無縫地帯

電子書籍ビジネスが何やら焦臭い感じです

オンライン上でのデータ販売で、DRMの有無で売り上げが変わったり突然のサービス終了で利用者の権利が消失するなどの問題が多発しているようで、どうなっておるのかヤマダ電機というのも含めて論考してみました。

山本一郎です。氏名をDRMで確保されても一般的名称過ぎて法的に保護されるのか不安な日々を送っています。

やや旧聞に属する話となりますが、DRMで保護された電子書籍をコピー可能とするソフトを製造販売したとして、当該ソフトを販売していた会社社長らが逮捕される事件がありました。

電子書籍のコピー禁止回避する違法ソフト製造会社社長ら逮捕(イザ! 2014/2/19)

電子書籍のコピーを可能にするソフトを製造したとして、京都府警は19日、著作権法違反(技術的保護手段を回避するプログラムの製造)の疑いで、横浜市西区のソフトウエア製造販売会社「インターナル」社長、石田渉容疑者(37)=東京都港区六本木=ら3人を逮捕した。(中略)電子書籍はコピー禁止だが、コミスケ3をダウンロードすると保護を回避できる仕組みになっていた。コミスケ3はインターネットなどで約6千~1万8千円で販売されており、同年3~12月で、約2760万円を売り上げていたとみられる。イザ!
フリーソフトで何でも出来てしまうような今の時代に、「約6千~1万8千円」もするソフトが売られて「約2760万円」の売上になっていたということですから、世の中、著作権を破るためにはいくらでも金を出す輩も少なくないということなのでしょうか。

それはともかく、この事件を受けて今さらではありますが、電子書籍ビジネス関係者で構成された日本電子出版協会が見解を発表しておりました。

DRM回避は「電子書籍のコストを増大させる」日本電子出版協会が“コミスケ事件”にコメント(ITmedia 2014/5/28)

協会は、DRM回避ソフトは結果的に電子書店などのコストを増大させると指摘。被告に厳正な司法判断がなされ、違法コピーを助長する行為が処罰されるとの認識が広まれば、DRMなしの電子書籍の配信も可能になるとしている。(中略)協会は、「DRMはコピー防止対策だが、その費用を純良な読者から頂くことでもある」と指摘。DRM解除ソフトは電子出版の発展を阻害するとし、被告に対し厳正な司法判断を求めている。ITmedia
著作権違反をしない社会になればDRMは不要になるとし、そういう社会を実現するためには違反者に対してより厳しい処罰を求めたいという話になっています。興味深いのはDRMを実施するための費用は「純良な読者」によって賄われているということが公言されているあたりでしょうか。

DRMが売上に対して何も貢献していないという説については音楽配信を巡って随分前から語られていることで、実際、多くの音楽配信はDRMを廃止しているのが昨今の流れではあります。

著作権管理にはメリットなし!? 欧米で広がるDRMフリーの音楽配信(ITpro 2007/9/25)

今さら電子書籍ビジネスにおいてDRMについて議論されるというあたり、出版業界はこれまで音楽業界が辿ってきた道をまったく学習せず、また一から無駄に同じ苦労をしようという姿勢であるように見えなくもありません。

また、電子書籍のDRMということでは、某サービスが導入しているDRMに問題があり、ユーザーのファイルを誤って削除してしまったという事件が今年の初めにあったのも記憶に新しいところです。以下は拙ブログの記事ですがご参考まで。

電子書籍Booklive!がDRMでマルウェア配信中

まあ、電子書籍がぼろい商売と勘違いして参入してきた事業者も決して少なくないのでしょう。その結果が、以下のようなまことにもって拙い展開にもつながっているように思えます。

ヤマダイーブックでもこれまでの電子書籍購入物が読めなくされるらしい(げろみ日記 2014/5/29)

誠に勝手ながら、この度、サービスの向上・コンテンツの拡充を目的とし、今夏を目処にシステムを大幅に変更させて頂く運びとなりました。現行ヤマダイーブックにつきましては、2014年7月31日をもって一旦サービス提供を終了させて頂き、新規電子書籍サイトを立ち上げる予定となっております。(中略)お客様にてご購入いただきましたポイントにつきましては、返金及びヤマダポイントへの交換は出来かねますので、予めご了承頂けますようお願い申し上げます。また、ご購入及びダウンロードされたコンテンツにつきましては、新規電子書籍サイトには引き継がれないため、2014年7月31日をもちまして閲覧出来なくなります。げろみ日記
この文言を素直に読むと、今までやってた電子書籍サービスは失敗だったので作り直すから、ユーザーはまた全部新たに買い直してね、これまで買ったデータは全部無効だから、としか解釈できません。こんな商売やられたらユーザーは誰も電子書籍なんて買わなくなるし、買ってしまったデータは保存するために違法コピーするしかないじゃないですか。

さすがヤマダ電機、やっていることが横綱相撲で最高に面白いです。

先のヤマダ電機の説明には何度も「ご理解頂けますようお願い申し上げます」という類の文言が出てきますが、誰も理解できないのが実情でしょう。やっちまった感が甚だしい限りです。

こちらの一覧を見る限り、ヤマダ電機は日本電子出版協会には参加していないようですが、こういうユーザーに対して不誠実なサービスを展開している事業者の取り締まりなども協会にはお願いしたいところであります。

なお、DRMとは直接関係ありませんが、同様の事態はソーシャルゲーム業界でも普通に発生しておりまして、採算が合わないから突然ゲームが終了予告されてもいままでそれに銭をぶっ込んだユーザーには返金等はなされません。むしろ、いままで有料で流通していたアイテム類が逆に無償提供されて遊び放題になるなど、過疎るゲームに金を使ったユーザーが「無駄カネを使う」「入れ込んだゲームが終わる」「無料化されてにわかユーザーがやってくる」というトリプルパンチで涙目になるというのは素敵過ぎます。

このあたり、ユーザー保護の法制化はダウンロード販売の世界でもそろそろ考えなければならないでしょうし、またネットでも一つ一つ声を上げていくしかないんじゃないでしょうかね。