無縫地帯

違法ダウンロード刑事罰化で期待した効果は出なかったという話

ネット上に違法にアップされた音楽や映画などをダウンロードすると、刑事罰対象となる法律「改正著作権法」が施行されて1年が経ちました。アップロード側だけでなく利用者も、ということで物議を醸しましたが…。

山本一郎です。サンダル履いて出歩いてたら足をぶつけて爪が半分取れてしまいました。サンダルを刑事罰化したいです。

ところで、ネット上に違法にアップされた音楽や映画などをダウンロードすると刑事罰対象となる法律「改正著作権法」が施行されて1年が経つということで、NHKが同法にまつわる現状をニュースで報道しておりました。

刑事罰適用1年 売り上げ回復せず(NHKニュース 2013/9/29)

ファイル交換ソフトの利用者が減少するなど一定の効果が見られる一方で、CDや音楽配信の売り上げの回復には十分につながっていないことが分かりました。(中略)違法ダウンロードによって大きな損害が出ているCDやDVDなどの音楽ソフトの売り上げは、制度が変わった去年10月からことし6月まででは前の年の同じ時期より5%増えましたが、ことし1月から先月・8月までの最新のデータでは前の年より7%減少しています。NHKニュース
去年10月~今年6月までは売上が増えた一方で、今年1月~8月までは売上が減ったというデータですが、これは単純に売れるモノがあったりなかったりでその結果として売上が安定していないというだけの話にも見えますが、日本レコード協会ではこの理由をすべて違法ダウンロードによる損害と見ているのでしょうか。そうだとすると、なんとも不思議な気がします。

また、「レンタルの利用が増えるなど法改正の効果はあったが、お金を出して買うことにはなかなか結びついていない」という見解もあるようですが、つまりはレンタルで十分であり、買ってまで音楽は利用しないというユーザーが増えているだけという話にも見えます。レンタルで済まされてしまうのは、違法ダウンロードの問題とは関係なく、消費者が買ってまで欲しいという価値観を提供できていないだけのことだと感じます。

興味深いのは、NHKの報道によると違法ダウンロードの罪で「警察が摘発した例はまだありません」ということですが、実は過去に一件そうした罪で逮捕できたであろう事例がありました。

違法DLしていたことが怖くなって自首した男が違法UPの罪で逮捕される(楽しくないブログ 2013/4/14)

違法ダウンロードに刑事罰がつくようになっても未だに警察は逮捕していない。アップロード側を取り締まっているだけな上、その逮捕者も驚くほど少ない。前例が無いことはやりたくない警察だが、今回男は違法DLをしたと自首してきたのだ。警察の立場としてはこの男は捕まえなければならない。しかし前例は作りたくない。そんな警察がとった苦肉の策が「アップロードでの逮捕」である。4ヵ月前という期間は検討していた期間だと思われる。楽しくないブログ
警察がどのような思惑であったのか、こちらのブログ記事の推測が正しいのかどうかはさておき、違法ダウンロードの罪をもってして逮捕しなかったという事実だけは確かです。

司法の現場でも、この違法ダウンロード刑事罰化については議論が多いようです。

「違法ダウンロード刑事罰化」規定をめぐる解釈論の終着点。(企業法務戦士の雑感 2013/8/1)

今後、不幸にも具体的な事例が現れた時に、この“謙抑的な”解釈がそのまま維持されるのか、それとも、現実に直面して初めて顕出する論点がまだ新たに出てくるのかは分からないけれど、個人的には、ここで示されている解釈論を一応の終着点として、違法ダウンロード刑事罰化規定をめぐる一連の議論が落ち着きを見せてくれることを願っている。企業法務戦士の雑感
先に紹介した違法ダウンロードをもって自首した事例は、まさに「不幸にも具体的な事例が現れた」話でもあったわけですが、つまりはそこで「“謙抑的な”解釈」が維持された例ということでもあったのでしょうか。

ちなみに、違法ダウンロードの動向を測る一つの目安として考えられるネットのトラフィックについては法の施行直後は下落したものの、その後はまた以前の勢いに戻りつつある傾向も見られるという報告があります。

違法ダウンロード刑事罰化は一時的な心理効果しかなかった?(Geekなページ 2013/9/5)
違法ダウンロード刑事罰化はあまり抑止効果になっていないらしい(楽しくないブログ 2013/9/6)

ISPの方々の「肌感覚」としても、「違法ダウンロード刑事罰化の効果は一時的なものだった」という話は良く耳にします。 特に大きな事件等が発生しなければ、今のところは日本のインターネットトラフィックは増加していくのではないかと思える今日この頃です。Geekなページ
これは当然の結果といえる。何故なら警察は違法化した無断ダウンロードに対し、一切動きを見せないからである。それどころか違法DLの罪を自首した人物を違法UPの罪で逮捕したりしており、警察が違法DLによる検挙に異常なほど及び腰であることを行動で示している。抑止力がないのも当たり前である。楽しくないブログ
これは一番最初に挙げたNHKのニュースにある「ファイル交換ソフトの利用者が減少」という報告とは矛盾しているようにも思えますが、つまりはカジュアルな違法ダウンロードユーザーは減っても、最初から確信的な形で違法行為をする者の数はあまり変わっていないということかもしれません。

さて、レコード協会はNHKのニュースの中で今後も「違法ダウンロードについての啓発活動を続ける」と答えていますが、はたしてどのような形で啓発活動を展開するのでしょうか。

「世間で最も効果のある秩序の保ち方は『見せしめ』での逮捕である。恒常的に、大量に割れ行為をしている馬鹿を適当に全国からピックアップし、同時に逮捕すればよいのである。それを何度か繰り返せば驚くほど違法行為は減るだろう」(楽しくないブログ)という過激な意見もありますし、また、我らが津田さんもTwitterでぼそっと以下のようなことをつぶやいています。

次の段階はユーザーの見せしめ逮捕だろうな。 / “刑事罰適用1年も売り上げ回復せずNHKニュース”津田大介
ただ、そんな見せしめ逮捕を本当に実行すれば、音楽業界は多くのユーザーから嫌われる可能性があります。音楽は嗜好品であり生活必需品ではありませんから、人から嫌われてしまえばそれが直接売上にも悪い影響を及ぼすのではないかと思います。もっとも、この法律が実現したのはレコード業界等の熱心なロビーイングの賜物らしいという話も耳にしますから、それを実際に行使してみたらどうなるのか、その結果を自分達の目で確かめてみるのも悪くはないかもしれません。

もちろん、音楽業界自体はすでに売り上げの低迷を経て再編や本業の入れ替えを行い、そういう転身を行ってうまくっている会社も存在します。わざわざ衰退して立ち直る兆しの乏しい音源の販売にすがるよりは、アーティストを活用した新たなビジネスへ展開していくほうが望ましいとはみな思っているでしょうね。