佐賀県がICT教育関連で強引すぎる件
学校教育にタブレットPCを活用する件で、その推進の根拠となっていた学力向上の効果を過度に強調していたとして、県教委が資料修正したという問題がありました。
山本一郎です。エイプリルフールなど必要が無いぐらい冗談の多い人生を送っています。
ところで、なぜかTwitter上で、昨年末の佐賀新聞の記事が流れてきてちょっと興味をひかれました。
タブレット効果過度に強調県教委が資料修正(佐賀新聞 2013/12/24)
来年度の佐賀県立高校の1年生(約6800人)が生徒負担5万円で購入するタブレット端末について、県教委が開いた保護者説明会で、タブレットを導入していない学校も学力が向上していたにもかかわらず、導入校だけの成績データを示し、「導入で学力が向上した」と説明していた。「過度に効果を強調している」という指摘を受け、県教委は「強引な面があったかもしれない」として資料の一部を修正した。佐賀新聞さすがに、こういう根拠の無いデータで行政が推し進められるのはいかがなものかと思うわけですが、佐賀県教委としても「先進的ICT利用活用教育」を合い言葉に鳴り物入りで初めてしまったことだけに、「強引」にやるしかなかったということなんでしょうか。昨年の夏頃にこの施策が発表された当時も色々な意味でかなり話題になっていましたね。
佐賀県教委、全県立高校でWindows 8タブレット導入を決定(PC Online 2013/7/10)
デジタル教科書 大きい負担佐賀県の県立高校、教材のタブレット代5万円は自己負担、教科書費用は別途必要(Huffington Post 2013/9/6)
話題性が高かった理由の一つは県立高校入学者の全員が一律5万円の自己負担でタブレットを購入しなければならない点でしたが、それ以外にもはたして導入したタブレットを現場で効果的に活用できるのかどうかなど様々な疑問が呈されていました。
モノができればすぐに普及されるというわけではなく、デジタル教科書の導入については幾つもの障害がある。生徒が一斉に動画を再生してもインターネット接続が途切れないような高速無線LAN環境の整備や、デジタル化した教科書検定のチェックをどのように行うのかなどの問題が多岐にわたる。Huffington Postまさに賛否が渦巻く状況でしたが、行政としては一旦決まったことは粛々と進められるのが常であります。県教委としても「学力向上」を錦の御旗に期待が高まっていたことでしょう。しかし、やっちまったなという感じです。
今年に入ってからも、いまいち芳しくない傾向の報告が報じられておりました。
1人1台で学力伸びる?佐賀県立高、タブレット導入(朝日新聞 2014/2/26)
端末の導入効果などを研究するため、県内の一部の高校では先行導入している。その高校で昨年、1カ月間の端末使用時間を調べると全授業時間の約6%で、目標の10%に届かなかった。ある生徒は「端末は面白いけど、使うのは週1回くらいなので効果は感じない」。同校の教諭は「効果的な指導ノウハウもまだ蓄積されていない。負担をお願いしてまで導入するのは早いのでは」と話した。朝日新聞なんと、実際の授業ではほとんど利用されておらず、生徒からもダメ出しされたりしております。まあ、こうした新聞記事だけを読んで判断するのは早計かとも思いますが、各家庭に課される5万円の負担が無駄なものにならないことを心から願いたいものです。
ついでですが、佐賀県のICT教育導入率は文科省のデータによると全国トップクラスなんだそうです。
教育現場でのICT導入…首位は小中高で佐賀(PC Online 2014/1/31)
小中高等学校の全てで佐賀県の自治体が首位に立った。同県の結果で目立つのは教員指導力の高さ。例えば小学校の場合、2012年の68.7%から2013年は94.2%と大幅に向上。PC Onlineところが、この数字の裏付けには問題があるのではないかというブログ記事もあったりします。
佐賀県ではDVDプレーヤーで番組を見せると「ICTを活用した指導能力あり」です(佐賀県ICT利活用教育の現場報告 2014/2/11)
2013年3月の佐賀県の調査では、県教委から別紙資料がついてきて「B-1学習に関する生徒の興味・関心を高めるために、コンピュータや提示装置などを活用して資料などを効果的に提示する」例として「DVDプレーヤーで番組を見せる」と例示されていました。「DVDプレーヤー≠コンピュータ」は明らかなので、佐賀県では「提示装置など=DVDプレーヤー」である訳ですが、この解釈には違和感を覚えました。うーん、この件についてもこのブログ記事だけを根拠に判断することは避けねばなりませんが、なにか佐賀県教委では統計データの意図しない(実は意図的な?)操作が色々と行われていたりするのでしょうか。
さて、佐賀県は教育現場だけでなく自治体全体でもタブレットの導入には積極的なようでありまして、大分にパブ記事の匂いがしなくもないですが、こんな話もあるようです。
佐賀県、タブレットで民生委員の業務を効率化--ドコモや日本MSら(CNET Japan 2014/1/16)
タブレットで佐賀が変わる?ワークスタイルと管理職の意識を改革する県庁の秘策(ITmedia 2014/3/25)
2014年度の計画ではまず1000台の端末を導入し、現場への出動機会が多い職員や各部署にiPad/iPad mini、WindowsのタブレットやUltrabookを配備する。「事前のヒアリングではiPadが約700台、Windowsが約300台になる見込みで、業務にExcelなどが必須という職員はWindows端末を利用する」ITmedia実際の県庁に導入されるタブレットの7割はiPadらしいので、徒にMicrosoftとガッツリという感じでもないわけですが、佐賀県は色々と新しいものに熱心ということは確かなようです。そういえば、公立図書館の運営をCCCに任せたのも佐賀県の武雄市でしたし、これは何かそういう気風があるということなのかもしれませんね。
スタバ併設、私語OK 「市立TSUTAYA図書館」の集客力佐賀・武雄市、開業から半年(日本経済新聞 2013/10/5)
いずれにせよ、学力が向上するかどうかは別にしてICTリテラシー教育を行うことは今後の日本においてはマストであるので、本質的にはこのような問題に関わらずデジタルが教育の現場に浸透していくことは必要だと思います。
その根拠が常に学力の向上に置くのではなくて、日本人が社会で暮らしていくにあたって当然のように必要とされるであろうネットを利用する能力の育成に学校教育を適合させるべきという議論もあって然るべきかなあとは考える次第でございます。