無縫地帯

日本政府のパーソナルデータ取り扱い方針を巡り、ヤフージャパンが過激な主張をして炎上

日本のパーソナルデータの取り扱い方針を巡る大綱案が審議される中、その影響を受けると思われるヤフージャパン他のICT業界がついに公然としたロビー活動を展開し始めました。しかしそのやり方で大丈夫か。

山本一郎です。重症ではないんですが、喉が痛いです。皆さまも流行病にはご留意ください。

ところで、先日もちょっと触れたのですが、我らがヤフージャパン等が主導する形でビッグデータ活用に向けた規制解放を訴えるロビーイングが熱心に行われているようです。この場でこんなことを書いて大丈夫なのかという気もしますが、他にも本件話題はいろいろ控えているので、柄にもなく気を遣いながら状況解説だけでもしてみようと思います(意味深)。

「日本がビッグデータ後進国になってもいいのか」ヤフーが警鐘を鳴らす理由(ハフィントンポスト 2014/1/22)
「日本のIT、完敗の恐れも」ヤフー、「パーソナルデータ」活用規制に危機感(2014/1/21)

上記記事はいずれもヤフーが開催した記者説明会を取材したものですが、いずれも見出しからしてかなり過激というか思い切り煽る方向になっております。特にハフィントンポストはヤフー側の発言の切り出し方がまさに炎上を狙った感じでなかなか香ばしいです。まぁ、読者に問題意識を持って記事を読んで欲しいということであえてそうしたと前向きに解釈したいところですが。

「いまさら、電気もガスもない生活に戻れますか? それと同じことです」(別所氏)――。日本のビッグデータ活用は、今、岐路に立っている。ハフィントンポスト
当然ながらこの火種、プライバシーに敏感なネット民にしっかりと受け止められ、炎上へ向かってその勢いがじわじわと大きくなっています。我らが高木先生もガッツリとこの件には絡んでおりまして期待を裏切りません。

まあ、彼の考えや立場であれば、当然これらのヤフージャパンの主張に対しては全面的に反論するのは自然です。

反対したら『プライバシーフリーク』?ヤフーのパーソナルデータに関する見解に批判続出(NAVERまとめ)

高木浩光先生のリツイートを中心に批判とその対象箇所をまとめています。NAVERまとめ
ここで興味深かったのは、ハフィントンポストの記事中で引用されているヤフーのプレゼン資料に出てくる「プライバシーフリーク」という単語です。気になったので、まずは日本語のままで検索してみましたが、今回のヤフーのプレゼン資料が公開される以前には、プライバシーフリークという言葉は日本にはまず一般に存在しなかったと考えられます。

次に、英語で「"privacy freak"」でGoogle検索してみたのですが、ヒット数はわずか2万4700件でやや特殊な表現の仕方であるようにも見えます。というか、私の限定的な英語力でさえ、"freak"という単語の持つあまりポジティブではない語感は気になります。そういうプライバシーに神経質な相手をさして「お前はプライバシーフリークだ」とするような書き方は相当に攻撃的かつ差別的な表現となってしまうので当然ながらおおっぴらには使われていません。

他でも指摘されている通り、本来ヤフージャパンが言いたかったであろう字義としてはやはり"privacy advocates"が適切なんだろうなあと思いますね。
自分が知る限り、プライバシー擁護派のことを英語では「privacy advocates」と呼ぶ。「privacy freak」という言葉をあえて使うということは別の意味を込めているんだろうなと受け取られても仕方ない気がする。城田真琴
その意味では、ヤフーが公開プレゼン資料の中で「プライバシーフリークの台頭」みたいな書き方をするのは、かなり思い切ったというか、まさに公的な場所での議論において相手のことを「お前のかーちゃんでべそ」と侮蔑するくらいに社会人としてはやや常識に欠いた表現であった可能性もありそうです。まぁ、英語と日本語は違うと言われればそれまでなんですが、明らかに何らかの恣意的な思惑があって新しい言葉を作ったと勘繰られても仕方がないような状況です。

その他にもヤフーのプレゼン資料では「~せざるをえない」「~すべき」といった言葉が多用され、また、米国は優れているがEUは劣っているといった論旨展開の極端さが目立ちます。一体何をしてヤフーがここまで突っ走ってしまったのか気になるところです。

言いたいことは分かるけど、EUで個人情報保護規制が厳しいこととインターネット産業が育っていないことの因果関係って証明されているのかな。RT 「日本がビッグデータ後進国になってもいいのか」ヤフーが警鐘を鳴らす理由 huff.to/1dS5GUi城田真琴
で、もしヤフーが優れた米国に見習うべしということを主張するのであればまずは自らがプラバシーポリシー施策を米国風に改善すべきということを、高木先生が暗に指摘されております。

このところヤフー(株)の記者説明会の模様「日本のIT、完敗の恐れも」www.itmedia.co.jp/news/articles/1401/21/news116.html … 「日本がビッグデータ後進国になってもいいのか」www.huffingtonpost.jp/2014/01/21/bigdata-yahoo_n_4635623.html … が話題になっていたので、ヤフー(株)のアプリは米国並みになっているのか…TAKAGI, Hiromitsu
…米国並みになっているのかと、ちょっと調べてみました。Google Playで「Yahoo Japan Corp.」のアプリ一覧にあった、57個のアプリのGoogle Playの画面を見てみました。TAKAGI, Hiromitsu
大半のアプリは、このように所定の場所に「プライバシーポリシー」リンクが存在しませんでした。TAKAGI, Hiromitsu
「プライバシーポリシー」リンクのあるアプリは、57個中6個(10.5%)でした。TAKAGI, Hiromitsu
そして、リンク先にあるポリシーは、いずれも、ランクCに分類(サービス全体のプライバシーポリシーがあり、その中に個々のスマホアプリに関する記述がない)されるものでした。すなわち、アプリケーション・プライバシーポリシーを掲載したアプリは0個でした。

米国の方向性とは異なるようです。TAKAGI, Hiromitsu
これはちょっと痛かったですね。

ITmediaの記事によれば「ヤフーが志向するのは、事業者にプライバシーポリシーの策定を義務づけるなど業界の自主規制を促しつつも、自由なデータ流通を推進するあり方で、米国のデータ流通の形に近い」そうですが、まずは自らがプラバシーポリシー施策において誰もが納得できるような一貫性を実現するのが急務となりそうです。今のままでは他者の目からすると単なるわがままな要求を大声で叫んでいる子供と同じにしか見えないかもしれません。

この辺で、本件話題は流行に大変敏感なKNN神田にバトンタッチしたいと思います。
こちらからは以上です。