無縫地帯

テレビ番組無断配信ビジネスに最高裁がNO! …の影響とか

局地的に騒ぎになった、日本のテレビ番組海外転送サービス。最高裁で著作権侵害が確定しましたが、クラウドだネット技術だ先端技術を認めない司法はけしからん、と叫ぶ以前にそもそも無断で有償配信すんなという話。

やまもといちろうです。あまりの強風に煽られ、ヅラを飛ばされて追いかけるおじさんを見ました。風のいたずらって奴でしょうか。朝から、幸せな気分になれました。

ところで、今後の国内クラウド・コンピューティング事業展開に対しても影響があるのではないかと一部で評されている2件の訴訟について、最高裁がいずれも上告を退けたことから、サービス事業者側の敗訴が決定しました。

TV番組の海外転送サービス、著作権侵害と確定最高裁(朝日新聞 2013/2/14)

これは…。敗訴した事業者からは以下のようなコメントが出ています。

新しいビジネスモデルの技術的特徴や開発努力を理解しない最高裁決定は不当。国際常識から遅れている日本のネットビジネスに関する危機的な状況を省みない極めて遺憾な判断だ
まあ、そう言いたくもなるのが人情ですよね。負けちゃったんだからな。で、今回の決定は非常に興味深いものがあります。「著作権」というやや扱いが難しい部分においてどうかという議論はさておき、はたして、本当に日本のネットビジネスに危機的な状況をもたらすようなものなのでしょうか。

まずは、訴訟の原因となったネットサービスの2つですが、いずれも一つ大きな特徴があります。それは、個人ユーザー向けのネット接続機能付きテレビ録画機器を、サービス事業者が個人ユーザーに成り代わって有料で管理することによって、日本のテレビ番組を海外でも視聴可能としていたことです。

ここで注意したいのは、個人ユーザーが同じ機器を使って、自分自身のために海外で日本のテレビ番組を観られるようにしても、今のところ日本の法律で罰せられることはないという点です。

ですが、サービス事業者という第三者が、有償で複数のユーザーに対してネットを介してテレビ番組を観るための便宜を供与したために問題が発生しました。

テレビ番組はテレビ局が権利をもつ著作物です。その著作物を利用して、金銭の授受が発生する商売をする場合には、権利者に利用許諾を得てなにがしかの対価を支払うのが一般的な商慣習ですが、今回の2つのサービス事業者はその部分をクリアできていないということになります。

逆に言えば、もし、これらのサービス事業者がテレビ局から許可を得ていれば、まったく合法的なビジネスとして成立していたのかもしれません。テレビ局がこういった事業を許可したかどうかはまた別の話になりますが。ただ、交渉の余地は山ほどあったと思うのです。野良でやったら、そりゃ問題になるよなあとしか思わないわけですね。

さて、国内クラウド・コンピューティング事業に影響があると危惧されてしまう理由は、今回の件で利用された機器が、テレビ番組を録画してネット配信するという限られた用途である点を除けば、いわゆるデータサーバーと同じ仕組みだからです。

動画も含めて、何でもデータを保管して配信できるサーバーが起点となるクラウド・コンピューティングでは、今回の2件の訴訟と同じような理由で誰かから訴えられる可能性があるのではないかという理屈があるわけですね。そう言いたい気持ちは確かに分かります。

しかし、クラウド上で自分が権利をもたない著作物を勝手に流通させることは、クラウド・コンピューティング事業の未来とはあまり関係ない話ではないでしょうか。っていうか、海外で日本のテレビを観られるように代行する業者の問題というのは、極論すれば技術上の話じゃなく、あくまで既存の著作物の運用の話なので、テレビ版自炊業者が摘発されるというのとあんま変わらんというのが実情です。

もし、先にも書いたように、クラウドを利用して海外で日本のテレビ番組を簡単に観られるようなビジネスを始めたければ、テレビ局と権利問題をクリアした上で行えば良いわけです。実際、ネットを利用して音楽や動画を配信するサービス事業者の多くは、レコード会社や映画会社、テレビ局といった権利者と正規の提携を行っています。

「Hulu」が関西テレビ・毎日放送と提携――全7作品を順次配信(ITmedia 2013/1/31)

また、エンドユーザーがデータをアップロードして利用するタイプのクラウドサービスであれば、データの著作権についてはユーザー自身がその権利を担保することが前提となっている場合がほとんどです。

たとえば、Googleの利用規約を見ると、なんだか遠回しな書き方になっていますが、つまりこれは、何か著作権的な問題が発生した場合には、ユーザー自身が責任持ってなんとかしてよねとやんわり言っているのと同じことです。ナイス責任回避。

本サービスの一部では、ユーザーがコンテンツを提供することができます。ユーザーは、そのコンテンツに対して保有する知的財産権を引き続き保持します。つまり、ユーザーのものは、そのままユーザーが所有します。
一方で、一旦アップロードされたコンテンツはGoogleが自由に使えるとも読めるような規約内容にもなっているため、利用に際しては十分に注意しないといけないことが指摘されてもいます。

グーグルの利用規約について注意すべきこと(弁護士ドットコムトピックス 2012/6/6)

結局、どこまでが許されて、どこから先が許されないのかは、その都度確かめていくしかなく、今回の2つのサービスについてはビジネスとして筋が悪かったということでしかないのかと思います。まさに、少し前に話題となった学生ベンチャーの件と同じですね。そんで、今回の2つの訴訟とも最終的な決着がつくまで、ずいぶん長い時間(5~6年でしょうか)を費やしてしまったのが、なんともやるせない話ではあります。ちなみに、当初はサービス事業者側が裁判で有利に展開していたこともありました。まさに諸行無常を感じる次第です。

テレビ局はなぜ負けた?津田氏に聞くロクラク事件(ASCII.jp 2009/2/16)

そんな中、我らがmixiがフジテレビとの間で共同事業を発表!もうね、この「なんでこのタイミングでそことそういう話をしているのか」という、侘び寂びの心が溢れそうです。

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このどこまでも微妙な感じが最高です。