無縫地帯

YouTubeも音楽の有料配信サービスを始めるようですがクリエイターは生き残れるのでしょうか

スマホ時代となり、googleやamazon、Appleなどサービスプロバイダがどんどんクラウド方式へ移行していき、いよいよ円盤が死に絶える日が近づいているようです。

山本一郎です。そろそろ長袖のワイシャツを着る季節になってまいりましたね。

ところでこのところ、エンタメ産業にまつわるコンテンツ流通チャンネルがスマホの普及効果も相乗して加速度的にクラウドへ集約されつつあると実感させる話題が増えています。

とくに欧米における音楽コンテンツ流通については、GoogleやAmazon、そしてApple等ほぼ全ての主要サービスプロバイダがクラウド形式へ移行しつつあることや、「Spotify」のようなクラウドベースの音楽専門サービスが着実にユーザー数を増加させていることから、1~2年後ぐらいには音楽CDなどの物理パッケージ流通が事実上終了するのではないかと予想させるものがあります。

おそらく音楽系サービサーの間で今一番注目の話題は、YouTubeが有料音楽サービスをいつどのような形でローンチするかということでしょう。

サービス名は「YouTube Music Pass」、噂されるYouTubeのサブスクリプション型音楽サービスの機能が明らかに(All Digital Music 2013/11/28)

レポートによれば「YouTube Music Pass」では、サブスクライバー(有料会員)は数百万以上の楽曲を広告無しで、オフライン環境でも、他のアプリを利用中でもバックグラウンドで再生できる模様。All Digital Music
YouTubeの有料サービス、年内リリースは厳しい!(APPREVIEW 2013/12/4)

米All Things Dによると、YouTubeはアーティストなどと既に必要なライセンス契約を結んでいるが、プロダクトの完成度に不満があることから、リリースは2014年Q1に期待が高まっていると発表。月間ユニークユーザーに10億人以上いるYouTubeは、世界最大の無料音楽サービスへと成長。そのため、音楽配信サービスの市場の競合SpotifyやPandoraへの影響も高いと思われます。APPREVIEW
依然として公式な見解はYouTubeからもGoogleからも出ておらず、あくまでも漏れ伝わる情報等からの憶測とその伝聞でしかありませんが、こうしたサービスが現在準備中であることは間違いないのでしょう。

実はGoogleは既に定額制ストリーミングサービス「Google Play Music All Access」を立ち上げていますが、あまり盛り上がっているという評判は聞きません。その一方でYouTubeを使って音楽を楽しむユーザーは世界的に莫大な数に上ります。日本国内でもYouTubeはすでに2011年の時点でもっとも利用されいている音楽メディアとしての地位を確立しています。

我が国では現在、最強の音楽メディアはYouTubeだ。レコード協会の調査(2011年度)では、「最近、利用した音楽関連サービス」の1位はYouTube(52%)だ。2位がFMラジオ(32.7%)、3位がテレビ(地上波音楽番組 30.8%)となっているMusicman-NET
はたしてYouTubeが有料サービスでも同じように多くのユーザーをひきつけることが出来るのかどうかは今のところ未知数ですが、音楽配信プラットフォームとしてのブランド力だけで考えればAppleの「iTunes」よりも強力かもしれません。実際にサービスが始まった際にどのような反響が起きるのか、今から楽しみにしていたいと思います。

ところで、こうしたクラウドベースの音楽コンテンツ配信ビジネスは、プラットフォーマーや大手レコード会社にとっては将来的に大きな収益を生み出す可能性があるとしても、音楽作品を作り出す個々のクリエイターにまでは利益を還元できないのではないかという疑問が提示されています。

デヴィッド・バーンが音楽ストリーミングの「 Spotify 」を批判、ネットで話題に(All Digital Music 2013/10/17)
ロックミュージシャンのベック、音楽ストリーミング「 Spotify 」の問題点を指摘(All Digital Music 2013/11/18)

こうした疑義に対して、ストリーミング配信サービス会社のSpotifyは同社の詳細な運営状況をWebで公開するという形で対応していくと発表しました。

Spotify、ロイヤリティー支払総額が10億ドルに--ビジネスの透明性向上を狙いウェブサイト公開(CNET Japan 2013/12/4)
ミュージシャンに見て欲しい!音楽ストリーミング「 Spotify 」、支払う楽曲使用料の仕組みを説明するサイトをオープン(All Digital Music 2013/12/4)

ここで改めて明らかになっているのは「ストリーミング再生1回につき支払われる平均ロイヤリティは0.006ドルから0.0084ドルの間である」ということです。もし仮に700ドル(約7万円)を稼ごうと思ったら10万回のストリーミング再生が必要で、幸運にも毎月10万回のストリーミング再生を1年間継続できたとしても年収はわずか80万円前後という勘定になります。この数字を見ると、ストリーミング再生が基本のクラウドな時代に音楽コンテンツの制作だけで生計を立てるのは、クリエイターにとってはかなり難しいことなのかもしれません。

先にも書きましたが、今のままでいけば音楽コンテンツ流通は今後ほとんどがクラウドベースなものへ集約されていくことでしょう。そうなるとクリエイターはこれまでと同じ収支システムにこだわっていては、コンテンツ制作専業だけで食べていくことはほぼ不可能になるかもしれません。そして、これは何も音楽だけではなく、その他コンテンツ制作に関わるクリエイターにとっても同じようなことが起きそうです。これからの5年くらいのスパンでコンテンツ制作現場におけるクリエイターの立ち位置は大きく変動する可能性があるのではないかと感じています。

まあ、芸事というのは慰みであって、本業は別で構えましょうと言われたらそれまでなんでしょうけどね。