無縫地帯

「ケータイ電話に課税」話の是非

自民党の一部有志議員が、逼迫する財政状態のなかで新たな財源として「携帯電話課税」についての議連を立ち上げると発表。非常に興味深い動きになってきております。

山本一郎です。「税金は取れるところから取ろう」派です。

で、携帯電話を巡って何やら興味深い政策提言が進行中のようです。

携帯電話課税で議連設立自民有志、秋に提言(MSN産経ニュース 2014/6/18)

自民党の有志議員は18日、携帯電話への課税を検討する議員連盟「携帯電話問題懇話会」の設立総会を党本部で開いた。財政再建や青少年の安全対策強化に向けた予算確保の観点から、自動車税のように携帯電話の保有者にも課税する仕組みの導入を念頭に置いており、秋ごろに提言を取りまとめる。MSN産経ニュース
あくまで自民党の議員有志であって、自民党全体というわけではないのでしょうが。

なるほど「財政再建や青少年の安全対策強化に向けた予算確保」が目的と。そういえば、最近発表された政府の成長戦略においては法人税削減が一つの大きなカギとなっており、それを伝える記事の中では法人税の引き下げから生じる税収減についてどうするのか議論となっていることも報じられていました。そうした税収減を埋め合わせるための一つの方策として携帯電話課税という話が出てくる可能性はあるのでしょうか。

4大改革、実行に課題成長戦略骨格固まる(日本経済新聞 2014/6/14)

最大の対立点は減税の財源をどう捻出するか。景気回復で増える税収の活用を主張する積極派に対し、財務省などは税収減をほかの増税策で補う恒久財源の確保にこだわった。日本経済新聞
で、注目したいのは携帯電話課税を巡っての以下の報道です。

携帯電話税を自民議連が検討自動車税の代わりか(The Huffington Post 2014/6/19)

自から名乗りを上げて議連会長に就任した中山泰秀衆院議員は、携帯電話税導入の検討を開始した経緯として、自動車への課税を下げるためという理由をあげている。(中略)中山議員は、若者が車の免許を取らないことを挙げ、自動車への課税は先細りすると指摘。高齢化による人口減少が進むなか、税を幅広く薄く徴収できるのは携帯電話だと話している。The Huffington Post
この記事を鵜呑みにすると、「若者の自動車離れ」が自動車産業を疲弊させているので、自動車産業保護のためにも自動車関連税は引き下げ、その一方で多くの若者が利用する携帯電話から税金を集めればいいじゃないかという論法に解釈できます。素晴らしいですね、まさにコロンブスの卵のようです。

もちろん、自動車保有数が減る以上、その税収は当然漸減するのは待ったなしなので、それへの穴埋めのため、というのが議論の趣旨だろうとは思います。ただ、一方で、成長戦略として産業振興策としての法人税引き下げ議論があるわけですから、ケータイを保有している家計にとっては負担増、企業にとっては負担減の方針はより一層鮮明になるのかな、と。

そして、上記記事で引用されている「OKINAWA HEADLINE」というPDFベースのフリーペーパーの中にある中山議員のインタビューも痛快です。

携帯電話というのは電波利用料というものを払っています。だけど電波って資源なんで有限なんです。資源を利活用しているという共有の思いを、携帯を買って持っている我々が携帯1台につき、例えば毎月100円でもいいし1000円でもいい。携帯に税金を課しましょうということなんです。携帯税には犯罪抑止効果もあるわけです。携帯を使った犯罪ってたくさんあります。これを補足することができるようになりますThe Huffington Post
毎月100円と毎月1000円では随分と差がありますが、そこはあまり斟酌されてないようですね。それはいいとして、「携帯税には犯罪抑止効果もある」というのは論理がやや飛躍しすぎなのではないでしょうか。税金がかかるから犯罪者は携帯電話を使わなくなるという可能性はまずないような気がします。まあ、携帯電話税の一部は「青少年の安全対策強化に向けた予算確保」(MSN産経ニュース)に使われるとありましたから、何をどうするのか具体的にはさっぱり分かりませんが「補足することができる」ということのようです。

