私的録音録画補償金でまた色々と盛り上がっているようです
「私的録音録画補償金」制度について、新たにデジタル時代に相応しいルールを作ろうという提言が発表されたようですが、そもそも現行のテクノロジーや商流の中で必要性がイマイチ感じられないのが難点です。
山本一郎です。会社に置いておいた私の眼鏡のレンズにプリキュアのシールを張った社員の方、怒らないから名乗り出てください。
ところで、事実上その機能が停止に追い込まれつつある「私的録音録画補償金」制度に関して、新たにデジタル時代に相応しいルールを作ろうという提言が発表されたようです。
「機能不全の録音録画補償金、一新を」85団体が提言(日本経済新聞 2013/11/14)
「複製機能」を私的録音録画補償金の対象に、権利者団体が提言(INTERNET Watch 2013/11/14)
「新たな補償制度では私的複製提供サービスも対象に」、著作権団体が提言(ITpro 2013/11/14)
私的複製補償金で著作権団体が提言(NHKニュース 2013/11/14)
まず、「私的録音録画補償金」とはなんぞやという話ですが、これは日経の記事によると以下のように説明されております。
消費者が個人利用の目的で音楽やテレビ番組などを複製できる「私的録音・録画」は、著作権法で合法だと定められている。ただその際にはコンテンツの権利者に対価を還元すべきだとして、著作権法などによる「私的録音録画補償金」制度で権利者を保護してきた経緯がある。日本経済新聞この制度が出来たのは1992年と今から約20年前。それ以前はこういう概念はありませんでした。乱暴に解釈すると、AV機器の性能が向上することで音楽や映像コンテンツのコピーを簡単かつほぼ完璧に近い形で実現できてしまうことから、権利者が自分達の儲けが減るんじゃないかという理屈から政府に働きかけ著作権法を改正して成立させた制度です。
ところが、デジタル機器がさらに進歩してDRMが実用化され、コピー行為そのものを制御できる形になったため補償金は不要ではないかという話が出てくるわけです。最終的に最高裁まで争う裁判では権利者側が負け、デジタルチューナーしか搭載していないDVDレコーダーは補償金の対象から外されました。これが補償金制度の実態に大きな変化をもたらしたようです。
現行販売されている機器もデジタル放送専用機に移行したことから、以前には最大で年間25億円程度あった私的録画補償金の徴収額は、2013年上半期には0円になったという。また、私的録音補償金についても、音楽用CD-Rなどからの補償金があるものの、2013年上半期では9400万円と、ピーク時の4~5%程度に激減しているという。「複製機能」を私的録音録画補償金の対象に、権利者団体が提言この数字を見ると確かに補償金収入だけを主たる収入として事業設計していたりすると壊滅的な事態です。もっとも、本来の補償金という考え方からすれば、それだけを主たる収入として事業設計することはありえないはずですが。
現状を前向きに解釈すれば、DRMを適用できないレガシーな機器がなくなり、ちゃんと管理できる機会が増えた結果、補償金が発生しなくなったという見方も出来そうですが、権利者の皆さんはそうはとらえていないようです。
で、今回の新しい提案でポイントとなるのは以下です。
提言のポイントは2点ある。1つは、補償の対象を機器やメディアではなく「機能」としたことだ。(中略)もう1つのポイントは、複製の対価を支払う義務を「機器などを提供する事業者」としたことである。日本経済新聞つまり、録画・録音できる製品やサービスを提供している企業全てに補償金を要求しようというスタンスのようです。面白いですね。極論としては、たとえば留守番電話機能でも音楽は録音できますから、そうした音楽録音を専らの用途としていない機器についても自動的に補償金の対象に加えることが可能と解釈できなくもありません。さすがにそこまで乱暴なことになるとは思えませんが、かなり含みをもたせた提案であることは間違いなく、「機器だけでなくパソコンやスマートフォン(スマホ)向けのソフトウエアやネットサービスも、一律に補償制度の対象としたい考え」(日経新聞)だそうです。
一方で昨今のデジタルコンテンツサービスにおいては、「マルチデバイス」という概念が生まれており、消費者が一つのコンテンツを購入すれば、それを複数のデバイス上で利用できることが当たり前となりつつあります。
映像ビジネスの革命なるか?ディズニーMovieNEXの挑戦その戦略を聞く(アニメ!アニメ! 2013/11/11)
“MovieNEX”を購入すれば、Blu-rayやDVDは勿論、デジタルコピーを通じて、PC、タブレット、スマートフォンでいつでも、どこでも作品が楽しめる。アニメ!アニメ!上記のディズニーのMovieNEXの場合には、最初からエンドユーザーが私的目的でコピーすることを前提として製品が作られています。こうした試みは今後さらに多くのコンテンツメーカーが取り組むことでしょうし、すでにGoogleやAppleなどは欧米市場において最初からマルチデバイス前提のコンテンツ配信サービスを実施しています。このような時流に対して、先にあげた新しい私的録音録画補償金の考え方はどうも逆行しているように思えるのですが、どうしたものでしょうか。
穿った見方をすれば、消費者は予め私的コピーして利用することが前提となっているコンテンツしか購入していないとしても、そのコピーを行うための機器には私的録音録画補償金が課されており、消費者は本来払うべき必要がない対価を支払わされるということにならないでしょうか。また、逆に私的録音録画補償金を課している権利者側はそうした状況にフリーライドしているという解釈も出来てしまいます。まあ、それも極論となりそうですがどうもすっきりしません。
すっきりしないと言えば、この新しい私的録音録画補償金の提案をしている団体の名称は「Culture First」なんだそうです。団体のWebサイトへ行くと、「Culture First~はじめに文化ありき~」と書かれています。
Culture First
文化を守り、育てていくために。いま、なにが必要か。なにが起こっているのか。私たちはCULTURE FIRSTで、考えます。Culture Firstうーん、どうなんでしょうね、よく分かりません。
っていうか、分からないってことにしておけ!