無縫地帯

ネットに記録され消えない「罪」という話(冤罪や中傷含む)

ネットはアーカイブがとっても便利ですが、ささいなネタで炎上していつまでもネットに中傷情報が残ったり、服役を終え社会復帰しようにもネットで犯罪情報が出てままならない、という事例は今後問題になるでしょう。

やまもといちろうです。いきつけの自動販売機が撤去されてて泣きそうです。

TechCrunchでなかなか味わい深いコラム記事が掲載されていました。

検索エンジンは忘れない、象のごとく(TechCrunch Japan 2013/2/18)

いみじくも中川淳一郎氏が「ウェブはバカと暇人のもの」という本を著してからもう4年近くになりますが、SNSが隆盛した今では、ネットはますますバカ発見器として有効に機能するようになりました。手軽に発言できコミュニケートできるサービスが普及したら、手軽に犯罪自慢をしたり、ストーカーや誹謗中傷で暴れたりする連中が出るのは仕方がないことですよね。

そんな状況の中、バカなことをネット上に晒して記録されてしまうと、それが消えずに半ば永久的に残ってしまい、いつまでも検索エンジンで発見できてしまうという現実をどう考えればいいのだろうという、答えの無い長いつぶやきが上記のコラム記事です。いわゆる「忘れられる権利」という奴ですね。

記事の中では、こういった状況に対抗する一つの解決手段として「改名」というものがGoogleのEric Schmidt会長によって提唱された経緯をあげています。当時は質の悪いジョークとして受け取られたが、実は本心だったのではないかというのですね。

しかし、改名もそう有効ではないようです。非道な行為を行った人々がそうした改名を行ったとき、それを見逃さず追い詰める自警団的な活動があるようです。やや長いですが記事をそのまま引用します。

非道な行いをした人々を新しい名前と結びつけようとする、個人特定自警団によるWikipediaスタイルの取り組みだ。画像認識などのツールを使えば、ソーシャルネットワークで異なるプロフィールを持つ人々の、新旧写真をマッチングすることが可能だ。音声や文章のパターンを調べるソフトウェアでウェブをクロールすれば、異なる著者の正確な一致を見つけられる。
似たようなことは、日本国内でも行われています。たとえば、今話題のネット遠隔操作事件で容疑者として逮捕された人物については、改名こそしてはいませんが、いまだ容疑者であり有罪が決定してないにもかかわらず、一旦削除されていた過去の詳細な犯罪歴を参照できる情報が、あらためてネット上に掲載されています。もちろん、これらの活動が合法か違法かという以前に、ネットで消せない過去があったときにその問題以上に開き直って活動を繰り広げて問題を一部に矮小化するか、ネットで検索されるようなことのないようひっそりと暮らすぐらいしかネット上での悪名を制御する方法がなくなってしまうというのが現実です。

【特別再掲】遠隔操作事件片山祐輔(丑田祐輔)容疑者の2005年の連続ネット犯行予告事件の詳細記録(「ネット掲示板 犯行予告 事件一覧」)

こうした形で、一度罪を犯したらずっと晒され続けるという行為がなんらかの犯罪防止に役立つのかどうか、その評価は各人の考え方に委ねたいところですが、一方で、冤罪であることが明かとなっても、なぜか同じようにいつまでも間違った情報で罪を糾弾し続けたい人がいるのもネットの問題です。

やや古い話ですが、スマイリー・キクチ氏が約10年にわたって受けた中傷事件は、まさにそういった事例の一つでしょう。しかも、それをやり続けた人物は、さしたる検証もせず、しかし相応の正義感を持って取り組んでいた人たちも混ざっているわけです。

『突然、僕は殺人犯にされた』(山本弘のSF秘密基地BLOG 2011/12/26)

また、検索のサジェスト機能で発生した中傷事件もありましたが、これに対して米Googleは日本の法律は無効であるとして対応しませんでした。Googleとしては当事者が改名すればそれで済むと考えていたのでしょうか。これをもってGoogleはEvilだ、とも言い切れないですけど、一方でGoogle利用者の中にサジェスト機能による中傷被害者もいるわけです。落としどころがイマイチ見つからない、というのが正直なところでしょうか。

Googleが「日本の法律には従わない」と宣言注目の「サジェスト機能」裁判の行方は(EXドロイド 2012/3/28)

ネット上に記録されてしまった消えない「罪」については、今後SNSのようなものが普及すればするほど、さらに色々と課題が山積みになっていくのでしょう。

以前にも「Facebook、今度は『友達追跡アプリ』リリースで騒動」という記事を書きましたが、Facebookのグラフ検索機能は、ある意味で強力なバカ発見器として機能しそうです。その馬鹿発見機能を私たちに見せしめたグラフ検索ですが、新たに、見知らぬ大人が利用した場合、18歳未満の子供を年齢や場所で特定する検索結果を返さないことになったようです。

Facebook、未成年をグラフ検索しようとする変質者をブロック(TechCrunch Japan 2013/2/18)

この話だけを読めば、子供を保護する機能が追加された「いい話」のように見えますけれど、つまりは子供の間はいろいろと保護されているけれど、そうした保護されていることをいいことにして若気の至りをたくさんFacebookに書き込む癖がついてしまうと、あとでしっぺ返しがやってくるなんていうこともありそうです。

それもこれも、私たちは思いのほか不用意なことを言ってしまう存在であるという自己認識の上でウェブでの発言を律していかないとならないわけですが、やっちまったあとにネットは消せない、いつまでも記憶に残る、蒸し返す人がいるというのも現実です。おそらくは、今後数年かそのくらいは解決せず放置されることになるかとは思うのですが、どういうきっかけでこの手の話が法改正の議論の俎上に乗るだろうというのは興味深いところであります。