無縫地帯

ドコモ新料金プランの思惑はいずこにありや

先週、ドコモが通話料の定額化も含めた新料金プランを発表。増殖するLINE電話などアプリ系の侵食もありつつ通信業界各社が対応を強化しているようです。

山本一郎です。なんか横断歩道で待ってたら、スマホ見ながらふらふらやってきた自転車が、通りの向こうで電信柱とぶつかって盛大にコケているのに遭遇しました。皆さん、スマホのながら運転やながら歩行は控えましょう。

ところで、すでに旧聞に属する話題ではありますが、当事者がまだ何も公表していないにも係わらずメディアが一斉に報じるという典型的な形でドコモの料金体系変更がニュースとなりました。

ドコモ、データ通信に家族割スマホ新料金プラン(日本経済新聞 2014/4/9)
ドコモ、通話料金大幅値下げ国内初の定額制導入へ(朝日新聞 2014/4/9)
6月からスマホ通話に定額制ドコモが料金プラン大幅値下げ(産経新聞 2014/4/9)
NTTドコモがスマホ新料金体系を検討、音声定額制を導入へ(ロイター 2014/4/9)

毎度のことではありましたが、当然のようにドコモ側からはこれらの報道に対して以下のような公式見解を発表しました。

当社の料金プランに関する本日の一部報道について(NTTドコモ 2014/4/9)

本日、一部報道機関において、当社が新たな料金プランを導入する旨の報道がありましたが、当社が発表したものではございません。NTTドコモ
またプロレス始まったなという感じで見ていましたが、ドコモとしてはああ答えるより仕方ないのですけどね。で、この時点で各報道の情報から「明日(10日)発表」(産経新聞])して「新サービスは6月1日から始める予定」([http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPL3N0N104W20140409 ロイター)ということが分かったわけですが、その翌日にはまさにその通りの公式発表が行われております。

新たな料金プランおよび割引サービスを提供開始(NTTドコモ 2014/4/10)

あまりにも各社のスクープ(?)通りの展開で面白くもありません。どうせなら皆の期待を裏切るような想定外のことをやってほしいと思わなくもありませんが、まあドコモも洒落で商売やってるわけではないので無理なんでしょうね。

さて、今回のドコモの通話料定額制の導入についてですが、おそらくはLINEがIP電話事業を開始しますよと各キャリアへお伺い立てた頃合いにはすでに粛々と準備が進められていたんだろうなと想像します。ソフトバンクが先行する形で似たような施策を打ち出していましたが、ドコモの方が体力の有る分さらに突っ込んだ形で攻めてきたといったところでしょうか。

ソフトバンクのVoLTE時代向けプランは「スマ放題」。SB同士無料や超過分値下げなど開始前改定(Engadget日本版 2014/4/1)

今のところKDDIはまだ通話料定額競争の土俵に上がってきていませんが、田中社長が話題のLINE電話に対して感想を求められた際に興味深い発言をしていたので拾っておきます。

LINE電話は「あまり気にしていない」――KDDI田中社長(ITmedia 2014/4/4)

ネガかポジかという話ですか?あまり気にしていない。LINE電話で、音声MOU(1カ月あたりの通話時間)が下がっているのは明らかになっているけど、敵対的に排除するかといったら、そんなことは全然ないITmedia
同氏独特の話術もあるのでこの話をどこまで鵜呑みにするかはさておき、LINE電話の普及が音声MOUへネガティブな影響を与えていることを公然と認めているのは面白いですし、それに対して何らかの対応策を既に用意しているらしい余裕があるのも注目しておきたいところです。ドコモやソフトバンクも全く同じ状況でしょうが、やはりキャリアとしてのブランドが持つ信頼性みたいなものを訴求してユーザーを集めるという展開になるのでしょうか。また、安かろう悪かろうを承知なIP電話ユーザー層に対していくらキャリア回線における音声通話の品質をアピールしても、今となってはそれは無駄な行為であるという割り切りも各事業者は学習している感も無きにしも非ずです。

さて、今回のドコモの新料金プランですが、そんなキャリア側の割り切った思惑が微妙に反映されていのことなのか、データ通信を重視するネット民にはやや納得がいきがたい方向へ舵を切ったと言えるのかもしれません。

現行プランとの比較で探る:ドコモ新料金プランで「得する人損する人」――通話とパケット通信で検証してみた(ITmedia 2014/4/14)

必ずしも新料金プランが得になるとは限らない。特に通話が少ない(49分未満の)人には新料金プランは割高なプランになってしまう。ITmedia
上記記事によれば、通話をほとんどしないデータ通信中心のスマホユーザーであれば現行提供されているプランを利用する方が割安であるとハッキリ結論が出ています。しかし、そうしたスマホ向けの既存プランとその関連割引サービスについては「2014年8月末をもって新規受付を終了」(NTTドコモ)が明らかにされていますから、データ通信主体のスマホユーザーにとっては実質的な値上げという解釈もでき、今後そういう客筋に関してはMVNO等で他の通信サービスへ流れていくという図が見える話でもあります。

また一方で、他社キャリアや固定回線への通話にも完全定額制を適用したということは、通話を目的とした国内固定電話回線の契約数をさらに減少させるであろうことも容易に想像できます。NTTグループ再統合のような話が色々と巷で立ち上がっていますが、はたしてそうした背景での取らぬ狸の皮算用ありきで話が進んでいるとすれば、その後想定した状況と異なる何らかの事態が発生したときには色々とまたグループ内での調整が大変そうですが、そうした内輪に向けたベクトルだけで事業展開して美味しくやっていける時代でも無くなったという話でもあるのでしょう。そういう意味でも今回のドコモは思い切ったなと感じ入る次第です。

ドコモは思い切った後でどこへ向かっていこうとしているのかは良く分かりませんが。