無縫地帯

「アホ男子母死亡かるた」剽窃本にまつわるその後の話

先日騒ぎになっていたツイッター上の面白コンテンツ「アホ男子母死亡かるた」の無断引用本の出版の疑いについて、一連の事態が進行したようなのでフォローアップしたいと思います。

山本一郎です。元アホ男子・現アホ男子父を自認しています。

先日、ツイート無断引用の疑惑がもたれた書籍についての記事を書きました。

「アホ男子母死亡かるた」界隈で何やら焦臭いようですが大丈夫でしょうか

そうしたところ、同事件で期せずして当事者の一人になってしまったイシゲスズコさんが経緯を詳細にブログで公開される事態へ発展。こういうときややもすれば人は感情的になってキツイ言葉を使ったりしがちですが、この方の文章にはできるだけ冷静に表現しようという気持ちがにじみ出ていて大変好感が持てます。

「アホ男子かるた」出版の件(スズコ、考える。 2014/1/29)

で、これは一体どうなることかと思っていたところが、当の出版社が問題の書籍発売を無期延期と発表しました。

『アホ男子かるた』発売延期のお詫び(株式会社ユーメイド)

弊社が2014年2月3日に発売を予定しておりました『アホ男子かるた』ですが、発売を無期延期することといたしました。株式会社ユーメイド
この発表の形式ですが、同社のホームページにJPEG画像で発表されております。なぜテキストではなく画像なのかよく分かりませんが読みにくいので困ります。このお詫びの画像が掲載されているページ、他の文についてはすべてテキストで書かれているんですけどね。

おそらく他にも読みにくくて困っている人がいるでしょうから、ここはポイントとなりそうな部分をテキストに書き起こしてみることにします。

ツイッター投稿者の皆様からの理解を得ないまま出版準備を進めておりましたことにより、投稿者の皆様に不快な思いを与えてしまったことにつきまして、深くお詫び申し上げます。株式会社ユーメイド
「ツイッター投稿者の皆様からの理解を得ないまま出版準備を進めて」という文言から、どうやら出版社側には無断引用していたという自覚があるように見えなくもありませんが、間違いなくそうだったと断言することもできず、日本語の解釈はむつかしいです。

本件に関する出版までの流れですが、企画段階において関係各所に問い合わせた結果、ブロードキャストでのツイート利用に関するガイドライン(https://support.twitter.com/articles/277644-#)に準拠した形での利用であれば問題は無いとの判断に至り、漫画家甘井ネコ先生に漫画の執筆をお願いすることとなりました。株式会社ユーメイド
おそらく、この部分で触れられている「ブロードキャストでのツイート利用に関するガイドライン」の出版社側による解釈が妥当であったか否かが今回の一番のポイントなのではないかと思われます。「ブロードキャスト」とはなんぞやということですが、TwitterのWebサイトでは以下のように定義されています。

ブロードキャストには以下を含みますが、この限りではありません。メディアが提供する(全ての形態のテレビ、ラジオ、衛星放送、インターネットプロトコル、ビデオ、専用の無線ネットワーク、インターネット販売など)全てのツイートの展示、配布、放送、複製(再生)、公共パフォーマンス、その他一般に公開されるものです。これは既存のもの、現在開発中のものを問いません。当ガイドラインの条件に沿っているか不明確な場合は下記よりお問い合わせください。ブロードキャストでのツイート利用に関するガイドライン
まず明かなことは、紙の書籍出版がブロードキャストに該当するのかどうかが明示されていない点です。従って「当ガイドラインの条件に沿っているか不明確」ですから、本来であればTwitterへ直接問い合わせてしかるべきでしたが、ユーメイドのお詫びではそのあたりが分かりません。もっとも、「問題は無いとの判断に至り」とありますから自分達で判断しただけであり、直接Twitter側から問題無いと許諾を受けたのではないと解釈できなくもありません。この辺りも日本語はむつかしいです。

漫画を執筆いただいた甘井ネコ先生には、弊社の判断ミスにより多大なるご迷惑をお掛けいたしましたことをお詫び申し上げます。株式会社ユーメイド
執筆された方については、これは本当にお気の毒としか言いようがありません。この文章から解釈すると、一方的に出版社側の判断ミスによって、せっかく書き上げた本1冊分のマンガが全部ボツということになるのでしょうか。その労力に対してはなにがしかの対価がちゃんと出版社から支払われるのかどうかも大変気になるところです。

弊社と致しましては、事前にツイッター投稿者の皆様へ個別にご連絡をさせていただくことも検討いたしましたが、ツイッターの特性上、個別にご連絡を差し上げることが非常に困難であり、現実的ではないとの判断により弊社からの個別のご連絡を断念した次第です。株式会社ユーメイド
この部分ですが、これは全くの詭弁ではないでしょうか。Twitterなら簡単にリプライを飛ばせますから個別連絡は簡単に行えます。多数の投稿者へいちいちリプライを飛ばしてコミュニケーションをとるのはそれなりに面倒ではありますが、常識的に考えて「非常に困難であり、現実的ではない」という判断は普通ありえないように感じます。書籍や雑誌の編集業務等に携わる人ならこの部分を読んで「えー、それはないだろう」と思われた方も決して少なくないかと。

さて、今回の件に対してのまとまった論考としては以下のブログなども参考になりそうですので、ご興味ある方は是非ご一読を。

Twitter社はツイートを勝手にまとめて本にすることは認めてませんよ(最終防衛ライン2 2014/1/30)
Twitterのコンテンツの利用について―「アホ男子かるた」の話―(科学と生活のイーハトーヴ 2014/1/30)

今回のようなツイートの無断引用を差し止めるための手段として、著作権を楯にとるのがもっとも理に適ったやり方とも思われるわけですが、ではこうした短い文章に著作権が認められるのかどうかは裁判してみなければ分かりません。ただし、裁判を行うのにはそれなりの手間と費用も必要となり、上記ブログの中でも「わざわざ一般人が裁判するメリットがないのですよね」(最終防衛ライン2])と書かれてしまうような事情はあります。ちなみに、今回の件は「かるた」という表現だったため、短歌などと同等の条件と見なすことはできるのかもしれませんし、著作権情報センターのQ&Aでは「[http://www.cric.or.jp/qa/shigoto/sigoto5_qa.html 短歌は言語の著作物に該当します」と明言されているので、もしかすると裁判してみる価値はあるのかもしれません。今後類似案件が発生したときには是非誰か挑戦してみてほしいところです。

いや、それでも裁判やったほうがいいって場合もあるので、そのあたりは当事者の動きを引き続き生暖かく見守るのみです。本件はそろそろ鎮火かな?という趣のある物件になりましたが。