クールジャパンとか騒ぐ前に知るべき、中国のオンラインゲーム業界で起きていること
クールジャパンも含めて、アベノミクスの成長戦略について議論が湧くことが増えておりますが、成長産業を育成するだけでなく、市場を開拓することも大事です。
山本一郎です。三男の夜泣きからのボンバーマン的長男次男の深夜起床攻撃で疲弊しております。
ところで、先日wirelesswireに中国のオンラインゲーム市場で中国勢、とりわけテンセントが席巻している市場環境についての記事が上がっておりました。
中国オンラインゲーム市場シェア57%のテンセントが世界を飲み込む日(wirelesswire 13/9/11)
ゲーム産業と言えば、日本は伝統的にお家芸的に強いと語られてきたものの、ここのところのAAAゲーム(制作費20億円以上)特化の据え置き機向けゲーム環境で劣後し、現在はケータイ向けソーシャルゲーム・カジュアルゲームバブルが勃発して国内市場だけが盛り上がるというオチとなって国際競争力という観点からは若干辛い状況になっているのはご承知のとおりです。
大作志向と一口に言うと聞こえはいいんですけど、日本人が日本市場だけで何十億もの市場を10タイトル以上リリースするなんてことができるはずもなく、結局は英語圏の市場でもしっかり足場を築いてゲームソフトウェアを輸出していかない限り、クールジャパンどころかフリーズジャパンになってしまうわけですね。それが垂直統合だろうが欧米系パブリッシャーに乗っかる仕組みだろうが日本発のコンテンツにどういう期待感を抱かせるか、しっかり売っていくかというマーケティング発想がとても大事でありまして、そこが欠落してしまうとなかなか国内のスタジオ・デベロッパーも立ち行かなくなるのでありましょう。その意味では、いま我が世の春を謳歌しているソーシャルゲームベンダーも過去のi-modeバブルを考えるに次の展開もしっかり考えておかないと落日は早かろうと思うわけです(戒め)。
先日も、ヤフーニュースにこんな記事を寄せさせていただいておりました。
「クールジャパン」は民間主導でいいんじゃないの
で、上記の話なんですが、結局のところ我が国のゲーム産業は中国市場では1%の確保もできていない現状があります。平たく言えば、非関税障壁によって中国市場から日本のゲーム会社は事実上のパージを食らっているわけですね。もちろん、上記シェアというのはパブリッシャーのシェアであり、中国系パブリッシャーが日本のスタジオやデベロッパーに制作を発注しているケースもあるのですが、残念なことに中国のゲーム会社と日本企業が組んでうまくいったことはほぼ皆無の情勢です。
では、日本企業が中国市場への進出に手を打っていなかったかと言うと、そんなこともないわけです。
グリーとテンセントで中国携帯SNSユーザー3億人に無線ゲームを(サーチナ 11/8/5)
スクウェア・エニックスとシャンダゲームズ、オンラインゲーム分野における戦略的提携に合意(スクウェアエニックスIR 10/9/6)
成長著しい中国市場でのゲーム事業の展開を目指した各社は、中国大手ゲーム会社との連携を目指して様々な作戦を取ったんですけれども、結論からいうと、ほとんどの試みは失敗に終わり、日本企業は中国市場を確保するどころか投資資金も回収できないまま市場から叩き出されている、という現状があります。
No. 2116テンセント、GREEとの業務提携解消(Skipper_John(石井良宗)の中国ビジネス・ブログ 13/5/24)
グリーの動きが分かりやすかったので、まるでグリーだけが失敗したかのように読めてしまうかもしれませんが、実際には中国に進出しているゲーム会社で、制作拠点としての稼動はできても中国人相手のゲームビジネスで大規模な成功をしているという話はあまり耳にしません。事実上、日本企業はゲームビジネスにおいて有望であったはずの中国市場から締め出されている形になるわけですね。
さて、このような状況で「日本を知ってもらおう」という広報戦術に特化している(ように見える)クールジャパンが中国市場の戸口をこじ開けることはできるのでしょうか。それ以外にも、パクリ問題その他さまざまある状況で、適切な市場開放を促し、知的財産の確保・保護が可能になる環境づくりをどこまでできるのか、という話であります。
業界のセカイセカイ病の話(修正あり)(やまもといちろうブログ 12/1/24)
閉鎖的な市場環境を指摘し、日本企業の知的財産が守られるような活動を目指して、WTO違反でも何でも言うべきことはきちんと言うのが通商政策に最低限求められていることであって、海外に出かけていってお役人さんが日本のコンテンツは素晴らしいって力説することは後回しでいいんじゃないかと思うんですが、如何でしょうか。