NTTが適法だから問題ないとして光回線卸ビジネスに打って出た件
NTTが東西を通じて光通信サービスを事業者向けに卸売するということで物議を醸しておりますが、周辺事情を聞くととても興味深い内容だったので記事にしてみました。
山本一郎です。福島行っても鼻血が出ません。私はすでに汚染されてしまっているのでしょうか。
ところで先日、NTTがいきなり大きな発表をしておりました。
“光コラボレーションモデル”~新たな価値創造への貢献~(NTT報道発表資料 2014/5/13)
単に資料の題名だけを見ると、「一体お前は何を言いたいんだ!?」と思わず問い質したくなるような典型的な悪文ですが、中身は、NTT東西を通じてこれまでコンシューマ向けのみに提供してきた光通信サービスを事業者向けに卸販売で提供開始をするという宣言になっています。今後のスケジュールによると、第2四半期に提供条件などの概要が発表され、第3四半期から実際の提供が開始されるようです。
発表会を取材したメディアによる記事も色々と出ており、内実を分かりやすく反映した見出しが目を引きます。
NTT東西が光回線のサービス卸開始へ、ドコモはセット割可能に(ロイター 2014/5/13)
携帯・固定セット割に追い風NTTが光回線開放(日本経済新聞 2014/5/14)
一部設備を貸し出すのではなく、コアネットワークを含めた光回線をサービスとして卸で提供する。幅広い分野の事業者に公平に提供、NTTドコモが卸を受ければ、現行法の制度下でもKDDIと同様に光回線と携帯電話の「セット割」が可能になるという。ロイターこういう話が出れば当座はドコモとの関係に注目せざるを得ませんし、実際ドコモでは「卸の活用について前向きに検討していく」(ロイター)というコメントも出ています。
また、どういうコンテクストの流れで語られたのかは不明ですが、NTT鵜浦博夫社長の言葉が以下のように報じられており、ドコモにおけるセット割という事業展開を実現するための一施策であることはまず間違いありません。
サービス卸について「固定、移動のセット割についての解であり、その道を拓いていくものだが、単なるシェア争いの道具としての卸モデルではない」と強調。ロイターもちろんドコモ以外でもこの発表に前向きな反応を示す事業者は決して少なくないものと思われます。
NTTの方針転換により、通信設備を持たない企業でも光回線サービスを提供できるようになるほか、携帯電話と固定回線を組み合わせた料金メニューが用意できる。サービス競争が加速、通信コストの下落が進む可能性は高まる。格安スマホ大手の日本通信は「利用に向けて前向きに取り組む」と表明した。日本経済新聞一方で、今回のNTTの発表により息の根を止められつるある事業者も当然ながら存在します。
NTTが光回線の卸売りを3Qに開始、多様なプレイヤーの参入を促す(ITpro 2014/5/13)
NTTの今回の発表は、KDDIや電力系事業者、CATV事業者にとって大きなダメージとなりそうだ。卸料金の水準次第だが、様々なプレイヤーがNTT東西の光回線を安価に調達して参入してくれば、それだけシェアを奪われる可能性が高くなる。NTT東西による光回線の卸提供が現行法で問題ないとしても、競合事業者による反発は必至。ITproまさにNTTの奇策による「NTT法」逃れと言われても仕方のない状況でもあります。この辺りの各社の事情については拙ブログでも以前に取り上げましたが、事態の収拾が簡単につくことはなさそうです。
NTTグループ規制緩和の件は単に「セット割」だけの問題ではないという話
諸々のしがらみを横目で眺めつつ、NTTとドコモとしてはさらに思い切って一歩踏み込んだということでしょう。固定電話網ビジネスがかなり深刻な状況となりつつある状況を鑑みれば、NTTとしてもただぼんやりしているわけにはいかないという話でもありますし。
固定電話の平日利用、10代はゼロ・20代でも1%未満の衝撃…電話、メール、ソーシャルメディア利用実態(Yahoo!ニュース 個人 2014/5/3)
NTT西は減収減益固定電話減り、「光」ふるわず(MSN産経west 2014/5/13)
当のNTTの中の人間とやり取りしておりますと、それなりに深い考えで参入を決断した節があります。中でも「いままで現行法の枠内で充分実施可能なサービスだと考えてきたが、他の通信事業者からの反発が全体的な業界環境を悪化させる可能性があると予想して配慮してきた」とし、「いまや移動体通信、それもデータ通信事業が主戦場になった以上、NTTのシェアも随分”お譲りしてきた”という印象も持っている」という。
その中でのSBグループの営利1兆円、有利子負債ゼロ宣言は、通信インフラを担う公共事業として通信業界がこれほどの利益を出せるようになったのは国民から考えれば負担とも言えます。見ようによってはY!モバイルという形で押し付けられた事業もビッグデータ方面のとっかかりが規制されると一挙に苦しくなるわけですよ。幾ら利益が上がるからといって、成長産業護持の名の下に通信の秘密がなし崩し的に失われかねないような議論には抵抗が強まるのも事実でありましょう。携帯電話サービスを持つ通信キャリアが限定された競争の枠内で個人情報を利用したサービスに打って出る可能性があることは、需要の増大や経済効率の改善に役立つ一方で、利用者が知らないところでデータが分析されることに対する歯止めをどう社会としてかけていくのかという問題は常にあります。
そうなると、そもそもNTT法を含むNTTに対する規制とは何だったのかが問題となるわけですけれども。こんなことをヤフーニュース個人に書いていいのかどうかは分かりませんが、私としてはそこまでの業績改善がSBグループとしてできたのであれば「国民のためにインフラ業者としてちゃんと競争したら」と思うわけであります。
あくまで思考実験であり問題提起ってことで、ひとつ。