無縫地帯

第三のスマートフォンOSに波は来るのか?

プラットフォームに決済にOSと垂直統合な感じの世界競争に手も足も出ない日本勢、そうはいっても対策を打たずにボケッとしていると土管屋に成り下がりますので第三のOSに注目が集まっています。

やまもといちろうです。最近、知らない間に「爆撃機」という仇名をつけられていたようで、暴れすぎたかと反省しております。

ところで、KDDIが新たなスマートフォン施策として、米Mozillaとモバイルプラットフォーム「Firefox OS」の開発に協力していくことで合意したと発表していました。そうですか。

「Firefox OS」搭載端末の導入に向けた取り組みについて(KDDIニュースリリース 2013/2/25)

KDDIは、Firefox OSのWebアプリケーションの実行に最適化されたシンプルなシステム構成により、システムの拡張性が期待できることから、様々なニーズに対応したFirefox OS搭載スマートフォンの導入を検討していきます。
今回の発表の注目点は、KDDIが、Firefox OS搭載端末の日本導入について検討をすすめるだけではなく、同OSの開発事業そのものにも深くかかわっていく計画であることを表明していることです。AppleにおまかせのiOSや、GoogleにおまかせのAndroidとは異なり、最初からイニシアチブを取ろうとする強い意志が見えるようです。気持ちは良く分かります。それはもう、良く分かります。

一方で、NTTドコモは別の新しいモバイルプラットフォーム「Tizen」へのコミットメントを以前から発表していましたが、ここにきて、Tizen搭載端末の年内発売もありえると日経が報じています。ほんとかよと思いますが。

ドコモ、新OS「タイゼン」スマホを年内発売(日本経済新聞 2013/2/27)

記者会見したドコモの永田清人取締役執行役員は「タイゼンはHTML5の動作が最も優れている」とファイヤーフォックスOSとの違いを強調。ドコモの主力商品である米グーグルのOS「アンドロイド」搭載端末とすみ分けるため、当面は中級価格帯の商品に搭載する考えだ。
上の2つの記事でもわかるように、Firefox OSとTizenは、いずれも「HTML5」という技術がカギとなります。HTML5は、次世代版Web記述言語であり、現行規格のHTML4では実現できなかった様々な機能や表現の可能性が期待されています。しかし、一方で、技術的にクリアされなければならない課題もまだまだ抱えており、メリットとされる互換性は簡単に実現できず、機能拡大よってもたらされるセキュリティ面への懸念もあるというのが実情です。

いったん、水を差されたHTML5の現状と、将来について(Think IT 2012/10/23)
HTML5のセキュリティ―その重要課題を展望する(TechCrunch Japan 2012/9/25)

KDDIもドコモも、ここで次々に新しいスマートフォンOSへ手を出してきた背景には、以前も書きましたが、キャリアの脱土管戦略が大きく関係していると考えるのが妥当でしょう(過去記事:やっぱりドコモは脱土管?頑張ってるけど微妙な試みたちの現状もついでに)。

iOSやAndroidをベースにしたスマホを使っている限りは、AppleやGoogleのエコシステムが前提となりますから、そこでキャリア独自の付加価値にお金を払ってもらうといったビジネス展開はなかなか難しい。それならば、自分達が独占できるようなエコシステムを全く新しいモバイルプラットフォーム上でやればいいじゃないかというわけですね。とくにドコモは「iモードの夢をもう一度」という思いも強いでしょう。

KDDIのFirefox OS導入に対する思惑については、コンシューマ事業本部長などを兼任するKDDI執行役員専務相手に、ケータイWatchがかなりつっこんだインタビューを行っていますが、どうも今ひとつスッキリした回答は得られていない印象です。まあ…すべてはこれからのことですし、クリアできていないハードルもある以上、歯切れが悪くなるのもしょうがないんですが。

KDDIに聞くFirefox OS導入の狙い(ケータイWatch 2013/2/25)

いかにオープンなOSという建前があるとしても、Firefox OSには非営利団体とはいえMozillaが、そして、Tizenの場合にはさらにシビアなビジネスでならしたサムスンとインテルが後ろに控えています。そう簡単に日本のキャリアの思惑をもってして事が進められるとは考えられません。

たとえば、サムスンは同社Android端末とPCを連携するためのPC向けソフト「Samsung Kies」を提供していますが、このソフトが色々と悪さをするということで問題になった経緯もあります。っていうか、文字通りスパイウェア認定されかねない代物であることは広く知られた話でありまして、このあたりのことをはたしてドコモはこの件どこまで関知していたのでしょうか……。

Samsung Kies のアプリが酷すぎる件 その3(黒翼猫のコンピュータ日記 2nd Edition 2012/9/12)

また、あのGoogleでさえもがサムスンには頭があがらなくなりつつあるようです。

Google、Samsungの台頭を懸念(リンゲルブルーメン 2013/2/26)

関係筋によると、GoogleはサムスンのAndroidへの貢献を認めてはいるものの、圧倒的シェアを誇るサムスンが今後、金銭的・制度的な優遇をAndroidプラットフォームに求めるのではないかと懸念している模様。
いずれにしても、ドコモとKDDIについては賽が投げられたということですから、今後のお手並みを拝見したいところです。さて、残るソフトバンクはこの流れにどう応えるのでしょう。いまだに昨年打ち出したスプリント・ネクステルの買収がスッキリと完了していないあたりも気になります。

ソフトバンク:3700億円規模の社債を発行へ、米社買収資金に充当(ブルームバーグ 2013/2/22)

ここにきて、ソフトバンクがスプリント・ネクステルを買収することはアメリカ議会が阻止しそうだとか、ドコモはTizenにそこまで肩入れする意向はないとも言われるなど、そう思い通りにいかない現実はあるようですけれども、その辺はまた今度。