無縫地帯

「シャープがサムスンと提携」という百鬼夜行

シャープが韓国サムスン電子との資本・業務提携を発表しました。米・クアルコムや台湾・鴻海といった有力企業に挟まれて翻弄されるシャープが実に悲惨なんですが…大丈夫なんでしょうか。

やまもといちろうです。雪がやんで少し心が晴れやかになりました。

ところで、先ほど報道でありましたがシャープが韓国サムスン電子との資本・業務提携を正式に決定しました。

シャープ、サムスンとの提携を取締役会で決定(読売新聞 2013/3/6)
シャープ:サムスンが100億円出資へ、再建計画ずれ込む中で(ブルームバーグ 2013/3/6)

取締役会での上記決定が公になる前の昨夜から、すでに大手報道機関が一斉にこの件を報じたため、シャープでは「資本提携に関する報道について」という文書を発表するまでの騒ぎとなりました。

3月5日夜以降、当社に対する海外メーカーの出資(資本提携)に関する報道がありましたが、当社が発表したものではありません。
サムスンの出資額は、各メディアが事前に伝えていた「約100億円」に間違いありませんでした。また、業務提携では読売の記事であるように「サムスンにスマートフォン(高機能携帯電話)やテレビ用パネルを優先的に供給する」ということになるようです。

興味深いのは、ご破算になったのではと憶測を呼んでいた台湾・鴻海精密工業との提携の成り行きでしょう。当初、鴻海からは669億円の出資が見込まれていましたが、今回のサムスンからの出資額はその6分の1以下です。

出資額は669億円 シャープ、鴻海グループと業務提携を発表(ASCII.jp 2012/3/27)
シャープ:鴻海と交渉中止協業巡り対立、期限内には困難(毎日新聞 2013/2/23)

先にあげた本日の読売新聞の記事によれば、鴻海はシャープとの交渉は継続するとありますが、さて……。

シャープと提携している台湾の鴻海精密工業は「シャープとの交渉や協業に変化はなく、引き続き行う」とのコメントを発表した。
サムスンが提供する100億円だけで、今のシャープの財務状況を改善するためのカンフル剤となりえるのかどうかは予断を許さないところでしょうし、サムスン側の目論見が、今回発表されている提携の枠の中だけで収まりきるものかどうかも気になるところです。

ちなみに、サムスンという企業を知るためには、以下のような最近の動向が参考になりそうです。

アップルとサムスンの係争で注目をあびるFRAND条項(オープンソース・ライセンスの談話室 2012/9/9)
EU、Samsungを提訴へAppleとの特許紛争が独禁法違反に(ITmedia 2012/12/21)
東京地裁でアップルのサムスンに対するFRAND抗弁を認める画期的判決(栗原潔のIT弁理士日記 2013/2/28)

サムスンとAppleはスマホ販売競争を巡って、相手製品の販売差し止めを狙っての特許訴訟を何件も引き起こしているわけですが、その中でサムスンは社会的にやや公正を欠いた形で無理を通そうとした結果、自ら窮地に陥るという事態が続いて起きています。

一方で、英国での裁判でサムスンに有利な判決を出した判事が、その後、サムスンの法律顧問として雇われていることが発覚しました。

「アップルを負かした」英判事サムスン特許訴訟の法律顧問に就任(J-CASTニュース)

誰がどのような仕事をして評価され、その結果で次にどんな仕事をするかは、まったく個人の自由ではありますが、なんとなく後味の悪いほのぼのニュースではあります。

ともかく、こういうちょっと強引な仕事の進め方が良くも悪くも「サムスン流」という印象はあります。これまで同社とはライバルとして戦ってきたシャープの中の人達も、今後はこういったやり方と真っ正面から向き合っていく必要がありそうですね。もっとも、シャープの社風もゴーイングマイウェイな雰囲気があるようですから、お互いに無理を言い合いつつも、意外と相性は良いのかもしれません。

シャープ社員が激白「ウチの会社がダメになった理由」(日刊SPA! 2012/10/16)

なお、新しい株主リストを見るに、クアルコムの上にサムスンが一時的にきます。今後は、クアルコムの新液晶に関する事業展開をシャープが一手にやる形で運ぶのかどうかといったあたりが関心の的になるわけですけれども、シャープが今後、鴻海、サムスン、クアルコムと資本構成の分断を受けてしまった場合に、どこまで事業提携において三社間のファイヤーウォールを敷くのか分からないなあという悩みが出てきます。

サムスン電子との液晶事業分野における協業関係を強化同社日本法人のサムスン電子ジャパンと資本提携

とりわけ、半製品市場にまで打って出て、危機感もって事業構造を大きくシフトさせつつあるクアルコムとしては、新しい事業の柱としての新液晶ビジネスをやるにあたりシャープの能力はどうしても欲しいわけです。ただ、ここでうっかりサムスンに手の内が知れてしまうとオオゴトです。

より長期的なビジョンに基づいて合理的な戦略提携を見込むほどシャープが一枚岩の経営をしているのかというと、実に微妙なところであります。というか、過去の提携事例で見ても、短期的に技術を吸い上げてポイする傾向の強いサムスンから100億円程度のお金を入れられて技術や情報が出て行くリスクをシャープが進んで受けに入っているということであれば、これは何らかの銀行筋か政府筋が介入するべきなんじゃないですかね。