こういう意見が出れば当然反対意見も出てくるわけでして、以下のブログ記事などがその典型となります。

「携帯電話税」の推進者、中山議員「携帯1台につき、例えば毎月100円でもいいし1000円でもいい」(すまほん!! 2014/6/19)

私は、個人的にはこのよくわからない「共有の思い」からお金を払いたいとは感じません。なぜなら総務省は、「電波使用料」という名目で毎年約500億円以上の料金を、移動体通信事業者(携帯会社)から徴収しています。私達ユーザーも毎月の料金を事業者に支払うことで、電波という資源の活用のために、既に間接的にお金を納めていることになるからです。
これもまた、正論ではありますね。
まあ、どこに税金をかけても同じ理屈で反対論が出るのが税制変更論議の難しさではあるのでしょうが。

やはり「共有の思い」というのは税金を取り立てるための理由としては論理的な説得力がないので、もう少し知恵を絞ってよいロジックを捻り出す必要はあるかもしれません。しかも、携帯電話会社が賄う電波使用料は結局、個人ユーザーが支払う毎月の料金から捻出されていることは明かである上、その料金にはすでに消費税も別途加算されています。また、携帯電話端末を購入する際にもその価格には消費税が当然かかります。ここでさらに新しい携帯電話税が加われば、現状の自動車ほどではないにしろ中山議員が言うところの「タックスオンタックス」的な状況となりそうです。

例えば自動車産業って今後どんどん先細っていくでしょ。それに自動車って持っているだけで税がかかる。それは自動車だけ。おまけに走るのにも軽油税とかガソリン税に道路の税金も払わないといけない。タックスオンタックスの象徴なんです。業界が先細りになっているのにもかかわらず、そこに税をかけ続けたらもっと車離れが起こってしまって、日本の産業が牽引力を無くしてしまいますよ。The Huffington Post
まあそれはそうなんでしょうけどね。

もしかすると、今度は若者の携帯電話離れが起きるかもしれませんが、まあ、自動車産業がそれで助かるなら安いものかもしれませんね。ちなみに、中山議員は自動車が大変お好きなようです。

中山泰秀外務政務官(自民)は車11台を所有。うちポルシェが3台、メルセデス3台、ダッジ1台と大半が外車。「カーレースが趣味で、電通に勤めていた20代のころから持っていた。愛読書は(中古車情報誌の)『カーセンサー』と『Goo』です」。残りの国産車は地元事務所が政治活動に使っているという。The Huffington Post
いや、これだけ車をお持ちだとは。
その一台一台には当然税金がかかっておられるわけで、納税者の鑑だぞとも思うわけです。

まあ、趣味でこれだけ自動車を維持できるような御仁であれば毎月1000円程度の携帯電話税を納めても懐は痛くもかゆくもないでしょうが、そういう金銭感覚の持ち主が一般庶民の質素な台所事情を顧みるのはむつかしいかもしれません。

税制度は国家を運営する上で非常に重要な問題であり闇雲に増税そのものを否定するつもりはありませんが、老若男女含めて広く国民一般に影響が出るような税制度ですので慎重な議論の積み重ねをお願いしたいと感じた次第です。

そうこうしているうちに、パチンコ課税の話まで飛び出してきました。

浮上したのは2月14日。オイラが知ったのは15日で記事にしたのは16日。ロイターは既に報じてますから新しい情報ではないのだが産経がここで来ましたか→「パチンコ税」創設が浮上1%で財源2000億円試算(産経新聞) - Y!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140622-00000042-san-pol …Twitter - POKKAYOSHIDA
いやー、財源ないんですよね。どうにかしなければ大変だ、というのは分かるんですけれども、消費税引き上げでこれだけの騒ぎになったわけですし、小手先の議論でもやらないと将来的にマズいんだろうな、と思うわけであります。

どうせですので、不倫税とか野次税でも創設したらどうでしょうか。野次ったら100円。