでもこれらのサイト発のネタ記事を真に受けた読者が拡散しているのを見かける。ご用心。TechCrunch Japanそうなんですよね、なぜか海外のネタ記事は誰かが適当に翻訳してそれが事実としてそのままSNS辺りで流布して大々的に拡散されるケースが少なくないです。最近でもその典型的な事例がありました。
無人島で7年間遭難した人のSOSがGoogle Earthで発見された件はデマだったと指摘される(GIGAZINE 2014/6/12)
2014年3月にニュースサイトのNewshoundが「無人島に漂着した女性がビーチに巨大なSOSを書いておいたところ、Google Earthを見ていた子どもがこのSOSを発見、救出につながった」という、奇跡に近い感動的なニュースを報じました。しかしながら、複数のメディアが調査したところ、報じられた内容がデマであると指摘しています。GIGAZINEこの話、かなり多くの人がSNS上で取り上げて、まるで作り話みたいで感動したとかGoogle Earthは役に立つなどと書き込んでいたのを目撃しましたが、まさに作り話そのものだったわけですね。我が国にも、とある閣僚が中国の艦隊はGoogle Earthで確認できると喝破して、いろんな意味で大騒ぎとなりました。世の中、やっぱりさまざまな人がいるのです。
さすがにここまで劇的な話が本当に起きていれば大手ニュースメディアも当然とりあげてしかるべき話なんですが、そういうことが一切なかった時点で普通ならおかしいと感じそうなものです。しかし何も疑問に思わず信じた人は少なくなかったようですし、もしかしたら今も実際にあった話と信じ続けている人はそれなりの数がいるのかもしれません。あとは、事実かどうかは関係なく感動できる話ならウェルカムみたいな人も世の中にはいるので事はますますややこしいという話でもありますが。
まあ、SNSで流れて来るネタっぽい話には釣り針があるかもしれないので気をつけましょうということで。