無縫地帯

ソーシャルゲーム業界分析から見る未来予想図

そろそろ国内市場の成長鈍化が見えてきたソーシャルゲーム業界。事業環境が変わり始め、その高い利益率と成長率を維持したまま事業展開することが一層困難になりつつあります。国内鈍化なら海外へ、とはなかなか…。

やまもといちろうです。為替で勝って元気復活です。

昨晩、コンソールゲーム業界が苦境であるという話を書きましたが、そのライトユーザーをごっそり奪っていったソーシャルゲーム業界のプラットフォーム事業者2強の現状と今後に関する分析記事がSankeiBizに出ていました。

ソーシャルゲームに陰りアイテム商法のツケ、2強の活路は…(SankeiBiz 2013/2/13)

この記事だけを見ると2社共に不振と読めてしまいますが、実際にはグリーが2013年6月期通期の業績予想を下方修正したのに対して、DeNAは売上が順調に推移しており年間配当の増配も発表しているように、そのニュアンスはやや異なっています。

どのような市場も青天井に成長するわけではなく、当然成長が近い将来鈍化するので、その穴埋めに海外市場を開拓しようとして、しかしなかなかそう簡単にはいかないよね、という話であります。ぶっちゃけ、日本市場はガラケーアイモードに飼い慣らされたユーザーがケータイで小額課金に抵抗のない環境を作っており、海外に比べても人口の割に市場がデカい分「日本で成功しても海外ではゲーム習慣や文化づくりから手がける必要がある」ところに難点があります。

グリーが業績予想を下方修正新作リリース延期、海外ゲーム不振で(ITmedia 2013/2/12)
DeNA、今期は40%増収増益で着地へ株主優待でベイスターズ観戦も(ITmedia 2013/2/7)

このあたりことについては、やはり同じタイミングで公開された東洋経済の記事の方が、より具体的に両社は何が違うのかを指摘しており、DeNAの現時点での強みはIPタイトルを活用できたことにあると分析しています。

グリーとDeNA、実らない海外投資(東洋経済 2013/2/13)

牽引役はIP(=Intellectual Property。知的財産)タイトルと呼ばれる、開発会社が提供するゲームだ。
さて。両記事で一番興味深いのは、いずれも今後の国内ソーシャルゲーム市場は収益環境が今よりも厳しくなるだろうという観点から論を展開している点です。SankeiBizでは、ソーシャルゲーム市場の成長鈍化について具体的なデータを引用して紹介しています。

国内市場の成長鈍化は著しい。矢野経済研究所によると、13年度は12年度見込み比10%増の4256億円と拡大を維持する見通しだが、10年度の約3.8倍、11年度の約2倍、12年度見込みの37%増と、年を追うごとに伸び率は縮小している。
このような状況をふまえて、より大きな海外市場での需要開拓が必要という論旨になるわけですが、当初、グリーもDeNAもまさに鳴り物入りの勢いで海外展開へ打って出た割には、まだまだ現実のビジネスは厳しいようで、SankeiBizには以下のような両社の声が記されています。

海外事業の黒字化は「1~3月期より先」(DeNAの守安功社長)、「今年度中の黒字化は見えていない」(グリーの秋山仁コーポレート本部長)と、めどが立っていない。
東洋経済でも「昨年半ばには『世界を獲る』と両社幹部が息巻いていたが、情勢は明らかに”トーンダウン”をしている」という手厳しい表現が用いられています。海外でのコンテンツビジネスを行っている他の業種においては、そこまでの利益率は出ずともしっかりとした展開を志すことで収益は上げられる状態にあります。それもあって、正しくは「GREEやDeNAが日本で事業で頑張って上げられる利益率ほどには、海外事業では利益は出ないかもしれない」といったところなのでしょう。

海外展開で両社が苦戦している大きな要因の一つは、ソーシャルゲームが元々ガラケー向けSNSプラットフォームとしてのメリットを活かして急激にシェアを拡大したのに対して、スマホのゲーム市場はAppleやGoogleなどのアプリマーケットベースで展開しており、国内ガラケーで必要とされたゲームのための特殊なプラットフォームが海外ではあまり必要とされなかったことにあるでしょう。したがって、GREEでもiPhone/iPad向けゲームをリリースするにあたっては、Appleにかかる30%の「Apple税」に加えて、GREEがゲーム提供業者に求めるプラットフォーム利用料を取る形になりますので、必然的にゲーム提供者側に得られる売り上げは見た目の6割弱になってしまいます。

先の東洋経済の記事でも、スマホ向けアプリ開発会社にとって、グリーやDeNAを利用するメリットはないと一刀両断されています。まあ、当たり前のことですわね。

わざわざ4割の手数料(携帯キャリアへの手数料1割含む)をグリー、DeNAに払うよりも3割の手数料で済むアップストア、グーグルプレイの方が魅力。特に海外展開を行う上では、グリー、DeNAのプラットフォームに出す意味はない
以下のブログでも同様の分析がされると共に、さらに海外ゲーム市場と国内ゲーム市場のユーザー層の違いが大きく影響するだろうとし、米国ではスマホを使って大人はゲームをしないから、ソーシャルゲームに大量の金が注ぎ込まれるチャンスも少ないだろうと指摘しています。

ソーシャルゲームは海外で成功するか? - 立ちはだかる2つの壁(仙人の祈り 2012/11/23)

また、スマホゲームの課金に対する海外ゲーマーによるコラム記事を読むと、やはり日本のソーシャルゲーム的な課金のあり方が海外市場で受け入れられるのは難しそうなニュアンスに読めます。

基本プレイ無料と少額決済は悪の雑草なのか?(現地直送!北米ゲーム事情リポート 2013/2/12)

ここまで露骨な嫌悪感をF2P(基本無料の課金システム)やアイテム課金に向ける記事は珍しいんですが、ただ一般的な欧米のゲーマー層は多かれ少なかれこの感覚を強く持っている消費文化であるのもまた事実です。さらに、欧州でのゲーム展開においては、日本の数倍は「無料で遊べる時間」や「一回あたりのプレイ時間」を用意しないと定着してくれないというジレンマがあります。このような状況の中で、はたしてグリーやDeNAに海外事業で成功できる可能性はまだ残されているのかどうか、生暖かく見守りたいですね。

結局、GREEもDeNAも、相当考えてビジネスはしているのは間違いないものの、まだAppleやGoogleの手が及ばない東南アジア向けや一部欧州向けなどに先に出て行って、より割安でしっかりとしたプラットフォーム事業を根付かせて将来の収益源として大きく育てる意向はあったのでしょう。しかし、それ以上のスピードで現地のキャリアもコンテンツ事業者も事業モデルをキャッチアップし、そう簡単にはプラットフォーム化させてくれないという実情が出てくると、「国内の成長率鈍化分は海外売り上げの増大で補う」という成長の未来予想図は大きくことなってくるわけです。

一方で、収益性や成長率に不安、といっても今期経常利益は300億円以上あるわけで、キャッシュは日本市場でまだまだ稼ぎ出すことができます。問題は、その先の展望が描きづらくなったとおいうだけのことなので、きちんと風紀を是正され、消費者のこともしっかりと考えた事業環境さえできれば、再び新しいモデルが出てきた際にいま以上の成長ができるかもしれません。

mixiのことは触れないであげてください。