無縫地帯

今度はドコモが個人情報問題で天気晴朗なれど波高し

ドコモによる第三者への利用者GPS情報の提供が、総務省により待ったがかかりそうです。ついにスマホによるプライバシー問題がお茶の間に届く日が近づいているのでしょうか。

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本稿につきまして、高木浩光先生より直接解説ツイートを頂戴しました。別便でエントリーを書きましたので、こちらをご参照ください。

高木浩光先生からドコモ個人情報問題の濃厚解説ツイートが来たる
山本一郎です。清廉潔白です。

ところで、我らが高木浩光先生によってここしばらくTwitter等で機会があるごとに指摘されていたスマホにまつわるプライバシー問題の一つが、遂に新聞やテレビ等の報道機関にも話題として取り上げられ、いよいよ表舞台で議論されることになるようです。

知らぬ間「同意」?ドコモ「位置提供」第三者へ(読売新聞 2013/11/19)
位置情報提供、説明改善を=地図アプリでドコモに―総務省(時事ドットコム 2013/11/19)
位置情報提供「知らないうち」に同意総務省、ドコモに改善要請(FNNニュース 2013/11/20)

NTTドコモはスマートフォンなどで得た50万人分の「位置情報」を第三者に提供しているが、総務省は先月、「個人情報保護法上必要な同意の表示がわかりにくい」とドコモに指摘。同社は来月にも表示を改めると同時に、既存の利用者に同意を取り直す方針だ。現在、同法の見直しを進める内閣官房の検討会でも議論になりそうだ。(中略)提供される情報からは氏名や住所が削除され、代わりに識別用のIDが付けられるが、総務省消費者行政課は「識別データを一定期間追跡すれば住所や職場を特定できるので、個人情報にあたる」としている。読売新聞
本件の経緯については、他に先がけて報道した読売の記事が詳しいですが、問題のポイントとしては、ドコモが個人情報に当たるGPSで取得された位置情報を第三者に提供していたのですが、この情報提供行為についての許諾をドコモはエンドユーザーから得ているつもりであったのに対して、総務省はドコモのその許諾のとり方は適切ではないと判断したわけです。

ドコモは「蓄積情報をゼンリンデータコムに提供することがある」と記載しているが、記載はA4判11枚にわたる利用規則の8枚目に出てくるだけで、同省は先月中旬、「わかりにくい場所な上、表示も少しだけで、不親切」と指摘した。読売新聞
まぁ、誰も読まないような小さな文字で埋め尽くされた11ページにも渡る利用規約書の最後の方に申し訳程度で書かれた文言だけでは、なかなかそれに気付く人は多くないでしょう。もっとも、ドコモとしては書いてあるのだから読まないエンドユーザーが悪いという論法であることは言うまでもないでしょうし、それが誉められたことであるかどうかはさておき違法行為ではありません。

同意の取り方を巡っては現在、統一的な基準がない。金融庁の指針では「同意書面の文字の大きさを変え、他と明確に区別されるのが望ましい」と規定。一方で経済産業省の指針では「書面で同意を取る」としているが、文字の大きさや文言の位置については触れていない。読売新聞
このあたりはドコモへ企業としての過大な善意が求められていたのかもしれませんが、ある意味でユーザーの無垢な期待には応えかねる残念な事例となってしまったようです。

ちなみに、細かい話となりますが、高木先生のツイートによれば、時事ドットコムで説明されている内容には一部誤りがあるようです。まぁ、業務委託であったかどうかで問題の本質が変わるわけではありませんが。

誤報。業務委託先に提供することについて、表示(通知・公表)する義務はない。(正しくは「実態が業務委託ではなかった」。)
www.jiji.com/jc/c?g=eco&k=2013111900925 …
「業務委託先に提供することを利用規則に明記していないとして」Hiromitsu Takagi
今後ドコモとしては総務省からのお達し適うべく粛々と利用規約の改定を行った上で、現行ユーザーの同意を得ていくことになるのでしょうが、ここで気になるのは、位置情報を第三者へ提供することに同意しないユーザーに対してはどうするのかということです。過去に遡って月額使用料を返金したりするのでしょうか。読売の記事によれば当該サービスで位置情報が収集されていたと考えられるのは50万人ですが、サービスそのものはガラケーの時代となる2010年9月から提供開始されていますから、これまでに徴収された累計使用料はかなりの額になりそうです。

報道発表資料:「ドコモ地図ナビ」サービスの提供開始について(NTTドコモ)

これが米国のような訴訟大国であればそれなりに大きな事件へも発展しかねませんが、そういうことはまず起きない日本でドコモも良かったですね。

それにしても、5分ごとにGPSから詳細な位置情報を収集するようなアプリが常にバックグラウンドで動作していたら、スマホの場合いくら大きなバッテリーを搭載していてもすぐに消耗してしまいそうです。そういう意味でもあまり素質の良くないアプリだったのではないかと思った次第。

まあ、これも今後広くプライバシーポリシーのオプトイン・オプトアウトの問題として議論され、政府としての統一見解が出て業者右へ倣えをすることになりましょう。その詳細は後日書くとして、日本人にとって一番良い方法で妥結することを祈念いたします。